職務発明訴訟における無効主張 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 職務発明の相当の対価請求訴訟において、会社側が「その特許は無効理由がある」ということを主張して支払を免れることができるかという論点がある。


 田村善之「職務発明にかかる補償金請求訴訟における無効理由参酌の可否について」(知財管理2010年2月号)では、この問題を正面から取り上げている。


 もし会社から無効主張ができるとすると、次の問題として、現に会社がライセンス収入を得ていても、それは算定の根拠にしないのか(本来、もらう理由のない利益であるから)という論点が出てくる。

 田村先生は、無効理由の主張を許すべきであり、かつ現に会社がライセンス収入を得ていても、算定の根拠にするべきでないという立場を明確に表明している。


 田村説の当否はともかく、このようなことは大いに議論されるべきである。


 しかし、私の感覚では、会社から無効主張をするのは信義に反するように思われる。また、無効主張をしなくても、発明の貢献度、会社貢献度の主張により、認容額をゼロに近づけていくことは可能であるため、無効主張をどうしてもしなくては困るという必要性をあまり感じない。


 実際、裁判官は「会社から無効主張をするなんてとんでもない」という感覚の人が多いようであり、実は、うちの事務所でも過去にそのような訴訟指揮を受けた経緯から、すべての対価請求訴訟において、無効主張はしない方針に決めている。


 裁判例を見ると、会社から無効主張をして玉砕した事例も見受けられる(差障りがあるのでどの事件とは言わない)。弁護士は依頼者を勝たせることが仕事であるため(もちろん正当な訴訟活動の範囲内で)、裁判官を怒らせたり、反感を持たれるような主張は避けるべきではないかと思う。