著作権判例百選 [第4版] | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 書店に立ち寄ったら著作権判例百選の第4版が出ていた。はてな、第3版が出たのはそんなに前ではないはずだがと思ったが、第3版は2001年であった。


 内容をざっと見ると、判例がだいぶ入れ替わっている。章だては第3版より素直になっており、わかりやすい。判例の選択も、第3版は正直、私も知らない判例がかなり含まれていたが、第4版は素直に選択されている。


 よく見ると編者が入れ替わっている。その影響であろう。


 最高裁昭和63年3月15日判決(クラブキャッツアイ事件)のいわゆる「カラオケ法理」を、インターネットを利用したテレビ番組の転送サービスに適用できるかといったことが近時、問題になっている。



 「カラオケ法理」(この表現はちょっと品がないのであまり好きでないが)というのは、少し前まで(平成11年改正で廃止されるまで)著作権法附則14条というのがあって、適法録音物の再生行為は、原則として(=音楽そのもので客寄せをするような場合を除き)演奏権の侵害とならないものとされていた。


 http://www.jasrac.or.jp/info/bgm/history.html   


 したがって、JASRACは、カラオケスナックの再生演奏が演奏権の侵害であるとして訴えることは、本来できないはずである。にもかかわらず、最高裁は、客の歌唱行為に着目して、客の歌唱行為はスナックの演奏行為とみることもできるというような変な理屈で、カラオケスナックに対する損害賠償を認めたのであった。



 近時の裁判例の流れは、このカラオケ法理を、インターネットを利用したテレビ番組の転送サービスにも適用してきている。しかし、知財高裁平成21年1月27日判決が「待った」をかけたため、現在、結論不明になっている。



 こうした流れが第4版ではわかるようになっている。


 ・・・しかしですねえ。たしかに、「間接侵害」という、著作権法に本来ない概念を解釈で作ってよいものか、しかも附則14条という背景があっての苦肉の策としてのカラオケ法理を一般化してよいのかという、理論的には重要な問題ではあるのだが、はっきり言って利害関心を有するのは放送業界だけである。


 また、最高裁平成19年12月18日判決(シェーン事件)にしても、1953年公開の映画は現行法施行の時点で保護期間が満了しているか(満了していると、法改正で保護期間が延長されたにもかかわらず、旧法が適用されて、現行法下で保護されない)が問題になっているが、この問題は1952年公開の映画(満了していることが明らか)にも1954年公開の映画(満了していないことが明らか)にも関係がないのである。まったく応用のきかない論点であり、著作権法の専門家がこういうことを一生懸命議論しているのを見ると、一般の人は「著作権法はマニアックだなあ」と思うだけであろう。こういうのは「どちらかに決めてくれれば、どちらでもよい」類の問題であると私は思う(映画産業の人と文化庁の人はそう思っていないわけであるが)。


 どうも著作権法というのは、一部の業界にしか関係がない論点が多かったり、議論が重箱の隅に陥りやすいところがある。