公正取引委員会の審判制度廃止へ | 知財弁護士の本棚

知財弁護士の本棚

企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 2009年11月5日(木)日経の記事「公取委の審判制度廃止 政府方針 裁判所に機能移管」を見て、ついに来たか、という感じ。


 経済界はだいぶ前から要望していたことである。


 何しろ10年間で審判でもとの結論(排除措置命令とか課徴金納付命令)がひっくり返ったのは、たったの1件だというのだから、「審判」としてまるで機能していない。


 刑事裁判の検察官にあたる「審査官」と、裁判官にあたる「審判官」は、ともに公取の職員である。だから制度的に公正さが保たれるわけがない、と言われている。そこで公取も裁判官や検察官に審判官として出向してもらったり、弁護士を審査官に採用したりしてイメージアップに努めてきた。


 しかし、聞いた話であるが、審査官が自分で作成した捜査メモを証拠として提出するとか、法律家の感覚からすると、およそ信じられないようなことが平気で行われるらしい。

 

 公取の審判は公開されていて誰でも傍聴できる。公取のHPで期日が調べられるから、興味のある人は今のうちに見に行ってはいかが。


 ちなみに特許庁の審判は、審判としてきちんと機能している。同じ国の「審判」なのに、どうしてこんなに天地の差があるのか、さっぱりわからない。


 (ここからはヨタ話)

 だいたい、カルテル(不当な取引制限)っていうのは、もともと入札談合を罰するための概念ではない。1970年代ころだったと思うが、アメリカでも「入札談合はカルテルとして罰するべきか?」という論点があり、それ以降、入札談合もカルテルだということになったが、今は「カルテル」と「入札談合」が同じ意味だと誤解している人がいるから困る。

 

 公共工事の受注を価格だけで決めるというのが、そもそもおかしい。価格だけで決めるというのは、各社の技術が同水準という前提があればこそだ。本当に同水準なのか?

  

 同水準という建前を保つため、建設業界では技術革新が起こっても行政指導で「みんなで共有しましょう」みたいな感じでやっている。これでは特許を取っても意味がない。特許法の効力は建設業界には及んでいない状態だ。


 入札談合を厳しく取り締まるから建設会社がバタバタ倒産する。ほんとにそれで国民は幸せになるのか?


 平成2年ころまでは公取も「吠えない番犬」と言われたが、今は吠えすぎだ。誰に向かって吠えるかが重要で、吠えればよいというものではない。