平成20年特許法改正(2) | 知財弁護士の本棚

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ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 平成20年特許法改正においては、特許ライセンスに関して(1)検討され、かつ改正された事項、(2)検討されたが改正されなかった事項、(3)そもそも検討されなかった事項がある。このことは結構重要だ。


 前回述べたように、平成20年特許法改正の目玉の一つは「仮専用実施権」および「仮通常実施権」制度の創設であるが、これらの制度の創設は、特許権成立前のライセンスという従来からの実務慣行に法的根拠を与えるものではあるものの、特許権成立前のライセンスについての従来からの法的問題点(たとえば特許権が成立しなかった場合や、ライセンス時のクレームと成立したクレームに齟齬がある場合にどうなるか)に何ら答えるものではない。

 



 平成20年特許法改正のもう一つの目玉は通常実施権登録制度を使いやすくするための改正である。

 通常実施権の登録制度は、利用率が極めて低い。わが国の通常実施権の総数が推計で約10万件、そのうち登録されているものが約1000件であり、登録率は1%程度と言われている。利用率が低い主たる理由は、通常実施権の対価の額、通常実施権者の氏名・名称など、公開されたくない情報が登録によって公開されてしまうことにあるとされている。

 

 制度の利用を活発化するため、平成20年特許法改正に伴ない、最も秘匿の要請の高い通常実施権の対価の額を必要的登録事項から外すこと(特許登録令451項の改正)とされた。


(改正前特許登録令451項)

(通常実施種の設定等の登録の申請)

45条 通常実施権の設定の登録を申請するときは、申請書に次に掲げる事項を記載しなければならない。

1.設定すべき通常実施権の範囲

2.登録の原因に対価の額又はその支払の方法若しくは時期の定めがあるときは、その定め

(改正後特許登録令451項)

(通常実施種の設定等の登録の申請)

45条 通常実施権の設定の登録を申請するときは、申請書に設定すべき通常実施権の範囲を記載しなければならない。


 また、登録事項のうち通常実施権者の氏名・名称や通常実施権の範囲については登録事項としては残すものの、自動的に公開されるのではなく、一定の利害関係人にのみ開示することとされた(特許法1863項、特許法施行令18条、19条)。


 改正後の特許法施行令19条によれば、ワーキンググループ報告書でいう「一定の利害関係人」とは、特許権者、特許権を差し押さえた債権者、専用実施権者、専用実施権を差し押さえた債権者、通常実施権者、通常実施権を差し押さえた債権者などに限られている。したがって、例えば、特許権を譲り受けようとする者は含まれない。不便であるが、このような場合、特許権者から開示してもらうしかない。利害関係人の範囲は、今後、見直しが必要ではないだろうか。


通常実施権が独占的であることは、任意的にでも登録することはできない。この点は平成20年特許法改正に際しても検討がされたが、改正は見送られた。さらに、再実施許諾権(サブライセンスに係る特許権者の授権)の任意登録に関しても検討されたが、改正は見送られた。結局、改正前後の特許法において、任意的登録事項というものは存在しない。