特許事務所の経営についての一考察 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録28年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 知的財産に関する訴訟事件を常時扱っているため、弁理士の先生方とのお付き合いも多いのですが、最近の特許事務所の経営は楽でないようです。

 いろいろな方のお話を総合すると、昔(と言っても10年から15年くらい前)は弁理士ひとりあたり月200万円くらいの売上をあげることができたが、今はとても無理とのこと。弁理士業界でも「価格破壊」が進んでいるらしいのです。

 

 特定の大口クライアントへの依存度が高い事務所の場合、出願手数料(弁理士報酬)として1件10万円未満ということもあるようです(そのクライアントだけですが)。

 明細書というのは、企業側でどこまで仕上げるかで弁理士の手間暇が大きく違うので一概に言えないのですが、中身のあるものをまじめに作成すると1件あたり1週間くらいかかるそうです。

 仮に1件10万円で1週間かかるとすると、弁理士ひとりあたり月の売り上げは40万円(実際には意見書作成などの中間処理手数料の収入もありますが捨象します)。諸々の経費として3分の2かかるとすると、弁理士ひとりあたりに払える給料は月13万円です(手取りではありません)。これでは、人を雇うことは不可能でしょう。そこで、実際にはクオリティーを若干犠牲にしてでも数をこなしてもらうしかありません。労働時間も長くなるでしょう。


 企業がクオリティーを求めるなら、出願時の弁理士報酬は30万円くらいは払うべきと思います。実際、かつてはそれが相場だったと思うのですが、今は昔の話です。

 依頼する側も、クオリティ(明細書の良し悪し)で事務所を選んでいないという構造的な問題があります。


 下記は企業内弁理士の方が書かれたブログです。今から弁理士を目指すのはよくよく考えた方がよいという趣旨で、書かれている内容は大変厳しいものです。

http://ameblo.jp/patent/entry-10162054194.html


 私どもの事務所では、特許権の侵害訴訟や無効審判などを専門的に扱っておりますが、出願業務は扱っておりません。特許権の侵害訴訟の場合、着手金として最低でも400万円はいただきます。高いと思う方は他の事務所に行ってくださいというわけで、価格決定権がこちらにあります。仕事のクオリティには絶対の自信があるから、こうしたことができるのですが、依頼する側の意識の問題もあるでしょう。

 ですが、特許権侵害訴訟など全国で年間150件くらいしか起こらないのですから、特許弁護士というのはそもそも少数の人たちの特殊な業界です。市場環境も成熟・衰退産業の感があります。これから弁護士を目指す人たちに勧めることはできません。それでも、特許事務所の経営よりははるかに恵まれています。


 話がそれてしまいましたが、私どもにとって弁理士の先生方は仕事上の大切なパートナーです。その方々の経営が厳しくなると、こちらも困ります。企業の方々は、出願経費を削減しておいて従来のクオリティーが維持できるとお考えなのでしょうか。そこがわかりません。