キモノ小咄 2 | 着物コモノ 2021

キモノ小咄 2

天の虫

時代小説なんかを読んでいると絹の着物を「お蚕さん」なんて呼んでたりする。

理科の実験で飼った経験のある方もいらっしゃると思うが、蚕と言うのも不思議な生き物で、糸くずみたいに細いのがむっちりと育ってくると、頭を振りながら糸を吐き出して丸い繭を作る。そりゃあ見事なもんです。
種類によって違いますが、日本の蚕は一本の糸がきれいに取れる種類が多い。どういうことかというと、繭玉をほぐすと初めから終わりまで、切れることなく一本の糸になる。
訪問着とか振袖とか、上等な着物の表面はスルッとしてるでしょう。一本だから継ぎ目がない。だからあんなに滑らかな布が出来上がる。その糸を染めてから織るのが「先染め」。白い布を織ってから絵付けをしたり染めるのが「後染め」。

同じ繭でも、中のお蚕さんが孵化して繭に穴を開けて出てきたものは、当然糸も切れ切れ。この場合、繭を広げて紡ぐことが多い。見た目は薬局で売っている脱脂綿のような形・・・とでも申しましょうか。紡ぐと空気を含むので、軽くて暖かな着物に仕立てあがる。
プツプツとした手触りの着物といえば・・・そう、紬とかヴィンテージの銘仙。

あれ?じゃあ一本糸を取るときはどうするの?

煮るんです。
羽化する前に釜茹でにして、ほぐれてきた糸を引き出す。これが「糸を引く」という作業。
繭に含まれるセリシンやらで匂いが気になりますが、引き出される糸の細さに感動します。
これを残酷といったらあなた、着物なんて着ていられません。

面白いところではインドネシアの「黄金のシルク」。染めていないのに繭が金色で、しかも網のようになっている。キモノコモノ連の作家さんに紡いだ糸を渡してあるので、どんな形になってくるのか楽しみです。

蚕に興味を持った方は横浜の「シルク博物館」がお勧め。お蚕さんの実物にも会える貴重な場です。