図書館という世界から、図書をみることと、産業という出版、作家の世界からみる図書の世界は、まったく違う世界が見えている。だから、いつも、話はかみ合わない。それは、仕方のないことかもしれない。
出版社や作家は、資本主義経済の中に生きていかなければならないが、図書館は、資本主義経済の例外事項として存在しているのだから。
だから、いつまでも、それは、交わらない。それは、ユークリッド幾何学とリーマン幾何学のような存在かもしれない。

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図書館は、図書の重さに押しつぶされようとしていた。
それは、図書の重さであった。一人の人間はたった、20冊の図書を持つことも大変である。
それが、1万冊、10万冊、100万冊とあつまると、それは、大学を圧迫し、市を圧迫し、国を圧迫し
地球を圧迫してきた。

しかし、その重さゆえに、図書館は存在した。
その重さゆえにその価値が、あった。
その世界がゆえに、図書館はその存在に意味があった。
そこには、人類の荘厳さがあった。
叡智の集積場所であり、叡智の核融合の場でもあった。
叡智の坩堝であり、叡智の醗酵する場所であった。
そこは、マルクスが思考を暖めた場所でもあった。
多くの人々が新たな世界を見出した場所でもあった。

たくさんの図書をめぐり、記憶に留め、
思考のぶつかりを重ね、多くの検証を重ね、たった一筋の光を探し求めた。
時間を遡り、
空間の乗り越え
言語、民族を乗り越え
なにかを、
求める何かを、
その輪郭を徐々に確かにし、
言葉にし、
それを、可能にする、存在の重さがそこにはあった。

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しかし、現在の人類は、紙の世界からの脱出を試みている。
文字が紙に留められた時代から、コンピュータに記録する時代になった。

いつも、技術には、逆転の発展をとげる癖がある。
技術はまず、読むことより、書くことをサポートした。
技術はまず、聞くことより、録音することをサポートした。
技術はまず、見ることより、録画することをサポートした。

いま、技術は、書くこと、紙に書いたものを写し取ることをサポートしている。

それは、本の重さからの脱出なのである。
それは、ニュートン力学からの脱出なのである。
それは、いったい、それはなんなのであろうか。
瞬時にして、何百万の図書を、何億のページを隈なく探し、
それを教えてくれる。
読んだことも、見たことも、触ったこともない、図書の内容を
あたかも、何億冊の図書を読みえた仙人のごとく、
瞬時に、そのページをかぎ分ける。

いったい、なにが起きているのだろうか。

ニュートン力学が消えた世界をだれも創造できないように、
われらも、未知なる世界を知ることは出来ない。
3次元のルールが成り立つともおもえない。
4次元、5次元といった多次元空間の中に押し込められた図書館の出現なのであろうか?

マンガ家かなら、何かイメージすることができるかもしれない。
しかし、その多次元図書館がたとえ、存在しても、われらが接する、小さなディスプレイの向こうと
自らの思考をつなぐ、僅かなトンネルは、
まさに、「葦の髄から天井のぞく」
永遠にその全貌も、その重さを知ることはできない。

しかし、世界で、数百万とも、数千万とも言われる図書を、デジタル化するために、確かに歩みを進めているのである。
JSTORの成功が、電子ジャーナルの大きな影響を与えたように、
雑誌の世界は、すべてのものが、電子の世界に飲み込まれようとしている。

しかし、同時に、図書館は、すべての人に無料で情報を供給するという 理想を手放さなければならないのかも知れない。
しや、もしかすると、その理想の実現に、一歩近づいたともいえるのかもしれない。

デジタルが世界一の図書館になるとき。
そして、それは、世界にたった一つあればいい。
もしかすれば、悪名高いWinnyのようなソフトによって、世界を一つの図書館にする方法もあるかもしれない。
そうだ、 LIB-wInny という図書館専用ソフトの登場でも良いかも知れない。

しかし、どっちにしても、世界中に戦国武将のように、一国一城の主を目指して、デジタルの山が、数十万冊、数百万冊と積み重ねられていくのである。
そして、それは、戦いの火蓋が切られていくだろう。
欧州連合が、
LC連合が
Google連合が、
Amazon連合が、
火花を散らして、吸収、分裂を繰り返して、天下を統一していくのだろう。
いつ、関が原の合戦が起きるのだろうか。
きっと、それは、株取引の世界でおこるのだろう。

地球規模の戦いにおいて、ほくろのような存在にも満たない、青空文庫はどうするのだろうか?
すでに、デジタルの世界で動いているマネーの量は、まるで、戦艦大和と木の葉の違いにも等しいのだから。

新しい図書館が出現する。
それは、皮肉にも、図書館運動の中から生み出されるのではない。
それは、資本主義世界から生み出されようとしている。
そして、それは、図書館といえないまま、図書館を蹂躙していくことになるだろう。

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新しい図書館の登場が待たれている。