478冊目 族長の秋 他6編/G・ガルシア=マルケス | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「族長の秋 他6編」G・ガルシア=マルケス著・・・★★★★☆
宴席に供されたのは、腹心だった将軍の丸焼き。荷船もろとも爆沈、厄介払いした子供は二千人。借金の形に、まるごと米国にくれてやったカリブ海。聖なる国母として、剥製にされ国内巡回中のお袋。だがお袋よ、ほんとにわしが望んだことなのか?二度死なねばならなかった孤独な独裁者が、純真無垢の娼婦が、年をとりすぎた天使が、正直者のぺてん師が、人好きのする死体が、運命という廻り舞台で演じる人生のあや模様。

「週末にハゲタカどもが大統領府のバルコニーに押しかけて、窓という窓の金網をくちばしで食いやぶり、内部によどんでいた空気を翼でひっ掻きまわしたおかげである。全都の市民は月曜日の朝、図体のばかでかい死びとと朽ちた栄華の腐れた臭いを運ぶ、生暖かい穏やかな風によって、何百年にもわたる惰眠から目が覚めた。」───「族長の秋」の書き出し

のっけからこの圧倒的な語りは、どうだ。
「百年の孤独」と共に評価の高いマルケスのこの作品に対する期待は、いやが上にも高まる。
ところが「族長の秋」に物語の面白さを求めたら多分、痛い目に会う。

ある国の(多分南米)大統領の生涯を巡る、母親、妻、部下、民衆たちの証言や噂話と大統領自身の無限とも思える数々のエピソードが、マジックリアリズムの圧倒的な文章により読む者に息つく間も与えず延々と綴られる。
その文体に改行は無く、会話文に括弧さえも付けてくれず、一人称と三人称が混在し、語り手の主体はいつの間にか変わり、エピソードは時空間を縦横無尽に飛び回る。
私が記憶する本の中で、こんな作品は他に無い。
文学上の発明と言っていいかも知れない。

独裁者の栄華と没落、権力と孤独、狂気と滑稽などを描いた書物は他にも幾らでもあるだろうし、本書よりも面白いストーリーがあるかも知れない。
しかし、マルケスの描く、幻が目の前の現実である様な独特の世界は、マルケスでしか描く事は出来ないだろう。

三流読書人の私には「族長の秋」の優劣についてあれこれ言うような技量はとても無い。
私にとっては、この本を最後まで読み切った事自体が、生涯記憶に残る読書体験の一冊であるように思う。

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