335冊目 奇跡のリンゴ/石川拓治 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「奇跡のリンゴ」石川拓治著

ニュートンよりも、ライト兄弟よりも、偉大な奇跡を成し遂げた男の物語。


本屋に山積みになってたんで(図書館で借りて)読んでみた。

表紙の、満面笑みの歯抜けじいさんの顔がインパクトがあるのだが、何と(今年)60歳だというから驚いた。

どう見てもうちのオヤジ(72)位に見える。

そんな容貌になった訳も作中に書いてあるのだが。


リンゴというのは非常に害虫の付きやすい作物なんだそうで、そうなると当然農薬の使用量も比例して多くなる。

葉っぱが真っ白になる位農薬が散布されるそうである。

そのリンゴを無農薬、無化学肥料で作ろうという青森のリンゴ農家、木村秋則の物語。


無農薬で作るという事は害虫との戦いである。

農薬が使えないから酢や胡椒、トウガラシ、塩、醤油・・・とありとあらゆる身近にある食品を片っ端から散布し試すがどれも効果無し。

しょうがないので、レジ袋を持って手で摘み取る。

しかし、夥しい数の害虫で、獲っても獲っても、あとからあとから増えて全く手に負えない。

葉っぱは食い尽くされ、木はどんどん衰え、とうとう花も実もつけなくなってしまい収入も無くなってしまう。

しかし、木村は信念を曲げず自分の家庭をも犠牲にし挑戦し続ける。

木に話しかけ、非常識な行動をする木村に周りのリンゴ農家から「カマドケシ」(カマドの火を消す、家庭を潰すの意)と呼ばれ、村から孤立して行く。


何年にも亘り挑戦し続けたが1985年夏、遂に命運が尽き岩木山で死のうとロープを持ち登る。

ロープを枝に掛けようとして投げたがあらぬ方向へと飛んでいく。

ロープを拾いに行こうと斜面を降りかけたら、そこに1本のリンゴの木があった。

魔法の木のようにその木は輝き、すべての枝にみっしりと葉を繁らせていた。

この木は農薬はかかっていないはずだ、しかし生き生きとしている。

木村に衝撃が走った。

6年間捜し求めていた答えが目の前にあった。。。


最初は自然(害虫、雑草)と対峙していた木村が、虫や木と対話しながら徐々に自然を受け入れ、リンゴの木を自然に還していく姿は、まるで実践的な哲学者の様で、その執念と労苦は筆舌に尽くし難い。

これは、単なる無農薬リンゴに留まる話では無く、全地球的な自然と人間の共存に繋がる核心的な物語である。


木村のリンゴは腐らないそうだ、そしてその味は強烈な甘みと酸味があり、他のリンゴとは全く違う野性的な味がすると言う。

木村は現在、農業指導で全国を飛び回る。

しかし、自分の歯は抜けたまま、家の襖もずっと張り替えていない。


読み終え、木村さんのリンゴの木を見に行きたくなった。



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