「浮世の画家」カズオ・イシグロ著・・・★★★★
戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野。多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。弟子や義理の息子からはそしりを受け、末娘の縁談は進まない。小野は引退し、屋敷に篭りがちに。自分の画業のせいなのか…。老画家は過去を回想しながら、みずからが貫いてきた信念と新しい価値観のはざまに揺れる―ウィットブレッド賞に輝く著者の出世作。
作者は1954年長崎に生まれ5歳で渡英、1982年イギリス人作家としてデビューした。本書は2作目。
本書を読みながら感じた印象は、まるで(映画の)小津作品を小説として読んでいるような感じである。
イシグロは5歳までしか日本に居なかったから、日本で生活した記憶などはほとんど無い筈なのだが、この作品は老練な日本作家が描いたような筆致と味わいを持っている。
イシグロはこの後「日の名残り」というイギリス貴族の執事を描いた作品を書いているが(この作品も素晴らしい)同じシリーズの日本版とイギリス版といった感じ。
それにしてもこの人は寡作で「わたしを離さないで」から4年も経っている。
新作が待ち遠しい。
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