TPPと日本という国の未来 その2 | 蜜柑草子~真実を探求する日記~

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さてさて、今回もTPP。
前回の補足なども含めて、書いておこう。
条文はこちら。
TPP協定の全章概要(日本政府作成):PDF
TPP協定の全章概要(別添・附属書等):PDF
TPP全文:"Text of the Trans-Pacific Partnership"

TPPの成立と今後
まずは、基本的なことから書いておく。
10月5日に、閣僚達の合意によって、TPPは最終的な合意に達したのだ。
10月5日付けの閣僚声明ではきちんと、
"We, the trade ministers of ... are pleased to announce that we have successfully concluded the Trans-Pacific Partnership."
と発表されている[1]。
日本では「大筋合意」とばかり報道されているらしいが、
そうではなくて、すでにTPPは合意され、条約は成立している。
国際法上、国家間の合意があれば、それで条約が成立する。
(民法でも、意思能力及び行為能力を持つ契約主体の合意により、契約が成立する(自然人の場合)。口約束でも成立する。)

そもそも、TPPの正式名称は、"Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement"であって、
これに関わるということは、Agreement(合意)するということが前提とされている。
(条文を読めば分かるが、"under this Agreement"といった表現が繰り返し出てくる。)
だから、交渉をするという時点で、半ば合意しているようなものだ。
むしろ交渉に参加することが、「大筋合意」と言っていいくらいだ。
そして、"Strategic"という単語の用法も、日本人という人々には共有されなかった。
これは、関税のように経済的なことだけでなく、政治にも関わり、
相手の国家を解体する、という意味。

次に、11月5日に、日本政府の責任により、TPPの全文の概要が公開された。
これにより、日本という国は、TPPの成立を追認した。
日本という国では、条約の締結権を持つ内閣(憲法第73条)の代表が交渉に参加して合意し、
それを政府として追認した。
そして、ウィーン条約法条約第18条により、締約国には、条約が成立(署名)されて以降、
条約の効力発生前に条約の趣旨及び目的を失わせてはならない義務がある。
従って、農業への補助金など、TPPに反するようなことをしたりするのは、
信義則に反し、後に損害賠償請求の対象にされる。
こうして、TPPは、すでに事実上発効している。もちろん、正式な発効はまだまだ先だが。
11月5日の文書を、内閣官房の名義で出さなければ、また違う道を歩むこともできただろう。

ここまで来てしまってはいるものの、TPPを抜ける道はかろうじて残されているのだが、
日本という名前の国では、恐らく、このことを使って、次のように言う人々が政権中枢やその周辺に多くいるだろう。
「TPPは、事実上、発効しているのだから、それに従って政策を作るしかないんだ。」
そして、後になると、いつもの決まり文句が出てくる。
「今さらやめられないと思いました。」
日本人という人々の行動様式が大きく変わることがない限りは、こうなるだろう。
日本という国は、すでに「彼ら/彼女ら」の眼中には入っていないだろうが、アメリカ国民はまだしぶとく抵抗するだろう。
アメリカは、議員にも反対派が多くいるし、市民社会の反対も強くなってきているので、もしかしたら撤退できるのかもしれない。
そうなれば、カナダも確実に撤退し、TPPはご破算だ。
(2015年12月16日追記:よく考えてみたが、アメリカやカナダが撤退した場合でも、日本をTPPに参加させ、収奪することは可能なので、ご破算にはならないかもしれない。)


ISD条項
TPPの最も重要な部分("Strategic"なこと)は、前回の記事にも書いた。
特に、第9章に含まれるISD条項が、破壊的だ。
多くの方がご存じのように、ISD条項は、投資家や企業が他国の政府を訴えることができるという条項。
この存在を知らないまま、条文を読むと、TPPを錯覚してしまいそうになる。

一つは、条文の至るところに出てくる表現だ。
"Nothing in this Agreement prevents a Party from ..."
(「この協定は、締約国が、・・・の利益を保護するための措置をとることを妨げるものではない。」)
といった表現を読むと、「あれ?そんなに悪い条約でもないのかな?」と思ってしまうので注意が必要だ。
確かに、そういった措置を取ってもいいのだが、それはISD条項による訴訟対象になり、
損害賠償を請求される可能性が大だ。
しかも、その措置を取り続けるならば、それをしていた年数を掛けただけの損害賠償が請求される。(例:1兆円×10年=10兆円。)
だから、事実上、そんなことはできない。

もう一つは、第28章「紛争解決」だ。
この章には、締約国で揉めごとが起きた時には、交渉したり、話し合いをしたりして、
それでも決まらなければ多数決にしましょう、といった、良さげなことが書いてある。(第11条)
でも、これは国家と国家との間での話であるということに注意が必要だ。
ISD条項はそうではなくて、企業が国家を相手に訴訟でき、世界銀行傘下のICSIDの法廷で争うということだ。
そして、ほぼ間違いなく、アメリカの企業(実際には、アメリカに税金すら払っていないだろうが)の勝訴になる。

ここで、その紛争解決手続きについて書いておこう。(第9章第17条以下)
(かなり細かい規定があるのだが、おおざっぱに書いておく。)
まず、紛争が起きた場合には、申立人(投資家や企業)と被申立人(国)との間で、
交渉をするなりして、解決しなければならない。
そして、被申立人が書面による協議の要請を受け取ってから、6ヶ月以内に解決できなかった場合には、
申立人は、被申立人が違反した事項や、その違反によって受けた被害などの申立てをし、仲裁にかけることができる。
そして、その仲裁者は3人。
紛争当事者から、1人ずつ。そして、当事者同士が合意した上で、もう1人を指名する。
当然、3人目が決まらないことが自然なわけだが、申立てが仲裁に付託されてから、75日以内に仲裁者が決定されない場合は、
いずれかの当事者の要請により、ICSIDの事務局長(the Secretary-General)が、3人目の仲裁者を指名できる(第21条3項)。

この条項により、アメリカの企業が日本を提訴した場合、2対1の状況が作り出される。
アメリカの企業が1人指名、アメリカが支配する世界銀行傘下のICSIDが1人指名、そして、日本側が1人だ。
そして、ワシントンD.C.の法廷で争われる。
こんな状況では、アメリカの企業が勝つのが当たり前だ。
(反対に、日本企業もISD条項を使って、アメリカ政府を提訴できるのだが、これも2対1となり敗訴する。)
こうして、日本という国は敗訴に次ぐ敗訴。
毎年毎年、巨額の損害賠償を請求されるか、法令や環境の整備を要求され、ボロボロにされてしまうのでありました。


かんぽの狙い撃ち
これもTPPの本丸の一つだ。(第11章 金融サービス)
(農業や食品、自動車の分野も、影響が大きいのはもちろんだが、わりとテクニカルな話だ。)
かんぽ生命保険は、郵政民営化以来、ずっと狙われ続けて来た。
これは、第11章の附属書C節に書いてある。
固有名は出されていないが、ここに書いてある「郵便保険事業体」とは、かんぽのことだ。

かんぽは、日本国内で大きなシェアを持ち、莫大なお金を持っている。
かんぽの個人保険の契約件数は毎年約200万件で、日本国内トップ。
そのため、かんぽに積み立てられた責任準備金も膨大な金額になっている。
そのお金をアメリカの保険会社(アフラ○クなど)に売り渡すために、
「締約国は、自国の国内で、同種の保険サービスを提供する民間のサービス提供者と比較して、
郵便保険事業体が有利となるような状況を作ってはならない」といったことが規定されている。
しかも、ご丁寧に第6項で、その数値目標まで指定されている。
(これを1回目に読んだ時は、筆者もさすがに震え上がった(( ;゚Д゚)) )
今後、このお金が、民間、特にアメリカの保険会社(アフラ○クなど)に流れていく。

これだけでもかなり悲惨な話だが、それでは終わらない。
以前の記事でも書いたように、かんぽに積み立てられたお金は、こっそり日本国債の購入に回され、特別会計の原資になっている。
従って、アメリカの保険会社にお金が流れていくようであれば、
特別会計の原資も急速に減っていき、社会保障費などの削減という潮流が作られやすくなる。
そして、財政破綻の時期もますます早まってしまうのでした。
念のために書いておくと、巷でよくある話に、「日本は財政破綻やデフォルトをしない」というものがある。
でもこれは、「今は」という但し書きが付く。
それは、2020年頃までの話。このままだと、残された時間は長くて5年程度だろう。
その頃には、国債の発行残高もさらに積み増され、日本人や日本の金融機関だけでは、国債を買い支えられなくなる。
ゆうちょの預貯金やかんぽの積立金も、アメリカに流れていくから。


学校給食、移民
TPPの成立には、愛国者(笑)が果たした大きな活躍も見逃せないので、これらのことも書いておこう。

学校給食での「地産地消」の取り組み。
これも完全にTPP違反。
第15章(政府調達)により、全都道府県および全市区町村の調達も、ほぼ全てTPPの対象になる。
学校給食も例外ではない。
そして、第16章(競争政策)や第26章(透明性及び腐敗行為の防止)第1条などに基づき、
「あなた方は、何故、地元の食材だけを使っているんですか?
 何故、我々が作った食材を差別するんですか?
 あなた方の談合により、我々は、自由な競争を阻害され、巨額の機会損失を被っています。」
とされ、ISD条項で提訴される。
そして、自治体の条例の変更などを余儀なくされる。(これは米韓FTAで実証済み。)

日本の学校給食に、温かくて美味しく、安心で、安全な食材を出したらダメでしょ。
柳田国男の「国土と結びついた人間の絆」なんて、そんなこと言ったらダメダメ。
TPPに従って、素性のよく分からないような食品を出さないと。
せっかく、動植物や食品の検疫の規制も緩和し、
通関にかかる時間を48時間以内にしなくてはならないようにしたのだから。(第5章第10条)
こうして、愛国者(笑)の考えていた通り、
地域の文化を残そうとする試みや共同体自治はますます弱ってしまうのでありました。
マルクスに倣って言えば、学校給食まで、外資というジャガーノートの車輪の下に置かれてしまうのでした。


最後にもう一つ。
第12章(ビジネス関係者の一時的な入国)について。
これもすごいことが書いてある。
書第4条及び附属書によれば、実質的に、TPP締約国からのビザ無し労働者を許可せよ、と書いてある。
(もちろん、全員ではなく、特定の条件を満たしていれば、という話。)
当然、その子供や配偶者も同じ期間の滞在を認めなければならない。
しかも日本の場合は、期間が切れた後、延長がいくらでも可能なので、完全に移民。
(「契約に基づくサービス提供者」の場合は、5年を超えない期間の滞在が可能。)

これと第15章(政府調達)により、次のようなことになる。
高速道路や鉄道の整備などの公共事業を、ベク○ルのようなグローバル企業(多分、その子会社とか)が、
海外から入札して元請けになる。
そして、それを日本法人に下請けさせるなどする。
そうすれば、第12章附属書F節第2項を適用でき、ベトナムやチリといった国の低賃金労働者を雇い、日本国内に派遣することができる。
ここで、第10章(国境を越えるサービスの貿易)第5条により、
締約国は、国境を越えるサービス提供者(法人及び自然人)に対する数の制限を加えてはならないため、
外国からの低賃金労働者を無制限に受け入れることになり、そのまま移民となる。

移民による経済的な影響として、日本人の失業者が増えるのはわかりやすいが、それに伴って賃金も切り下げられていく。
日本人の失業者が増えることへの対策は、雇用を増やすしかない。
(移民を止めるというのは、ISD条項により提訴される。)
一方、賃金の切り下げは、労働組合などによって、同一労働同一賃金の論理を貫徹させるようにすれば、なんとか防げる。
しかし、日本人と呼ばれていた人々には、そうした考えも共有されることがなかったので、
移民による賃金の切り下げ圧力を抑えることができず、ますます賃金が切り下げられてしまうのでした。

また、移民の増加による社会的な影響も無視できない。
言語や習慣、風俗が異なるので、移民の数が増えることにより、日本列島の原住民との社会的な軋轢が増えていく。
今のEUが直面していることを、アジアの東の外れにある日本という島国もいずれ直面することなる。
(EUでは難民のこともあるが。)
せっかくなので、さらにもう一歩進んでおこう。
それは、サブプライム危機だ。
移民が増えてくれば、当然、その人たちが住宅を購入したいという需要も大きくなってくる。
中には優秀で高い所得を得る人もいるだろうが、大半は低所得者の可能性が高い。
そうした低所得者や信用度の低い人向けの住宅ローンが、バンバン貸し出されるようになる。
実際、もうすでに仕掛けは始まっている。これが移民にまで拡張されていくのも時間の問題だろう。
第13章(電気通信)により、テレビの外資規制も撤廃されるため、こうしたことも簡単簡単。
こうして、日本という国は、ここでもグローバル金融資本のカモにされてしまうのでありました。


これが日本という国に待ち受ける未来。

次回もTPP


[1] 「環太平洋パートナーシップ閣僚声明」(現地時間2015年10月5日発表)