平成29年6月16日(金)20:00〜、Gallery & Space しあん にて。

作・演出/屋代秀樹

出演/
平成30年の人々
千秋ナカコ:萱怜子
摩周フカエ:星秀美(レティクル東京座)

昭和64年の人々
小鹿スドウ(大学教授):瀬戸ゆりか
多賀リンサク(スドウの友人):袖山駿
摩周シビオ:山森信太郎(髭亀鶴)
摩周イサナ:堀江やまの

           ※          ※          ※

このみずうみを ふかくもぐれば きっとうみにでられるでしょう

昭和64年正月、山間の街 田瓶市
人皮で装丁されたおぞましき書物の噂を聞きつけ、
気鋭の人類学者小鹿スドウは、
海産物の流通で財をなした一族、摩周家のもとを訪れる。
血と 愛と 宇宙的恐怖の 短いおはなし

           ※          ※          ※

(公式サイトより)

{B3BEAA67-927A-4C09-B772-8A25B945178B}

昨年夏の15 minutes made(15分の短編×6団体によるショーケースイベント)参加作品『ハーバート』とそのあとの本公演『ムーア』以来、すっかりハマっている日本のラジオ。

今回の会場は新御徒町駅近くの「Gallery & Space しあん」という、古い民家の佇まいを生かしたギャラリー兼イベントスペースだった。

わかりにくい場所だ、というウワサを聞いて乗り継ぎのいい御徒町から歩くのを断念し、徒歩1分だという新御徒町駅の最寄の出口まで無事にたどり着いた。

金曜日、仕事を終えてから行くので時間の余裕はたっぷりとはいかないが、20時開演なので走って行くほどでもない。

地図も事前に確認しておいたし、楽勝かと思いきや、手元のグーグルマップの向きを勘違いしてわざわざ道の反対側へ渡ってしまった。幸い、比較的早めに気づいたので、とりあえず開場からさほど経たないうちに到着できた。

{FB35DA28-C97D-4995-BF80-DFA1A5C91B5E}

古民家を利用した雰囲気のある会場だ。

塀も庭も建物そのものも一般の家のようで、知らなければイベントスペースだと気づかないだろう。

{61B9C251-DB74-4D89-8443-3FCC34F61891}

門をくぐり、庭に面した雨戸が締めてあるのを横目で見つつ、玄関に向かう。

{861F7882-6202-4BD9-B36A-B00A15152666}

そういえばなぜか、日本のラジオの公演は(15mmを除けば)ソワレでしか観たことがない。白昼の下で観るヒンヤリとした怖さも似合いそうな気もするけれどね。

劇中に雨戸を開ける場面があるので、もしかするとマチネの方が、特に雨の降っていた千秋楽などの雰囲気がしっくりくるかもしれない。(人が住まないまま締め切ってあった家なので、夜でも雨戸を開けるのは不自然ではないだろうけれど)

話が先走ってしまった。

玄関で靴を脱ぎ、客席に座る。開場時間を少し過ぎたばかりなのに、椅子はほとんど埋まっている。もともとさほど広くない会場で、ぎっちり詰め込んでも座れるのは30人ちょっとだろうか。

昨年観た『ハーバート』や『ヒゲンジツノオウコク』同様、クトゥルフという架空の神話を題材にした作品だ。

舞台となっている田瓶市も他の劇団が創作した架空の都市だが、パンフレット内の用語解説に参考文献として『田瓶市市政50周年記念特別広報紙』などと挙げてあるのも面白い……などという説明は野暮かもしれない。

ちなみに、田瓶市は市としてはさほど規模の大きくない自治体であろう、と50周年記念として発行されたのが記念誌でなく記念紙であるあたりから想像してみたりする。

クトゥルフやインスマスやダゴンなどの単語に聞き覚えがある程度で、ほとんど知識のない自分でも、物語を見る上では支障なかったし、舞台のヒンヤリとした緊張感や物語の面白さは充分感じることができた。

物語の面白さ、と言ったが、それはなんていうか、脚本の緻密さはもちろんのこと、キャストのそれぞれのハマり具合(何人かはこの芝居中は魚顔に見えたり)、細やかに設定された登場人物像やそれに応じた語り口、近い将来年号が変わることになった昨今の状況、庭や観客の後方も含めた会場の使い方(おかげですっかり物語の中に取り込まれたように感じられた)、そして『ヒゲンジツノオウコク』との関わりなど、様々な方向から組み上げられた面白さであった。

それでも、やはりクトゥルフについての知識があればより楽しめただろうと思うと、次回までに(!?)読んでおきたい気持ちになった。

過去と現実の関わり。人ならざる女たちに心をとらわれた男たちの切ない想い。大きく開けた女の口の奥に見えたであろう深いミズウミ。

不思議でヒンヤリと怖くて、そして愛しい。そういう舞台であった。

{F1361EF5-EAB1-4DD9-9DF3-6605F58DD26C}

薄青色のパンフレットの表紙に裂け目があるように見えるのは、意図的に古びさせた印刷なのである。中のページも同様で、千秋が見つけた小鹿の日記をイメージしているのかもしれない。