平成28年11月6日(日)14:00〜、13日(日)14:00〜、シアターX(カイ)にて。

原作:立川志の輔(『歓喜の歌』、『ガラガラ』、『ディアファミリー』)
脚本・演出/横内謙介

音楽監督・作曲/深沢桂子
編曲/村井一帆

舞台美術デザイン/金井勇一郎(金井大道具)
大道具製作/金井大道具
舞台監督/大山慎一(大山組)
照明プラン/塚本悟(A.S.G)
音響プラン/青木タクヘイ(ステージオフィス)
衣装デザイン/木舗ミヤコ、大屋博美(ドルドルドラニ)
タップダンス振付/柳瀬亮輔
振付/花柳輔蔵

出演/
主任・山村:六角精児
職員・加藤:酒井敏也(客演)

ハナシカ:岡森諦
幽霊・徳丸:鈴木利典

リーダー・吉岡:高橋麻理
会計・沖、他:伴美奈子
石田先生:累央

リーダー・柳田:鈴木里沙
ミッチー、他:江原由夏
トップ、他:鈴木崇乃
JKリナ・他:塩屋愛実
ミサキ、他:砂田桃子
ビーガール、他:小笠原彩

田所会長:有馬自由
魚勝、他:犬飼淳治
八百好、他:新原武
業者国松、他:上原健太

来来亭・正代:中原三千代
ジュニオール、他:岩本達郎

技術・大平、他:松原海児
息子・たかし、他:野田翔太
事務・後藤、他:北村由海

ずさんな会館職員のやらかした最悪のダブルブッキングが、一皿の餃子によって、歓喜のコラボレーションへと変貌してゆく、笑いと涙のミラクル人情噺。志の輔らくごの名作を劇化。
(公式サイト及び当日パンフレットより)

{5E233E3C-822F-48BB-8A4B-EFCF6A0AA4A0}

マンガ・アニメ・小説など、さまざまなジャンルの作品を原作とした舞台があるけれど、舞台化の脚本や演出に横内氏のお名前を見つけたら、自分にとってはその舞台への期待値がぐんと高まる。それだけの信頼を抱けるような作品を拝見してきたからだ。

たとえば、扉座の『新浄瑠璃 百鬼丸』。あるいは、わらび座の『アトム』。
どちらも手塚治虫氏のマンガが原作だけれど、原作のメッセージや世界観を活かしながら、実はほとんどオリジナルのストーリーとなっている。

何しろ『アトム』にはアトム役の役者さんは登場しないし、『百鬼丸』の方も原作のタイトルロールであったどろろの人物設定など大きく変わっている。

原作の想いを生かしつつ、横内氏独特のテイストで観る者のツボをつかんでしまう。

そんなこともあって、今回は落語を舞台化するのか、と楽しみにしていたのだけれど。
今回の作品には、他にも大きな意味があった。

この作品、実は東北の演劇鑑賞会の方たちからの発案だとのこと。

東日本大震災での大きな被害を乗り越え、故郷と演劇の再生復興に向けて起爆剤となるものを劇団と組んで生み出したいという願いから始まった舞台であった。

タイトルは立川志の輔師匠の新作落語『歓喜の歌』から。

映画化やドラマ化もされている名作だそうで、そこに同じく志の輔師匠の落語で大抽選会の偽装騒動を描いた『ガラガラ』と鹿の首事件の『ディアファミリー』を併せて舞台にした、という盛りだくさんの内容だ。

{8E197923-AAB4-49B5-83EA-A5E389CA864F}

会場に入ると、開演前のロビーでは抽選会を開催中であった。

観終わってから改めてこの写真を見ると、なるほど、と思う。劇中の設定と深く関わりがあるのだ。

上記のあらすじにある通り、ある会館で起きてしまったダブルブッキングから始まる騒動に、駆除された鹿の話と商店会主催の福引にまつわるトラブルが加わって、上を下への大騒動である。

冒頭、噺家……ならぬハナシカ役の岡森さんがまずは観客の関心を惹きつける。なぜハナシカなのか、それは観ているうちにわかってくるのだけれど、まあ言ってみればダジャレだ。加えて、原作が落語だから、という洒落っ気もあるだろう。

農作物に被害を与えるため駆除された野生の鹿と、勤続30年の表彰を受けたばかりの地味な公共ホール職員とその同僚たちと、大晦日にコンサートを開催しようとする2つのコーラスグループと、そして、歳末大売り出しのために抽選会を開催しようとする商店会の人々と。

登場人物(人ばかりでなく鹿や幽霊も含め)一人ひとりの歓びや哀しみ。日常の中のささやかな晴れ舞台。意地や見栄から陥る大ピンチ。

そういうモノたちが生き生きと描かれて、あれよあれよという間に2時間を超える舞台が終わり、観終わってみれば、楽しかった……というシンプルな言葉が何より似合う舞台であった。

観客のノリも、会場のある両国にふさわしいどこか下町らしい気安さで、何度も笑い、手を叩き、時に目を潤ませ、あるいは一緒に歌った。

盛りだくさんのストーリーで多くの登場人物にスポットライトが当たり、まさに劇団の芝居だと思った。