平成28年3月5日(土)15:00~、日立ゆうゆう十王Jホールにて。

原作/宮沢賢治
脚本/小沢瞳  
補作・演出/栗城宏  

音楽/紫竹ゆうこ
振付/高田綾
編曲/只野展也

美術/宮本博司
小道具/平野忍
衣装/樋口藍

照明/黒沢幸路
音響/縄野万里佳

演出助手/齋藤和美
歌唱指導/わたなべのぶこ

出演/
一郎:山田愛子
デン・別当:齋藤大輔
栗の木・ピノコ・滝の精・山猫:工藤純子
(公式ホームページより)

{E89FFEFD-47D2-4469-B4AC-04FBD891D745}


宮沢賢治の書いた『どんぐりと山猫』は、一郎少年が奇妙な手紙を受け取る場面から始まるけれど、この舞台ではどんぐりたちの言い争いから物語が始まる。

「どんぐりの背比べ」という言葉どおり、傍から見れば似たり寄ったりのどんぐりたちにもそれぞれの自負やプライドがある。どんぐりたちの「誰が一番偉いか」という(例年苦労させられている)論争に終止符を打つべく山猫が考えた手段は頭のいい人間の子どもの意見を聞くことだった。

頭のいい子どもである一郎を迎えに出向いたのは、山猫に仕える馬車別当(馬車や馬の世話をする人)だった。一郎と別当が森で山猫を探すうちに、それぞれの悩みを抱えた栗の木やキノコの歌姫や滝の精と出逢う。

2人と出会うことで悩みを抱えた者たちが変わっていく、そこで描かれるある種の「気づき」が、今回観ていてとても印象的に感じられた。

最初に出会ったのは栗の木。飛ぶことも走ることもできない大木の身ではあるけれど、歳を重ね知恵を蓄え、その知識で広い世界を見つめようとしている。しかし別当の言葉で、遠くを見ることばかりではなく、自らの足元を見つめることの大切さを想う。

あるいは、キノコの歌姫ピノコ。高慢もわがままもコンプレックスの裏返しだ、などというのは浅薄すぎるかもしれないが、ある種の葛藤が彼女を自分自身の心から遠ざけていたことが観ているうちに伝わってくる。

真摯なまなざしの凜とした滝の精は、彼自身の誠実さが自らを追い詰めていたけれど、むちゃくちゃでまるでなってない別当の踊りに、思いつめていた間に気づかなかったことに気づく。

そして、長い年月森を納めてきた山猫様と、裁きを求めるどんぐりたち。

一郎は彼らに言う。一番えらいのは、この中で一番バカでめちゃくちゃでまるでなってないような者だ、と。

それは皮肉でも言葉遊びでもなく、不器用で誠実で一生懸命なでんちゃんや別当の姿を観てきた一郎が辿りついた答えだった。

森の仲間たちを短い時間で演じ分ける工藤さんの演技と声の確かさ。でんちゃんと別当、それぞれの誠実さを客席に伝える斎藤さんの温かい雰囲気。そして、主人公の一郎を演じた山田さんの生き生きした少年らしい表情。

少人数の舞台だからこそ感じられる精一杯な雰囲気は、登場人物の想いと相まって、このチャーミングな物語を胸の中でキラキラと光る宝物のように感じさせた。

{CD00FC52-89F6-4679-825A-C77484B344D0}

会場のロビーには、子たちが描いたたくさんのどんぐりたち。これを描いた子どもたちは、この舞台からどんなものを受け取ったのだろう。そんなことを考えるとなんだか楽しくなった。

{FEBE03AD-7D8E-45F6-AD58-388475CA0F91}

地元有志による実行委員が主催する公演だったため、手作りらしい温かさがこういった会場内の展示にも感じられた。

こういう雰囲気もまた芝居を観ることの一部なのかもしれない、と思ったりした。

{F56575B2-2309-41FD-BCA0-75836FEC0C4F}