小さい頃から心に強く決めていたことがある。

学校にいる時に火事や地震があっても
絶対、廊下になんか並んで非難しないぞと思っていた。

もちろん、避難訓練はちゃんとやった。
あんな練習の場でこちらの手の内を明かしても
しょうがない。

さも従順な奴隷のように、まるでナチスドイツに
迫害されたユダヤ人がアウシュビッツの
毒ガス室に連行されるように廊下を歩いた。

しかも「おすし」だ。
「おさない、すばやく、しゃべらない」

パニック状態になった子供達が
冷静に火事の煙が充満している建物から
煙を避けるために身をかがめ、ハンカチを口に押さえ、
廊下に綺麗に並んで、脱出するなんて芸当が
できるわけないと常々思っていた。

教室のドアに我先にと押し寄せ、
将棋倒しになり、悲鳴を上げて
阿鼻叫喚、地獄絵図となるだろうと。

俺は小学校低学年から
いつかの地震、火災に備え、
そんな時にも冷静に人の波をかいくぐり、
いち早く校庭に脱出するシミュレーションを
怠ったことはない。


中学校2年の時、ついにその時は来た。
俺のクラスは美術の時間で一階の美術室にいたのだが、
かなり大きな地震が来た。


おい、カラシ、どんだけ前からこの日に
備えていたのだ。

ここは一階だぞ、出来る、お前なら出来ると
逃げ出そうとしたが、
ビビッて足にうまく力が入らない。

結局、俺は初歩的な机の下に潜ることもできずに
ただ、ただ椅子に座ってキョロキョロしていた。
ミーアキャットのように。

何が驚いたってクラスの女の子が一人、
キャーと悲鳴を上げながら、
もちろん廊下になんか並ばずに、
校庭の真ん中まで走って逃げていったことだ。



正田(仮)さん、あんた、すげぇよ。