きぼうしゅうらく

稲がうっとりしている。


真夏の日差しにあぶられて、ただじっと直立しているばかりだったけれど、お盆あたりから穂を出し、ゆるゆるとまどろみはじめた稲穂。
9月に入って空気がとたんに濃度を落として、首を通る風もひんやりしてきた。日が落ちるのも早くなって、星も月も綺麗に夜を横切ってゆく。


来週、再来週あたりには稲刈り。


なんだかふと。
去年の稲刈りの合間、軽トラの荷台に隣に座った橋場さんが、
「冬の出稼ぎの寒天作りで、長野の南アルプスから昇る太陽を舞う雪が、本当にきれいだったんだ」と話していたのを思い出す。きっと大切な、映画のような一場面。



稲刈りを前にするとそわそわするけど、楽しみだなぁ、とくるみを割りながら思う秋の夜。だれかになにかを話したいけど、難しいことも大変なことも重い問題も、今日は少しだけまな板の上に置いておこう。