5月

きぼうしゅうらく


坂ノ上さん、隠居さんちの庭に、
チューリップが咲いていた。

赤と黄、そして一本の白。
大きな蝶々のように甘く群れ、地にとどまり、
春風にかすかに反応する。


人間ではない、目に見えないものが作った
チューリップという作品。
いつも笑っている人のこころを、そのまま取り出したような造形で、
分校の校庭にも咲かせたいと思った。


チューリップの季節が終わるころ、
坂ノ上さんが、たくさんの球根をくれた。
「秋に植えるといいよ。
すると次の春咲くからね」
ビニル袋いっぱいの球根を、抱えてまだ来ぬ秋を待ちわびる。