単純化が間違いを呼ぶ TV朝の「学べるニュース」(上) | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

昨日の夜8時からのテレビ朝日の「学べるニュース」に例の辺真一さんが出演し、最近の朝鮮半島を巡る様々な動きを金正日国防委員長の訪中と関連させて解説していました。辺さんが何を話すのかは聞かなくても分かりそうだったので見る気は無かったのですが、友人に見るように言われて見てしまいました。


ところが案の定でした。もちろん時間の概念を持てない、としわの行かない子供達に昔話を聞かせるのに000年とか言ってもだめで、「昔々」と教えるように、まったくその問題に無知な人を相手に話すのですから、多くをはしょって簡単明瞭に教えることが難しいのは分かります。また頭が混乱しないように10ある中の1つだけを教え、複雑な問題を単純化して教える必要も生まれるでしょう。しかし、だからこそもっとも肝要なことを正確に教える努力はすべきでしょう。そうしないと事の本質をねじ曲げたり、間違った理解をさせてしまう恐れがあります。


もっとも番組は商品であり、売れれば良いわけですから、質に対する評価もどれだけ正確な知識を伝達したかではなく、どれだけの視聴率を獲得できたかによって決められてしまうわけですから、番組としてはそこそこ成功したかも知れません。


しかし、そうした番組がじわじわと視聴者の目を曇らせ、ねじ曲がった判断基準を持たらしてしまうと言う、罪作りの繰り返しで終わってしまう恐れがあります。


「学べるニュース」の辺さんの解説とそれをわかりやすく描いたクリップもそうした罪作りなものでした。辺さんはご自分を含めて専門家の間ではと前置きしながら、国防委員長の訪中は3つの重大な変化をもたらしたとして、①朝鮮が中国に都市を開放した②韓国に対する北の圧力が増大した③アメリカとの関係が変化した、と指摘していました。


辺さんの言う「専門家ら」とは誰を指して言っているのかよく分かりませんが、管理人の目から見れば、「専門家」を売り物にしてまがい物を売っている古物商のように、素人よりもたちの悪い連中に見えます。


たとえば国防委員長の訪中が経済援助を受けるためのものであったかのような説明がありましたが、彼は国防委員長の訪中が去年の2度にわたる訪中とはそのルートが違っており、なぜわざわざ遠回りしたのかという点にまったく気づいていません。つまりその歴史的意味についてまったく感づいていないと言うことです。


また朝中経済協力についての説明も、世界経済が危機的な状況に見舞われているなかでの、朝中経済協力関係の持つ戦略的意味についてまったく気づいていません。一方が援助し、他方がそれを受けると言った2国間だけで見ることのできる問題ではないのです。


たとえば辺さんが指摘した羅先特別市だけではなく、朝中間では黄金坪の共同開発も完全に合意し開発の開始について合意を見ています。この黄金坪はもともと鴨緑江の河口にある島でしたが、今では中国側沿岸が土で埋まってしまい陸続きになっています。つまり唯一、朝中国境線が陸上に引かれている場所です。


しかもこの黄金坪の中国側は「香港・マカオ工業開発区」で、鴨緑江の河口は中国の渤海、朝鮮の西海に繋がっており、渤海ではすでに油田が発見されています。朝鮮西海にも油田は確実にあると言われており、黄金坪からもでるのではないかと言われています。東の羅先特別区、西の黄金坪、そして新義州特別市が中国と繋がったと言うことで、それは他でもなく現在の世界的な経済危機に対応した朝鮮と中国の経済開発戦略の主要な柱となっています。


つまり朝中共同で、いまだ西欧資本によってがんじがらめ状態に陥っていない第3世界後進国に、今の世界的な経済危機からの脱出口となるモデルを作り上げているという点で、世界経済に多様な影響を与える事も考えられる問題です。2国間を越えたもっとグロ-バルな話だと言うことが分かっていません。


つぎに②の問題ですが、朝鮮は何も朝中経済協力の約束を得たから韓国に対して強硬になったわけではありません。まず事実関係から見てみましょう。朝鮮の対南硬化への変化が、国防委員長の訪中中にあった李明博大統領のいわゆる「ベルリン提案」がきっかけになったと言うことは韓国でも広く認められています。そしてその「ベルリン提案」が反統一的な、分断固定化を目指すものであったと言うことも韓国では広く認められています。


つまり李明博大統領の「提案」は北側が、これまで全てを我慢し北南の和解と団合を目指して、行ってきた全ての提案、会談を完全に断ち切ったと言うことです。これを機に北が硬化したことは、その後の北の発表したあらゆる公式見解が教えてくれます。辺さんの見解は、こうした具体的な事実をまったく無視して勝手に推理したものに過ぎません。推理小説にしてももう少し合理的なストーリーが必要です。辺さんの見解は推理小説にもならないと言うことですか。


③の問題に移ります。辺さんの解説では、朝中経済協力の約束で息をつくことが出来るようになった朝鮮が、アメリカに援助を頼る必要も無くなったので対米強硬に出たということになっています。ところが問題はそんな簡単な話ではないという事にあります。これについては明日また書くことにします。(つづく)