君の演奏を聴きながら書いてみる。ほんとうに人のこころの戸を一途に叩く演奏だね。誰も君のこころを、魂を、愛さずにいられない。君の存在を感じさせる演奏だから。音楽を愛することは、演奏をとおしてその人を愛することになること、それをきみはぼくにおしえてくれた。きみは〈独り〉で弾くのだから、どうして君の「人間」を感じずにいられようか。「人間」に向き合うのは、いつも「独り」と「独り」だ。僕は自分のこころを一緒に反省してみようと思ったけれど、中心はきみのこころを感じることなのだ。ぼくはきみの演奏以外できみのこころを推し量ることなどまったくしない。もっとも疑えない真実のきみのこころは演奏に、彫刻を触って知るようにくっきり感知される。これが唯一たしかなものだ。おなじ言葉はくりかえさないけれど、ぼくは十分ほんとうのきみに出会っている。さし向かいにね。ぼくはプライドがたかいから、その他おおぜいとしてきみを聴くことはしない。もしそういう場で聴くとしたら、かならず特別な関係にある者がおしのびで一般の者に混じって聴くように、きみとつながりながら孤独にひっそりと聴くだろう。おやすみ、明日はぼくは沈黙の行をする。