『この世界の片隅に』

上映館も増えてきて、観客動員も絶好調ですね。

この映画がヒットしてくれる事は、日本映画界においても意義がありますし、

また、個人的にも嬉しい。(何も関わっていないけど、とにかく嬉しい)

 

映画の感想などは、皆さんたくさんの方々がそれぞれにアップしておられますので、

ちょっと違う視線で。

 

 

 

この映画には、近頃のアニメには当然あってしかるべきファクター

『王道』『お決まり』『お約束』などは、ほとんど使われていません。

 

ましてや『萌え』『燃え』の要素もほとんど無く、(厳密に言うと存在しますけど)

『スタイリッシュ』にはほど遠く、清々しいくらいに現代のアニメの様式を

踏まえていません。

(テクニック的には最先端の技術ですけど)

 

原作がそうだから、そうなったのだろう、と言う意見は

もっともですけど、あのように制作側の誘導(感動の押し売りや過度の演出など)を

ほとんど感じさせないのは、物凄く潔い事だと思います。

 

戦争当時の庶民の暮らし振りだけを、淡々と描いて行くのは

易しいようで、物凄く難しい作業だと思います。

 

 

どんな映画でも、監督さんの個性が反映した演出が施されます。

そして、それが、受け手側の我々に伝わる時に

悪い例で言うと『押し付け』を感じる事があります。

いわゆる『ここで泣け』『感動しろ』なんてね。

 

ま、それが映画だよ、って言われたらその通りなんですけど。

 

 

でも、この映画を通して観て、

そんな意図的な演出を全然感じなかった。

 

これは凄い事です。

ドキュメンタリーの実写(それすら編集によって改変されるけど)を観ている感覚。

 

もちろん、それが監督さんの個性なんでしょうけど。

本当に驚かされました。

この監督さんとお話しがしたい!お友達になりたい!

そして『すずさん』のお話しがもっと聞きたい!

 

まるで、すずさんがまだ生きておられるような感覚。

 

不思議ですね。

 

この例えは適切ではないかもしれませんけど、

何十年か前に、ちばあきおさんの『キャプテン』と言うコミックに

出会った時も、こんな感覚になったものです。

 

当時は、野球マンガと言えば

『根性もの』で『魔球を投げたり』する登場人物の、超人的な活躍もの

ばかりだったのですが、

この『キャプテン』は学生野球の日常を淡々と描く、と言う

当時としては画期的な作品でした。

 

今では『大きく振りかぶって』とか、そのラインですけど。

 

 

つまり、映画や映像作品に対する、我々の欲望が、

過度の演出を呼んで、行き着くところまで行って

それに辟易していた時に、

このような素晴らしい作品に出会う事によって、忘れていた

『シンプルこそ原点』を

思い出させてくれたのかのしれません。

 

 

これからの制作姿勢を、もう一度根本から考え直すようにならないといけない時代に

我々は入ってきたような気がします。

 

 

ともあれ、この作品が多くの人の眼に留まるように、

応援を続けていきたい!とい、思っています。

 

 

(追記)

『筋を欲張り過ぎ』な作品は、このところ少し疲れますね。