世の中はデフレの波がどんどん進行しているようですね。
しかし、それに伴い高級品の売れ行きが悪い。

たとえば、ファッションではファストファッション大全盛で、
つい先頃まで、女性の方々が目の色を変えて競って購入していた
ブランド物が全く売れなくなりました。

物の値段が安くなる事は良いのですが、それが行き過ぎる事に
なると、困った事になって行きそうです。



我が音楽界にも、もうずっと前からこのような現象が起きて
いました。

あれは、何年ぐらい前でしょうか、『ハウス』と言う音楽が
世の中に認知されるようになりました。

『ハウス』は主にラップ音楽と深い繋がりがあり、
簡単に言ってしまうとハウス、つまり家で作った音楽、
スタジオやホールのような音楽録音専門の場所で、録音された
ものではない音楽の事を言います。

今では、録音機器や音楽制作機器は、ほとんどアマの方とプロが
使うものに差はなくなって来たのですが、
当時は安価なリズムマシーンやシンセを駆使して
『ハウス』の音楽は作られて行きました。

当然、音自体も豪華な良い音ではなく、ノイズをわざと入れたり
どちらかと言うとチープ感溢れる音楽でした。

これはファッションで言うと、ジーンズをわざと汚し、
所々に破れ目を入れる感じに似ています。
少し、”不良”のイメージですね。

しかしこれが格好良いと世間に受け、どんどんこの方向へ
音楽が移行し始めます。

手軽に家で作れて、予算も全然かからないこのやり方は
制作者側にとっても好都合だったのですが....


あれから幾年が過ぎ、今の音楽はどうなったでしょうか?

ゴージャスで華やかな音楽、美しいメロ、複雑で深いけれど
心の底に響く音響を持った音楽は、ほとんど聴かれる事は
なくなりました。(クラシックは除く)

あるのは、格好良いリズム、単純に構築されたサウンド、
印象に残らないメロのオンパレードになっています。


つまり世の中、ファストファッションだけになった状態です。

ジーンズの若者もいる、ブランドで着飾った女性もいる、
着物を粋に羽織った男性もいる、
こんな色々なタイプの人達が歩く町が理想なのですが、
今の音楽界は、破れたジーンズ姿だけになってしまいました。

その結果、CDの売り上げは全盛期の半分以下に落ち込んで
しまいました。

それは、ネットの驚くべき普及による所も多いのですが、
ある特定の購買層だけを追いかけて、多様化した製品を
世の中に送り出してこなかった音楽界も悪いのです。


それに伴い、こんな弊害も出て来ました。

生の楽器を録音出来るミキサーさんが、いなくなって来た
事です。

若いミキサーさんは、このような音楽界の流れから、
必然的に生楽器を録音する機会に恵まれず、
また、このところミキシングも自宅で、
と言う人が多くなって、スタジオで先輩の録音技術を
盗む機会もなくなってしまいました。

結果、オーケストラなど豪華な音を録音出来るミキサーさんの
高齢化がどんどん進行しています。


このままでは、オケを取りたくても取れない状況が
遅かれ早かれ来てしまう事も予想されます。

同じような理由で、スタジオミュージシャンの方の高齢化も
心配です。


悲しい事に我々日本人は、世の中の流れに
つねに敏感過ぎます。

人と同じ事をするのが安心なのか、一つの方向に
ダーッと皆んなで行ってしまう傾向があります。

今は不景気でしょうがないのかもしれませんが、
今の生き方が未来を決めるのです。

何とか、心までは荒まないように5年後、10年後の音楽を
守るためにも、努力して行きたいと思っています。