医療ADR連絡協議会・研究会が発足 | kempou38のブログ

医療ADR連絡協議会・研究会が発足

●ソネットエムスリーの医療維新レポート(2008年2月4日)
医療ADR連絡協議会・研究会が発足
 ADRの相互連携、医療者への啓発を目指す
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080204_1.html

橋本佳子(m3.com編集長)
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 医療ADR連絡協議会・研究会が2月3日発足し、その設立記念シンポジウムが東京都内で開催された。連絡協議会会長には、東京大学名誉教授で弁護士の新堂幸司氏、研究会会長には自治医科大学学長の高久史麿氏がそれぞれ就任した。

 連絡協議会は、ADR(裁判外紛争処理手続)を既に運用している、あるいは今後計画している団体が相互に情報交換し、連携していくための組織。研究会は、医療者や患者、法曹関係者、さらには広く一般市民を対象とする組織で、ADRに関する啓発や意見交換を行う場としている。連絡協議会と研究会は連携して運営する。発起人も共通で、医師や弁護士、法学者を中心に計36人が名を連ねている。舛添要一・厚生労働大臣のメッセージも読み上げられ、この協議会・研究会をサポートするなどして、ADRを推進していく意向であるという。

● 「裁判では、患者も医師も疲れ果ててしまう」

 ADRが確立していないわが国では、その概念は必ずしも明確ではないが、共通しているのは、当事者間(例えば、医師と患者など)で紛争が解決しない場合、即裁判に至るのではなく、その前の段階で解決を図ることを目指す点だ。

 広義で言えば、院内のADRと、院外の第三者機関によるADRに大別できる。院内ADRとは、例えば医師や弁護士など院外の専門家を交えた組織を院内に設置し、医療事故の原因調査や患者との話し合い、調停などを行う組織。一方、院外ADRは、医療機関とは独立した組織で、医療機関あるいは患者から持ち込まれた相談事例について、調査・相談・調停などを行う組織で、弁護士会によるものが現在はメーンだが、医師会主導など様々な形態がある。

 この日のシンポジウムでは、医療ADRの必要性が指摘されるようになった背景、医療ADRの制度設計の視点や、医療ADRへの取り組みなどに関する講演が行われた。どんな形態のADRを設置するにせよ、各者の発言で一致していたのは、現状の裁判の限界と院内での初期対応の重要性だ。
 
 東京高裁裁判所判事の西口元氏は、最近短縮傾向にあるものの、依然として長時間を要する医療裁判の現状を踏まえ、「患者も医師も裁判開始から、2~3年たつとお互いに疲れ果てて、『もう結構です』となってしまう。これでは何の役にも立たない。医師は裁判を嫌い、危険な手術をしなくなってしまう。これは結局、患者側に跳ね返ってくる問題」と、裁判以外の紛争解決手法の必要性を指摘した。早稲田大学大学院法務研究科教授の和田仁孝氏も、「民事裁判に至った事例でも、患者・遺族側の3分の2は、弁護士や法的な解決に対して満足していないという現状がある。裁判では、事実評価や対話といったニーズに対応できないからだろう」と述べた。


● 「院内での初期対応が一番重要」で一致

院内の対応の重要性について、国立がんセンター中央病院院長の土屋了介氏は、「医療事故を防止するための医療安全管理体制、つまりリスクマネジメントはある程度確立してきたが、クライシスマネジメントができていない。医療事故が起こったときに的確に対応し、患者に説明するための体制の確立が今後の課題」と述べた。

 安城更生病院(愛知県安城市)神経内科部長で、医療安全部長を務める安藤哲朗氏は、自院の取り組みを紹介。院内の紛争は年間約200件で、そのうち現場で解決できず、安藤氏が当事者の間に入り話し合いを進めるのが約30件、それでも解決に至らず裁判に至るのが約3件という割合だという。安藤氏は、「明らかな医療ミスの事例と、医療ミスがないことが明らかな事例があるが、その間のグレーの部分を明らかにすることは医療そのもの。また医療紛争は、ミスがない事例でも、医療者と患者のコミュニケーション不足があれば起きる」と院内での対応の重要性を強調した。具体例として、腎生検後の3日後に患者が死亡した事例を紹介。遺族は当初、突然の死に不信を抱いたが、AI(オートプシーイメージング)でクモ膜下出血が認められたため、病理解剖を行い、死因が明らかになった。こうした病院側の姿勢に家族の納得が得られ、紛争に至らずに済んだという。


● 多様なADRの有機的連携が不可欠

 院外ADRについては、法政大学法科大学院教授で弁護士の中村芳彦氏が各地の取り組みを紹介した。弁護士会が運営している紛争解決センターは全国に28カ所(24弁護士会)あり、2006年度に全国での受付件数962件中、医療関係が54件、解決件数は379件中23件だった。最も活発に活動している愛知県弁護士会のセンターの場合、2001~2004年度の解決事例では、医療機関が支払った和解金は、最低が20万円、最高が950万円と比較的少額にとどまった。医療機関に責任があることを認め、金銭面での解決のためにセンターを利用した事例が多かったが、有責か無責かが不明の事例もあったという。

 こうした裁判手続きの簡略版とも言える「裁判準拠型」のADRには、限界がある点にも中村氏は言及、「損害賠償を請求するほか、解可能な説明を求めたり、再発防止につなげてほしいという意向の患者もいる。院外ADRの実施に当たっては、院内対応との連携や、当事者間の対話を重視するタイプのADRとの連携が重要」と話した。

 紛争に発展した場合、患者側のニーズは「誠実に向き合ってほしい」「真相を知りたい」「二度と起こらないようにしてほしい」「金銭的に賠償してほしい」と多岐にわたる。こうした多様なニーズに柔軟に対応、特に対話を重視し、紛争解決を進めるのが「対話自律型ADR」だ。早稲田大の和田氏は、「患者側に多様な紛争解決の選択肢を提示するためにも、様々なADRが連携していくことが重要」と指摘した。

 もっとも、ADRは前述のように、発展途上にあり、「裁判準拠型」「対話自律型」というタイプ分けは、ADRを運営する側の論理にすぎない。医療紛争に直面した患者側が、どちらのADRを利用するかを選択しなければならないのは、おかしな話だ。だからこそ医療ADR連絡協議会の存在意義があるのだろう。ADRが有機的に機能させるためには、医療者、法曹関係者の壁を取り払った議論が不可欠だ。