1 | 2 | 3 | 4 | 5 |最初 次ページ >>
2017-07-09 08:13:37

【18】夜道の足音

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」

カツカツカツ。

暗い夜道、ひとけのない道を私は一人で歩いていた。

部活が終わってから友達と話していて、つい遅くなってしまった。

家への帰り道を急ぐ途中、後ろから近づいてくる靴の音に気づいたのだ。

カツカツカツ。

私はふと足を止めてみた。すると足音も止まる。

歩きはじめると、足音も再開される。

つけられている!

私はとても後ろを振り向く勇気はなかった。歩きながらどこか開いている店や知り合いの家がないかきょろきょろと見まわしたが、もともと住宅街のため、店はなく、また、残念なことに知り合いの家もみつからなかった。

叫んで助けを求める?

でも、私は声を出すことが出来ない病気だ。叫べない。

小学生の頃は緊急用のブザーを持っていたが、中学生になった今は持っていない。ケータイで大きな音を出したらどうだろうか。私は歩きながらカバンからケータイを取り出した。

その時いきなり、ケータイが光り始めた。誰からだろうと画面を見ると父だった。

「驚いた? カナエ、後ろにいるの、オレだよ。オレ」

後ろを振り返ると、そこにはケータイで青白く光った父の笑い顔が。

「サイテー」

思いっきり、怒鳴りつけたかった、が、私は声が出ない。

                                          終

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2017-07-02 09:04:30

【17】でんわ

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」

「久しぶりだな、ワシだ」

「え、父さん? 一体どうしたの」

「お前、ずーっとうちに帰って来ないから。

最後に来たのは、えーっと」

「十年も前かな。盆も正月もない生活してて、なかなか戻れなくてごめんよ」

「電話しようかどうか、迷っていたんだが、さすがにこれは電話しなきゃと思って。

ショックかもしれないが。

かあさんが、死んだ」

「えっ……」

「車にはねられて。あっという間だった。痛みさえ感じなかったろう。

顔はきれいなままだった」

「…か、かあさんが」

「出て行ったきりのお前のこと、いつも心配していたぞ。電話とか、なにだ。連絡は」

「手紙、よくもらった。返事出すひま、なかったけど」

「そうそう、手紙よく書いてたな。

ワシには見せなかったけど、お前の写真見ながら書いてた。

お前、帰って来れないか」

「…だめなんだ。どうしてもいま仕事、たてこんでて。

たとえ実の母親が死んでも休みは取れそうにない。

…なんて親不幸なんだろ」

「…しかたないな。ただ、かあさんに盛大な葬式をしてやりたいんだ。

金、送ってくれないか。百万ほど。あるか」

「うん、なんとかなると思うよ」

「かあさんのためだ。振込先、言うから、頼む。」

「…わかった」

そしてワシは銀行口座を告げ、電話を切るとリストの次の若者に電話した。

「久しぶりだな、ワシだ」                

                                          終

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2017-06-25 08:26:13

【16】アプリ

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」

 文字を入力すると音声で読み上げてくれるアプリがあると聞いた。

 私のように声を出すことができない人にとって、とても便利だと思う。

 タブレットでアプリを検索すると、音声読み上げのアプリがたくさんみつかった。

 その中で私は最新の「脳内コメント」というアプリをダウンロードしてみた。

 これは声を出さなくても思ったことを脳波で読み取って音声で出してくれるという優れもののアプリだ。アプリをスタートしてみると、アニメの美少女風の案内役が出てきて、「脳波を同調します。頭の中でアイウエオと5回言って下さい」

 私は頭の中で「アイウエオ」と唱えていると、やがてタブレットから「アイウエオ、アイウエオ」と声が出た。オプションにより声の性別、年齢、高低、大きさ等が選べた。

 私は女子、18才、高めのレベル、普通の大きさを選んだ。

 「本当に思ったことが声に出るのかな。あ、声、出てる。すごいな、これは。誰が考えたんだろう。これさえあれば普通の人と同じように会話できる。キーボードで打ち込まなくても、思うだけで話せるし」

 「だけど思ったことをすべてこんな風に声に出してしまうと困ったことになるな。秘密がなくなる。人の悪口を思ってもすぐに声に出る。好きな人に会ったら好きな思いが声に出る」

 私はアプリを削除した。  (終)

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2016-07-03 08:24:04

【15】どんな仕事か

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
夕食後、母親があらたまった様子で
「これからの世の中、どんな仕事がいいのかね」とたずねた。
私はケータイをさわりながら
「高齢者がいっぱい増えるから、やっぱり介護系かな」
「そう、団塊の世代の人たちが年寄りになって、その人たちの世話をするのは、あなたたちなのよ」
「となると、やっぱオレオレ詐欺かな」と兄もケータイをさわりながら言った。「オレだよ、オレ、ってやつ。年寄りが多くなるから、金をまきあげる相手も多くなるってわけ」
「なに言ってんのよ」と母親が少し怒りぎみに言った。
「そうよ、オレオレ詐欺なんて」と私も言った。「昔の年寄りはお金を持っていたけど、これからの年寄りは金もないんだよ。大金まきあげるの、むずかしいんじゃない」
「そういうことでなくて」と母親が私をにらんだ。
「女だったら、金持ちの年寄りと結婚するっての、どう? すぐ死ぬから財産もらえるよ」兄はあいかわらずケータイをさわりながら言う。
「玉のこし、ってやつね」と私。
「そんなことしか考えないんだね」と母親がため息をついた。「将来のこと、しっかりと考えないと。これからの世の中は、金持ちか、貧乏で、中間のいない格差社会になるんだから」
「どんな仕事が儲かるんだろ」と兄。
「金儲けもたいへんだよね」と私は言いながら、ケータイでネットカジノで20万円をもうけたのを確認した。
兄はケータイでデートレードをしているが、毎月100万円の収入があるそうだ。
もちろん母親には内緒だけど。
「本当に、どーしたら金がもうかるかね」
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2016-06-01 05:59:48

【14】赤レンガの家の少年

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
通学路に赤いレンガでできた洋風な家がある。
二階建てで道路に面していて、二階に窓がある。
大きなレンガの門があり、私は学校へ行く途中でいつも見とれていた。
こんな素敵な家にいったいどんな人が住んでいるのだろう?
通学途中、興味津々で家を見上げる毎日だった。
そんなある日、二階の窓が開いていた。
白いカーテンが揺れていて、はっと窓を見上げると、
そこに彼がいた。
彼は窓際に立って、遠い目をして空を見上げていた。
そのしゅんとした鼻立ちと、さびしそうなまなざしに私はドキッとした。
年は私の二つか三つ上だろうか。
思わず見とれていると、彼は窓を閉めてしまった。

一目惚れかもしれない。
学校へ向かう途中、ずっと彼のことを考えていた。
どんな人なんだろう?
ずっと家にいるんだろうか?
寂しいんだろうか?
その日一日、学校で何をしたか、全く覚えていない。
学校から家への帰り道を急ぎ、あの家の前まで来た。
期待しながら窓を見上げたが、窓は開いていなかった。
私はしばらく家の前をうろうろしていたが、窓は開かなかった。
あれ、これって、変質者?

次の日の朝、登校時に窓を見上げたが、やはり窓は開いていなかった。
「カナエ!」
学校で私の様子を心配した友人が声をかけてきた。
私は声を出せないので、タブレットを取り出して、
赤いレンガの家の少年の事を教えた。
友人は彼のことを知っていた。
「ああ、彼ね、でもカナエは彼とはうまくいかないよ」
「どうして?」私はムッとしながら、タブレットで文字を打つ。
「だって、彼、目が見えないの。
声の出せないあなたと、どうやって会話するの?」
                                 (終)
いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |最初 次ページ >>

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。