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2016-06-01 05:59:48

【14】赤レンガの家の少年

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
通学路に赤いレンガでできた洋風な家がある。
二階建てで道路に面していて、二階に窓がある。
大きなレンガの門があり、私は学校へ行く途中でいつも見とれていた。
こんな素敵な家にいったいどんな人が住んでいるのだろう?
通学途中、興味津々で家を見上げる毎日だった。
そんなある日、二階の窓が開いていた。
白いカーテンが揺れていて、はっと窓を見上げると、
そこに彼がいた。
彼は窓際に立って、遠い目をして空を見上げていた。
そのしゅんとした鼻立ちと、さびしそうなまなざしに私はドキッとした。
年は私の二つか三つ上だろうか。
思わず見とれていると、彼は窓を閉めてしまった。

一目惚れかもしれない。
学校へ向かう途中、ずっと彼のことを考えていた。
どんな人なんだろう?
ずっと家にいるんだろうか?
寂しいんだろうか?
その日一日、学校で何をしたか、全く覚えていない。
学校から家への帰り道を急ぎ、あの家の前まで来た。
期待しながら窓を見上げたが、窓は開いていなかった。
私はしばらく家の前をうろうろしていたが、窓は開かなかった。
あれ、これって、変質者?

次の日の朝、登校時に窓を見上げたが、やはり窓は開いていなかった。
「カナエ!」
学校で私の様子を心配した友人が声をかけてきた。
私は声を出せないので、タブレットを取り出して、
赤いレンガの家の少年の事を教えた。
友人は彼のことを知っていた。
「ああ、彼ね、でもカナエは彼とはうまくいかないよ」
「どうして?」私はムッとしながら、タブレットで文字を打つ。
「だって、彼、目が見えないの。
声の出せないあなたと、どうやって会話するの?」
                                 (終)
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2016-05-08 17:54:43

【13】運動会の夜のごちそう

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
運動会の夜、母親が皿いっぱいの唐揚げを出した。
「今日、がんばってたから、鳥の唐揚げよ!」
ユキとヒロシは大歓声を上げた。父親もうれしそうにビールの催促をした。
保育園での運動会で、ユキは徒競走で一位だった。障害物走でも一位、大玉ころがしでもチームは優勝した。
ユキの活躍ぶりに、父親はビデオ撮影しながら、大喜びだった。
弟のヒロシも大喜びだったが、それは運動会とは別のことでだった。
運動場の溝の中に巨大なカエルがいたからだった。
それは四十センチもあろうかと思われる巨大なウシガエルで、子どもたちの人気を集めていた。子どもたちは棒きれを持ってくると、巨大なカエルをつついては喜んだ。ユキはこわくてさわれなかったが、園児たちは何人もさわっては、キャーキャーと歓声を上げていた。
「おいしい」とヒロシは唐揚げを食べながら、「でも、あのカエル、大きかったね」
「ああ、だから今日は、こんなに唐揚げがたくさんあるんだよ」
「えっ」ヒロシとユキは不思議そうに父親の顔を見た。「なんて言った?」
「これ、カエルの唐揚げ」父親はビールをうまそうに飲んだ。「鶏肉みたいな味だろ」
「食べない」「私も」
子どもたち二人はいやそうな顔をして、箸を置いた。
「あなた、独り占めしようと思って、そんな嘘ついちゃ、だめよ」母親が言った。
「ああ、悪かった。そういう話だったな」
そう言うと父親は口からカエルの足をペッと吐き出した。
                                  (終)
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2016-04-26 06:29:50

【12】合唱コンクール

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
合唱コンクールは苦手だ。
声を出せない私はもちろん歌うことができない。
それなのにクラスの中にまざってただ黙って立っていなければならない。
学年で練習した時に私のことを知らない他のクラスの先生に大きな声を出して歌うように叱られたことがあった。そんな時、担任の先生が慌ててフォローしてくれたけど、私は傷ついた。
中学三年生になった。
中学生最後の合唱コンクールということで、皆気合の入り具合が違っていた。リーダーの人たちは最優秀賞をとりたいという気持ちが強く、練習の指導にも力が入っていた。朝練に、昼休みも練習、放課後ももちろん練習だった。
そんな中で、歌わない私はとても目立つ存在だった。
だからクラス会長の山根さんが
「カナエちゃん、口パクでいいから、大きな口を開けてくれない? クラスのためなの」と私に頼んだ。
実は私は小学校から中学にかけての合唱のたぐいは口パクしていた。でもそれはけして大きな動作ではなく、申し訳程度に口を開けていただけだった。
リーダーたちの一生懸命のお願いと指導があって、わたしは 実際に歌っているかのように大きな口を開けて、体を揺らした。
合唱コンクールの当日も、皆に合わせて歌うふりをした。
私のクラスは最優秀賞に選ばれた。
皆、喜び、泣いていた。
私は思った。
バカらしいって。
                             (終)
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2016-04-10 19:49:24

【11】夢はアイドル

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
夏休みに親戚が集まった。
小学三年生の従妹の未来(ミキ)が
「私の夢は、アイドルになること」と言った。
親戚一同、騒然となった。
確かに未来は目がクリッとした髪の長い美少女だったのだ。
「未来ちゃん、アイドルか!」とおじが笑った。
「未来ちゃん推しになるよ」
「未来ちゃん、なんでアイドルになりたいの?」
おばの質問に対して、未来は自分に視線が集中していることを意識し、大人たちをグルリと見まわすと答えた。
「だって、いろんなとこに行けるし、いろんなおいしいものいっぱい食べられるでしょ。きれいなお洋服も斬れるし、ブランド物のバッグもいっぱいもらえる。みんなにチヤホヤされるし、TVにもいっぱい出られるでしょう」
未来の意外と現実的な答えに大人たちは笑った。
「お金、いっぱいもうけられるし、そしたらみんなにおこずかいあげるね」
『楽しみにしてるよ、未来ちゃん」とおじ。
「大介さん、家建ててもらえるかも」とおばが未来の父親に言った。
「ええ、お父さん、家、建ててあげる。でも男性アイドルグループのリーダーと恋愛事件を起こして、写真週刊誌でたたかれて、ネットでたたかれて、ゴシップまみれで苦しむの。あー、そういうの、やだな。やっぱ、アイドル、やめた」
あっと言う間の決断に、大人たちはあっけにとられた。 
(終)

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2016-04-03 19:33:45

【10】4/1

テーマ:ショートショート「古ぼけた原稿用紙」
春のある晴れた日、おそろしいことが起こった。
父はTVでミステリドラマを、私はタブレットをさわっていると、ドアベルが鳴った。
「カナエ、出てくれ。今、いいところなんだ」
私はため息をつくと玄関に向かった。ドアのマジックミラーで外をのぞくと宅急便の人が荷物をかかえていた。
ドアを開けると、その男はいきなりナイフをつきつけ、
「声を出すな」と言うと、私に中に入るように促した。
私が今に戻ると、父はTVの画面に釘付けのまま
「だれだった?」
「椅子にすわれ」私は男の言うとおり、椅子にすわった。
男は父に近づくと、ナイフをつきつけた。
「金を出せ!」
「金はないなあ」と父はのんびりとした口調で言うと、男は父にナイフをちらつかせ
「ふざけてると殺すぞ。手を後ろに伸ばせ」
父が男の言うとおり両手を背後に伸ばすと男はポケットからロープをとり出し、父の両手を後ろで縛った。その後、父の両足も縛り、さるぐつわをした。
「おい、お前、金のありかを言え。言わないと、父親を殺すぞ」
…私は声が出せない。
「おい、黙ってないで、早く言え。本当に殺すぞ」
私は手をバタバタ振るだけ。
「時間切れだ、殺す」男はナイフを振り上げた。
「やめて!」
声が出た。そして目をぎゅっとつぶった。
「カナエ、声、出たじゃないか」
目を開くといつの間にか父がそばに立っていた。
「ごめん、カナエのために芝居したんだ。この人、友人の大橋さん」
父は男の人を紹介した。
というのが、私のエイプリルフールネタだった。
嘘ぴょ~ん。







※しまった、2日遅れた…
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