2015年2月2日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第232回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。


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「イクメン」が消える日 子が育つ姿を男性にも

 中学時代の同級生が今年の年賀状に「まもなくおばあちゃんになります」と書いていた。娘が春に出産するらしい。同い年のおばあちゃんが誕生する時がいつか来ると思っていたが、予想よりやや早かった。保育の仕事に就く友人のこと、きっと孫の面倒も優しく見るだろう。

 さて、最近50代や60代の男性数人と食事をした。その中の60代半ばの2人はここ数年でおじいちゃんになったそうで、「孫がかわいくて仕方ない」と言う。最初は「そうか、ジジバカなのねえ」とほほえましく聞いていた。自分の孫は「責任がない分かわいい」だとか「自分の子どもが幼かった頃を思い出して懐かしい」と耳にすることもある。

 だが、その2人の「ジジバカ」はそんな理由ではないらしい。彼らが若い頃は仕事に忙し過ぎて子育ては妻に任せきり。自分の子どもがどう育ったのか全く知らなかったため、いま孫が育つのを見てかわいくてならないのだそうだ。親として経験するはずだった大切なものを、時間に余裕ができたいま取り戻しているのかもしれない。

 生きていれば70代後半だった筆者の父も若い頃は、仕事からの帰りが遅いことが多かった。筆者が幼い頃の思い出を両親と話す時、母はすぐに何でも思い出してくれたが、父は子ども時代の筆者について知らないことが時にあった。高度成長時代の「日本の父親」はそんなものだったのだろうか。

 筆者と同世代の友人で父親となった人たちを見ていると、子どもたちとの時間は明らかに増えた。彼らも仕事に忙しいが、時間を見つけては家族と過ごそうと努めているようだ。

 男子学生たちに30歳ごろの自分の姿を予想させたところ、多くが「結婚して子どもがいる」姿を中心に思い描いていた。男性が子育てに加わることは、女性の助けとなるだけではない。男性にとっても子どもが育つ姿を見る喜びは大きいはずだ。男性が自然に育児に関われて、「イクメン」という言葉がことさらに使われずに済む社会が待ち遠しい。

 (近畿大学総合社会学部准教授)