金井啓子ブログ

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


テーマ:
2014年7月11日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第203回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

“号泣県議”に学ぶ知恵 政務活動費をどう守るか

 あぜんとした。兵庫県議会の野々村竜太郎議員の号泣会見である。まさに前代未聞の記者会見だった。

 発端は政務活動費の使い方。県議の政務活動費の収支報告書によると、昨年1年間で福岡と東京、兵庫県の城崎などを日帰りで約195回訪れ、計300万円もの交通費を請求していたが、カラ出張ではないのかという疑惑が飛び出した。


 そして冒頭の記者会見である。具体的な点を質問されても「記憶にない」と答え、最後は大泣きして記者をけむに巻く始末。これ以外にも切手を大量購 入したり、日用品を政務活動費で賄っていたりと、どう考えても正当な政治活動に使ったとは思えない事案が大量に出てきた。県議が使途を明確に説明できない 以上、不正があったと言われても仕方ない。


 ただ、今回の問題は県議の一種独特なキャラクターに目を奪われがちだが、本質はそこにはない。貴重な税金である政務活動費を領収書なしでも使えて しまう甘さが、今回のような疑惑を生んだのだ。仮に県議がカラ出張を繰り返していたとしたら、不正を許してしまう土壌が議会や議会事務局の側にもあったと いうことだろう。収支の報告に甘さがあるのは、議員は不正を働かないという性善説に立った考えがあるからだが、政務活動費をめぐってはあちこちの議会で不 正が目立つ。ならばいいかげん、不正を防ぐ効果的な方策を考えなければならない。


 一つの方法は議員の収支報告書や領収書を議会事務局での閲覧だけでなく、議会ホームページ、広報誌などで公開してしまうことだ。事実、大津市など 複数の自治体ではホームページなどで広く情報を公開しており、税金の使い道の透明性を確保している。領収書が有権者に公開されるとなると、不届きな議員も 不正使用をためらう。誰も見ない、誰も関心がないから悪事が起こるのだ。人の目が光っていれば不正は起こりにくい。これには大した経費も要らない。大阪 府、府内の市町村の各議会も考えてはいかがだろう。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


PR
いいね!した人

テーマ:
2014年7月4日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第202回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

戦争“当事者”は動くか 無関心が呼ぶ行く末は

 「これからみんなはどうしていったらいいと思う?」と筆者が尋ねると、教室の中をしばし沈黙が支配した。集団的自衛権行使の容認が閣議決定された 翌日、筆者が担当する授業での光景だ。今回の決定で、筆者より若者の方が影響を受ける可能性は高い。だから、“当事者”である彼らがどう受け止めているか 知りたかった。


 変更の内容や手順を理解している学生が一部にいる一方で、ほとんど知らなかったり、誤解している学生も多かった。そこで、経過や現状を説明した上 で今回の決定をどう思うか聞くと、「戦争につながるから反対」「同盟国の敵を攻撃したら、最低限の戦闘で済まないだろう」「戦争につながると思うと自衛隊 に入る人が減るだろうから、徴兵制になるのではないか」「戦争になるとは限らないし、必要な権利だ」「お金だけ出しているわけにいかない」等々、賛否両論 だった。


 だが、学生自身や家族が戦争に行くことについて尋ねると、全員「嫌だ」と答えた。ただし、戦争を賛美する雰囲気が高まった時に拒否できるか自信が ない、戦場に向かわざるを得ないかもしれないという声も出た。ある女子学生は「私は戦争は嫌だと言う教育を受けた。でも、将来もし私の子どもが戦争をよい ものだとする教育を受けたら、考えが合わなくなって、子どもは進んで戦争に行くのではないか」との不安を口にした。


 さて、冒頭の問いに戻る。沈黙の後、少しずつ何人かが話し始めた。教育現場で広島を見せるなど戦争教育をするべきという意見が出る一方で、学校では教えなくなるかもしれないから家庭で戦争の悲惨さを伝えたいという声も出た。


 戦争へ向かう流れを食い止める手だてを考えるのは容易ではない。ただし、無関心でいれば流れが早まることは間違いないだろう。自分や家族が殺され るかもしれないし、自分や家族が誰かを殺すかもしれないのだ。無関心でいてはいけないことだけは、若い世代の人々に気づいてほしいと願うばかりだ。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


PR
いいね!した人

テーマ:
2014年6月27日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第201回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

強制的な結婚の悪夢 少子化脱出の道筋探る

 ある日、自宅に封筒が届く。差出人は住んでいる町の役所だ。中には「あなたは独身ですから、×月×日に町が主催するお見合い大会に参加してください。結婚して子どもを産むことは国民としての義務です。大会に参加しなかった場合には罰則があります」と書かれている。


 これはもちろん現実に起こったことではない。今のまま少子化が進めば起こる可能性もあると、友人と話していたジョークなのだ。でも、実はこれ、 「まだ」起きていないだけなのかもしれないと、近頃はやや背筋が寒く感じている。東京都議会のヤジ問題。傲岸不遜(ごうがんふそん)な都議の品性下劣なヤ ジは、ほんの氷山の一角ではないのか。ああいった考え方を持つ人が都議会にしかいないとは思えない。


 本当に誰もが結婚して子どもを産み育てなければいけないのだろうか。さまざまな理由で結婚できない、したくない人もいるだろうし、結婚をせずに子 どもを持ちたい人もいれば、結婚をしても子どもは欲しくない人もいるだろう。また、同性愛者のカップルは実子をもうけることはできない。それをひとくくり にして、「結婚して子供を産め」とはあまりに乱暴、あまりに時代錯誤である。


 冒頭のSFじみた暴挙に進む前に、やるべきことは他にある。経済的な理由や仕事への復帰をめぐって出産をためらっている人たちに対しては、財政的 な援助や保育施設の充実を図る。また不妊治療への財政支援も広げる。その不妊と言えば女性の問題という印象がまだ強いが、男性側が原因の場合もあることを 周知し、男性が治療を受けることは恥ではないという考えを広げることも大切だ。さらに、実の親に育ててもらえない子どもは多い。養子縁組の仕組みをもっと 柔軟にして、独身者や同性愛のカップルなどにも引き取りやすくする。


 価値観は既に多様になっている。その現実をまず認識しなければ、問題は解決しない。下品な都議の下品なヤジの背景には、社会のひずみがあることも知っておくべきだろう。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


PR
いいね!した人

テーマ:
2014年6月20日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第200回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

内紛に揺れる大阪維新 橋下市長のぐらつく足元

 先週のコラムに続いて今週も、大阪市の橋下市長そして大阪維新の会の話題を一つ。先週は、大阪都構想の制度設計を行う法定協議会が事実上ストップ しており、反対派の委員を追い出すことの是非をめぐって場外乱闘のバトルが演じられていることを書いた。都構想が大阪の発展につながるなら筆者は賛成、そ うでないなら反対とも記した。そのためには1日でも早い法定協の再開と真摯(しんし)な議論が求められる。


 だが、反対派委員を追い出す側の大阪維新の会が内紛に揺れていると知り、法定協の正常化より維新の正常化のほうが先だろうと思った次第である。


 内紛騒動に揺れているのは大阪維新の会市議団である。すでに一部の新聞が報じているが、複数の維新市議らが坂井良和団長の解任を求めて多数派工作に励んでいるのだという。市議会を取材している友人の記者に話を聞いても、どうやら事実のようだ。


 内紛の理由は坂井団長をはじめとする維新市議団執行部のマネジメント能力の無さ。地下鉄民営化など橋下市長が提案する数々の政策が議会で否決され たり、これまで友党関係にあった公明党とまで対立したことで法定協の先行きが不透明になったりと、それもこれも他会派と調整できない執行部のふがいなさに あると一部の市議らは憤慨している様子なのだ。


 17日に開かれた議員団総会では坂井団長の解任動議が出される予定だったが、多数派工作がうまくいかず断念。あらためて別の日に動議が提出される 予定らしく、このまま執行部との確執が続くようなら内紛から分裂へと発展する恐れまであると聞く。なお、17日の議員団総会には3分の1の市議が欠席。出 席した市議らにも何人かの執行部反対派が在籍していることから、今や維新市議団は完全に二分しているとみて間違いなさそうだ。


 法定協から都構想に反対する自民、民主系、共産の委員を排除するのも結構だが、橋下市長は自分の足元の反対派問題をなんとかした方が良さそうである。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


いいね!した人

テーマ:
2014年6月13日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第199回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

都構想反対派を外す横暴 大阪発展目指す議論を

 大阪市の橋下徹市長が出直し選挙で当選してから、まもなく3カ月がたとうとしている。そして、焦点となっていた大阪都構想を話し合う法定協議会がよ うやく動き始めたようだ。だが、都構想の具体案を詰めていく場のはずだった法定協議会をめぐって、きな臭い動きが出ている。自民、民主系、共産の委員を 「規約違反」という理由で外すというのだ。

 しかし、これはなんだかおかしくないだろうか。筆者が市長選前に見ていた限り、公明党を除く野党側は都構想には反対していたが、内容の細部につい ては反対の立場から建設的な提案をしていたことも多々あったのだ。反対の意見があるからこそ、物事は前へ進む。サービス業でもよほど悪質なクレーマーでも ない限り、客の苦情はサービス向上に役立てている。


 それとも、維新側が提出したものをそっくりそのまま生かした案でなければ許せないということなのだろうか。筆者が今まで一緒に仕事をしてきた人た ちの中にも、自分の意見が丸々通らなければブチ切れるだけで、妥協という言葉すら知らないという人たちがいた。今回の維新も仮にそうだとしたら、あまりに も横暴ではないだろうか。


 今回は、自民、民主系、共産を外すつもりらしい。だが、おそらく公明党はだまっていないだろう。今回の維新側の措置に同党はカンカンなのだという。公明党だけ法定協議会に残るという選択肢は取らないはずではないだろうか。


 日本ではなじみのなかった外資系ホテルが入った大型ビルがオープンするなど、東京の栄えぶりとは対照的に、一部ではあべのハルカスなどのにぎわい はあるものの、総じて大阪は停滞ぶりが目立っている。これからも長く大阪に住むつもりの筆者としては、とにかく、大阪が今より住みよくなるなら都構想に賛 成、そうならないなら反対。考えていることはとてもシンプルなのだ。むしろ都構想をめぐり反対派との厳しい議論の対立があってこそ、大阪の発展が見えてく るのではないか。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


いいね!した人

テーマ:
2014年6月6日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第198回分が掲載されました。

本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

取材拒否にこめた願い メディアは批判を聞けるか

 筆者が記者のころ、理由もなく取材拒否に遭うことは腹立たしかった。だから、今の仕事に就いてメディアからコメントを求められるようになったとき、できる限り応じようと決めた。


 だが、例外は起こる。数年前にある新聞の取材を受けた。メディアの在り方について話したのだが、その中に当の新聞を批判する言葉があった。同紙は 事前に原稿を見せる方針だそうで、見せてもらったが、批判の部分が載っていない。その批判が的外れとは思えず、載せるよう頼んだが、渋られた。何度もやり とりが続き「それなら、私のコメントは全て撤回したい」とまで筆者が言って、ようやくその批判コメントも含めて掲載された。


 同じ新聞の記者から最近また取材依頼を受けた。今回もメディアについて。最終的に批判を掲載したとはいえ、筆者にとって前回の経験はあまりに苦い ものだった。だから、仮に同紙を筆者がまた批判しても掲載するのか尋ねた。すると、前回の経緯について「大きな問題になったとは特段考えていない」とし、 筆者の言葉を必ず載せると事前に約束することはできないとの返答が届いた。


 筆者も記者だったのだ。取材相手の言葉をそのまま全て載せることなど不可能だと分かっている。ここで問題なのは、自分への批判を受け入れられるか どうかということなのだ。簡単なことではない。だが、この新聞は以前筆者との間で「大きな問題」を抱えたにもかかわらず、そのことが全く認識できていない ままだった。「前回は最終的に批判コメントを載せたのだから何も問題はないはず」との考えかもしれないが、既に起きた出来事への反省が十分であるとは思え ない。結局今回は取材を断った。いい記事が載る新聞だけに、コメントできないことは残念でならない。


 こういったことはこの新聞に限らない。何かと批判されることが多いメディア。批判の声の中には聞くに値するものもある。そこに耳を傾けるなら、読者や視聴者の信頼を得ることができるだろう。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


いいね!した人

テーマ:
2014年5月30日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第197回分が掲載されました。

本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

卒業後に就活終える若者  “ババ”つかまぬ余裕を


 勤務先の大学の研究室を出たところで「金井先生、お久しぶりです!」と女性に声を掛けられた。振り返ると、3月に卒業したばかりの教え子だった。にこにことうれしそうに笑っている。


 筆者が担当する講義で書かせた作文の課題では、卓抜なアイデアと丁寧な言葉選びで添削の時間を楽しみにさせてくれていた彼女。就職活動では、この 文章力をもってすれば採用担当者の心をつかむのはたやすいだろうと筆者は踏んでいた。しかし、案に相違して、就職活動は難航した。自分の思いを強く伝えら れず穏やか過ぎる彼女の性格が災いしたのかもしれない。結局内定をもらえないまま卒業したのだった。


 だが、その日の彼女は「内定をもらったんです。すぐに働き始めることになりました」と言ったのだった。なんとうれしい知らせだろう。教え子の進路が決まるたびに感じていたのと同様、踊りだしたくなるような心持ちだった。


 今回の彼女の場合、在学中の長い就職活動でおそらく疲れ果てていただろうし、卒業の時点でも行き先が決まらず、不安な気持ちを抱えていたに違いない。そのうれしさが、普段はおとなしい彼女が満面の笑みを浮かべる様子にも表れていた。


 そんなうれしいニュースが、彼女からだけではなく他の卒業生たちからも届き始めている。つい最近も、3月に卒業してからもずっと就職活動を続けてきた男性から、仕事が決まり、働き始めるとの連絡をもらったばかりだ。


 筆者が大学生だったころは、卒業した後すぐに就職せず、少しでも履歴書に空白の期間があるといぶかしがられる時代だった。今だって、そういう企業はまだあるだろう。だが、こうして既卒の若者の就職が決まる事実を目の当たりにすると、企業側の意識の変化も感じる。


 在学中の就活生にはもちろんがんばってほしい。だが、焦って“ババ”をつかむことは避けたい。卒業後まで就職活動が延びたとしても構わないというぐらいの余裕を持って取り組んでほしいと願っている。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


いいね!した人

テーマ:
2014年5月23日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第196回分が掲載されました。

本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

新番組のコメンテーターに  テレビはお金か発想か


 ケーブルテレビ局(CATV)のJ:COMが6月2日から本格的なニュース情報番組をスタートさせる。番組名は「関西TODAY」。月曜から金曜の 午後7時58分から8時28分までの生放送だ。「関西の今日を伝える・関西の明日を考える」をコンセプトに、最新の全国ニュースや関西発の話題、またケー ブル局らしく地域に密着した情報などをお茶の間に届ける。


 番組を進行するメインキャスターは元岡山放送の高野勝正アナと元高知放送の吉田利佐アナの2人。コメンテーター陣には多彩な顔ぶれが並ぶが、実は この「関西TODAY」には筆者もコメンテーターとして隔週の水曜日に出演することが決まった。近畿大学の同僚である大谷武文教授も出演する。筆者は、地 上波では関西テレビの「スーパーニュースアンカー」や日本テレビの「世界一受けたい授業」などへの出演経験があるが、CATVは初体験。とはいえ、メディ アが電波かケーブルかの違いはあってもテレビに変わりはない。ロイターの元記者として、また大学教員としての経験や発想を生かしながら番組を盛り上げてい く所存なので、お時間があれば読者の皆さまもご視聴いただければ幸いである。


 テレビが面白くないと言われてからかなりの年月がたつ。実際、筆者の周りを見渡してもテレビを見ないという人は珍しくない。しかしその間、視聴者 の興味を引く番組をテレビ局が努力して作ってきたかというと、そうでもない。結果的にどの局も、どの番組も視聴率は低迷し、いずれもスポンサー離れが目 立っている。


 率直に言って、CATVが制作する番組は、地上波のテレビ局の番組ほど予算も人員もない。しかし、多額のお金をかければ面白い番組が出来るわけで はないことは、皮肉にも地上波のテレビ局が証明している。だったら、お金がなければ知恵を出す。知恵とアイデアと奇抜な発想で面白い番組になるよう筆者も 努力したいと思っている。「関西TODAY」にご期待を。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


いいね!した人

テーマ:
2014年5月16日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第195回分が掲載されました。

本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓

“遅い新幹線”で集客  アイデア次第で活性化も

 愛媛県の宇和島駅で“日本一遅い新幹線”を見てきた。3月から走っている1両編成のこの「鉄道ホビートレイン」は、車両が白と青に塗られ、先頭には 0系新幹線とよく似た「だんご鼻」がついている。中には0系新幹線で実際に使われていた座席が一部に設置され、鉄道模型が展示されている。


 ただ、本物の新幹線とは違い、スピードはかなり遅い。それも当然。既存の列車を新幹線風に化粧したものだからだ。宇和島駅の駅員に尋ねたところ、並走する沿道のクルマに追い抜かれることもあるほどだという。


 さて、この“新幹線”、近くで見ればはっきり言って「ショボい」のだ。新幹線らしく見えるのは、先頭の「だんご鼻」と、白と青に塗り分けられた車 体のみ。強化プラスチックFRP(繊維強化プラスチック)で作られている「だんご鼻」には本物の重厚感はない。しかも「だんご鼻」は前側にしかなく、後ろ 側からは普通のローカル線にしか見えない。


 でも、もともとは2、3人しか乗らずガラガラだったこの路線に“新幹線”が走るようになって以来、乗客数が増えたそうだ。時には定員を大きく上回 る客が乗って、満員電車さながらになることもあるらしい。筆者が立ち寄った時も、団体旅行で来たとおぼしき中高年の観光客で席がほとんど埋まっていた。


 繰り返すようだが、車体そのものは“チャチ”なのだ。だが、なんとも言えず愛らしい。見た目は新幹線風だが、速度はクルマに抜かれるほど。そんな ギャップも魅力の一つだ。筆者は、今回は残念ながら乗車できなかったが、次に宇和島に行く機会があればぜひ乗りたいと思っている。


 大都市への人口集中が進む中、地方都市の衰退が問題視されて久しい。宇和島も例外ではない。筆者はよく宇和島を訪れるが、駅前の商店街はいつも閑 散としている。だが、今回のケースのように、アイデア次第では集客できるのだ。大金を投じてハコモノを造るよりもアイデアで勝負する時代が、各地に訪れて いるのではないだろうか。


 (近畿大学総合社会学部准教授)


いいね!した人

テーマ:

2014年5月9日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第194回分が掲載されました。


本紙のホームページにも掲載されています。


↓↓↓↓↓


年齢に挑み続ける 老後の大輪目指して


 「私、いくつまで弾けるか、挑戦してみようと思ってるの」。そう言ってにっこり笑ったTさんは72歳。髪を茶色に丁寧に染め、つやのよい肌に化粧 を施した彼女は、美しい模様が浮き上がるワンピースを着て、胸を張ってゆったりと歩き、明かりを落とした舞台袖の楽屋から照明がまばゆい舞台に出て行っ た。


 ゴールデンウイークの真っただ中に東京の郊外にあるホールで開かれたピアノの発表会。実はジャケットを羽織ったり脱いだりするのもしんどいほど右 肩を痛めてしまい、痛み止めを打っての出演だった。それでも、60歳ごろからピアノを習い始めたというTさんは、ショパンのワルツを見事に弾き終えた。


 この発表会を主催した先生の教室の生徒たちは成人ばかり。20代の若い生徒も時折加わるが、その一方で今回の発表会では60歳前後の生徒もデ ビューした。平均年齢はおそらく年々上がっているだろう。発表会の後半にゲストとして出演した合唱グループにも、中高年のメンバーの姿が目立った。


 そんな教室ではまだまだ“若手”に属する筆者がこの先生に習い始めたのは、10年ほど前。幼いころには別の先生にピアノを習っていた筆者が、長い ブランクを経て現在の先生のレッスンに通い始めたのは、定年退職した父が歌を習って友人たちの前で披露する際に、伴奏者が必要になったことがきっかけだっ た。伴奏の仕方を習ううちに、いろいろな曲を弾きたくなって、父がいなくなった今もレッスンに通っている。


 Tさんにせよ、父にせよ、スタートはかなり遅いがゆっくりと着実に練習を重ねて、大輪を咲かせた。


 先生の発表会は2年に一度開かれることになっている。Tさんはいったいいくつまで弾き続けられるだろうか。2年後はまだまだ現役でいるに違いな い。再会が今から楽しみである。そして、Tさんの言葉をきっかけに、筆者は自分が何歳まで弾き続けられるのか、初めて考えた。あと何回あのホールの舞台に 立てるのだろうか。


 (近畿大学総合社会学部准教授)

いいね!した人

[PR]気になるキーワード