The Long Road to Recovery~チェルノブイリ事故からの教訓 | ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog

The Long Road to Recovery~チェルノブイリ事故からの教訓

 もう何年も前に買った「The Long Road to Recovery(復興への長い道のり)」という本を、本棚から探し出して読み返してみました。これは1996年に国連大学出版(United Nations University Press)が発行したもので、世界の産業災害や事故(自然災害に対していわゆる人災)に関する論文集という形をとっています。日本の水俣病やチェルノブイリの原発事故の事例も載っているので、もう一度チェルノブイリのことを復習しておこうと思ったのです。

 そのチェルノブイリの一章は、カナダはアルバータ大学のマープレス(David Marples)教授という方が書いたものでした。章の最後の方に、チェルノブイリ事故からの八つの教訓が載っていたので以下に簡単に紹介します。世界は、そして日本は、果たしてチェルノブイリの教訓を活かしきれていたのでしょうか。

1.放射能の安全に関する国際基準が必要。土壌や水の汚染度と安全も含めた、どのくらいの汚染レベルならどの地域まで避難が必要なのかという、行政側が意思決定を下す手助けとなるようなもの。

2.原発のような施設の近くには、万が一の事故に備えて緊急避難施設の設置や、緊急援助に対応できる人員(救急医療)や設備(移動手段など)の配置があらかじめ必要。

3.原発のような施設にとって、すべての関係機関(国や自治体、地域住民)とのコミュニケーション体制の確立は不可欠。情報は迅速に共有されるべき。

4.放射能は国境を越えるので、近隣諸国との迅速な情報共有も必要。

5.汚染地域では、全ての経済・社会活動を止めるべき。軍や警察を動員してまでも、それを実行する。

6.直ちに避難できない住民のためには、次のような安全対策を徹底する。できるだけ室内に留まる、汚染地域の農作物を食べない、玄関や家の周辺を洗浄する等。

7.放射能の影響を受けたと思われる人々のリストをなるべく早く作成する(原発操業開始前に周辺住民のリストは作っておくべき)。事故後にどこに避難したかも記録する。事故後に汚染地域に入った人のリストも作る。彼らの健康状態を長期的に監視する必要があるから。

8.原発事故に対する国際的な援助システムが必要。国連やIAEAが主導すべきだが、環境団体や科学者といった原発産業から独立した組織も含めるべき。原子力を推進する役割を持つIAEAが、原発の安全管理や事故対策を担うのは逆説的であるから。