『99999(ナインズ)』 デイヴィッド・ベニオフ | たまらなく孤独で、熱い街

『99999(ナインズ)』 デイヴィッド・ベニオフ

99999(ナインズ) (新潮文庫)

99999(ナインズ)
デイヴィッド・ベニオフ

訳:田口 俊樹

(新潮文庫)

初版:2006年5月1日
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「99999(ナインズ)」

「悪魔がオレホヴォにやってくる」

「獣化妄想」

「幸せの裸足の少女」

「分・解」

「ノーの庭」

「ネヴァーシンク貯水池」

「幸運の排泄物」

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2004年の短編集。

表題作は車の走行距離計がひと回りする寸前のこと。

友人たちとメーターがひと回りしてゼロに戻る瞬間を祝うわけです。

しかし、大抵は知らぬ間に超えているものですが。

それよりも、岡本おさみ作詞の「君去りし後」を思い出した。

クラブの女性シンガーをめぐる物語だが、まったく反対からのアプローチ。

片やクラブの客で、TV業界へ行ってしまった彼女を嘆く男。

片や業界のスカウトで、女性シンガーをレコードデビューさせようとする男。

「君去りし後」に「どんな餌が君を誘惑してしまったのか、操っている男はどんな奴なんだろう」というフレーズがあるが、その答えがここにあった(笑)。

なるほど「99999」は「君去りし後」への返歌だったのか(んな訳ない)。

 

どの短篇もアイロニーと現実に対するあきらめ感、それと過去指向の匂いが漂ってますが、この中では「分・解」が異色かつ秀逸。

周りの人たちに笑われながらも18ヶ月間は立てこもれるシェルターを作り、最初の敵が来たというニュースを聞くやシェルターにもぐりこんだ男。

上はもう焼け野原だろうかと思う。

さまざまな気持ちが錯綜することだろう。

だが男にとって本当に耐え難い状況というものも考えるようになる。

それは一体なんでしょうねえ・・・。