『紙の迷宮』(上・下) デイヴィッド・リス | たまらなく孤独で、熱い街

『紙の迷宮』(上・下) デイヴィッド・リス

紙の迷宮〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

紙の迷宮〈上〉

デイヴィッド・リス

訳:松下 祥子

(ハヤカワ・ミステリ文庫)

初版:2001年8月15日 

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紙の迷宮〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 紙の迷宮〈下〉

デイヴィッド・リス

訳:松下 祥子

(ハヤカワ・ミステリ文庫)

初版:2001年8月15日 

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1719年のロンドン。

今よりも激しい所得格差や階級格差。

当時からすでに移民や難民、それに派生する浮浪者やらアル中やら娼婦やらが大量にいたのですね。

さすがにヤクはまだか。

300年前のロンドンの空気がぷんぷんと匂ってきそうです。

日本人からすればキリスト教徒もユダヤ教徒も全然見分けがつきませんが、分かるものなのですねえ。

 

主人公ベンジャミン・ウィーヴァー(28歳)はユダヤ教徒ながら、若い時に家を飛び出してボクサーやらいろいろ経験し、今は探偵のようなことを生業としている。

依頼がふたつ。

ひとつは酔っ払って娼婦に財布やら時計やらを盗まれたので、お金はあきらめるが大事なものが入っている財布だけは取り戻して欲しい。

もうひとつは、同じ頃に事故で亡くなった依頼人の父親と主人公の父親は他殺であるから調べて欲しい。

当然ながら二つの依頼はどこかでリンクするわけですね。

後者の依頼は雲をつかむような話しであったが、情報収集のため何年かぶりに叔父(亡くなった父親の弟)の家に行くと、海難事故で亡くなった従兄弟(叔父の息子)の若くて美貌の未亡人ミリアム・リエンゾ(21歳)が。

運命の出会いであった。

ベンジャミンとミリアムじゃないよ、けいちゃっぷとミリアムだよw

惚れてまうやろ。

当時の因習というのは、今では想像もつかないほどでしょうね。

特に上流階級の女性については。

ユダヤ教徒から離脱はしないが、豚肉は食べるし戒律を平気で破るベンジャミンでさえもミリアムに対しては騎士道精神を発揮して「私が守る」だの「こんな事をしてはいけない」だの。

ベンジャミンの叔父(ミリアムの義父)の家で飼い殺しのような状態で暮らしているミリアムにしてみれば、それでも少しは自由な空気に触れたいし多少背伸びをする程度にはハメを外したいときもあるでしょう。

それにことごとくNGをだすベンジャミン。

 

脱線したような気もします。

危険を省みず調査を進めるベンジャミンであったが、情報が錯綜し真相にたどりつけない。

むしろ、誰が味方で誰が敵なのかもわからない。

ここら辺りは読者も五里夢中で先へ先へと読ませますね。

 

蓮っ葉というほどではないが、世間知らずなお嬢様でもないミリアムは気がついてしまうのですね。

時には違法なこともし、時には暴力に訴えて物事を進めようとするベンジャミンが品行方正な男でないことに。

むしろ他の誰よりも危ない男であることに。

後半は事件の真相なんかよりも、ミリアムがどうなるかが心配でした。

ただいつまで覚えていられるかは分からない。

本を読んでると絶世の美女が登場する確率が非常に高いので。