『火星ダーク・バラード』 上田 早夕里 | たまらなく孤独で、熱い街

『火星ダーク・バラード』 上田 早夕里

火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)

火星ダーク・バラード
上田 早夕里

(ハルキ文庫)

初版:2008年10月18日)

(2003年12月に角川春樹事務所より刊行) 

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第4回小松左京賞受賞作。

作者が女性だからといって偏見を持ったり、ことさらに身構えたり色眼鏡をかけたりする訳もないのだが、「ああ、やっぱり女性の書いた本だな」と思うこともしばしば。

教条主義的なところがチラチラすることもあって、新井素子を連想したことも。

 

底に流れる作者の「思い」は深いのだろうけど、SFというよりもハードボイルドというよりもロマンス小説という印象(読んだことないけど)。

登場人物それぞれが持つ「理想」。

だが、それが実現するわけもなく。

それでも人は信念として理想を持ち続けるのか。

 

火星。

パラテラフォーミングにより峡谷等に人が移住しそれなりに栄えていた。

当然、それとともに犯罪も発生する。

治安管理局(警察のようなもの)の水島は相棒(バディ)の神月と共に凶悪犯・ジョエルをリニアで護送中「事故」に遭遇し「怪物」に襲われる。

しばらくして気が付いた水島だが、神月は撃たれて死亡、ジョエルは行方不明。

「怪物」の痕跡はなし。

密室だからして、当然のごとく水島が疑われる。

なにが起こったのか。

水島は神月のためにも自分のためにも真相を追い求めようとする。

そこへ偶然行き会ったのが、特殊能力を持って生まれた人工的に作られた少女・アデリーン。

アデリーンをも巻き込んで水島の運命も加速する。

後半はアデリーンが主役ですか。

 

非人間的とも思えるような水島の強靭な信念。

凡人には息が詰まりそうです。

何があろうとも真相を突き止める。

後半は加えてアデリーンを護る。

 

人間が持つ弱さ醜さを克服するために遺伝子操作で理想の人間を作ろうとするグレアム。

目指すは外宇宙。

こちらも強靭な信念の持ち主。

水島の理想とグレアムの理想のぶつかり合いのよう。

それが上手く書けているかは微妙ですが、読み応えはありました。

でも少ししたら忘れてしまいそう。

 

 

※ここからはネタばれの恐れあり。


リニアで神月を殺したのは誰?

ラストで水島は凶悪犯のジョエルから、幻覚から覚めたら(誰かに)撃たれて重体の神月の銃を奪いとどめを刺したのはジョエルだと聞き、真相が分かったと納得してしまうが。

思わず「え?」。

そんなんで納得してしまうのかい。

ジョエルの言葉だけで。

それに、とどめを刺したのは確かにジョエルだとしても、水島も幻覚の最中に怪物に発砲している。

発砲した相手が神月で、それにより神月が重体となったとしたら?

それでも、とどめを刺したのが水島でなかったから救われたってこと?

神月を撃ったのは自分じゃないかと、あれほどまでに真相を渇望していた水島なのに。

 

しかし、ハルキ文庫だからと敬遠する人がいるのは意外。

祥伝社文庫や徳間文庫ならまだしもw