『まだ見ぬ冬の悲しみも』 山本 弘 | たまらなく孤独で、熱い街

『まだ見ぬ冬の悲しみも』 山本 弘

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション) まだ見ぬ冬の悲しみも
山本 弘
(ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
初版:2006年1月31日
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「奥歯のスイッチを入れろ」
「バイオシップ・ハンター」
「メデューサの呪文」
「まだ見ぬ冬の悲しみも」
「シュレディンガーのチョコパフェ」
「闇からの衝動」
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書店でタイトルに惹かれて買いました。
 
過ぎ去りし夏の喜びも
まだ見ぬ冬の悲しみも
時の碑(いしぶみ)に等しく刻まれ
永遠に摩滅することはない
 
18世紀だかの戯曲から取ったらしいタイトルですが、もしかして作者の創作かも。
(無知ゆえに知らず)
 
短編が6作ですが、最初の「奥歯のスイッチを入れろ」にはあきれました。
バイオロイド。
400倍に加速できるSSS(ソニック・スピード。ソルジャー)。
エイトマン?
宇宙パイロットのタクヤは、事故により重傷を負いSSSとして甦る。
脳以外はすべて強力な作り物。
前半はタクヤの心情とリハビリ。
ところが、敵対している巨大テロ組織もSSSを作って暗殺を実行。
400倍の速さで動かれては対処のしようがありませんな。
400倍で動けるということは、客観的には30秒でも本人の主観では3時間超?
タクヤのいる研究所に敵方のSSSが襲ってきた。
ところが、敵はタクヤの愛する人を盾に取り、衣服を傷つかないようにそ~っと剥ぎ取り(なぜ、そんな行為を?)、あとはお決まりのバトル。
新しい体に慣れていない上に、彼女を盾にされハンディキャップありありのなか、タクヤに勝機はあるのか?
あとがきによると「マンガなどで使われている設定をリアルに書いたらどうなるか」らしいが、作者はそのつもりでも読まされる方はたまったものじゃないな。
 
で、ここで本をぶん投げるところですが、表題作を読むまでは、と読みすすめる。
 
2編目の「バイオシップ・ハンター」は、宇宙に飛びだした地球人。
さまざまな宇宙人がいますが、バイオテクノロジーで作られた宇宙船がケッサクですね。
しかも、その宇宙船が・・・・・・。
 
3編目「メディーサの呪文」。
言葉が先鋭化して、人を殺すことができるのだろうか。
しかもたった6行37単語で。
退化したようにみえて、実は物質文明から言語文明に「進化」した生命体・・・・・・。
 
表題作はタイムトラベルもの。
ついに過去へのタイムトラベルが可能になった近未来。
だがそこには、恐るべき陥穽が。
 
「シュレディンガーのチョコパフェ」は、話の都合上かいろいろな説明がでてきますな。
で、ラストはお気楽としか思えないほどのハッピー・エンド。
溝呂木の怒りや絶望はどこ行ったんだ?
 
「闇からの衝動」は、C・L・ムーアやヘンリー・カットナーのファンなら必読?
 
こう言ってはなんですが、山本弘の魅力はどこにあるのだろう。
少なくともこの短編集からは、それが分かりません。
せめて1作、脳天直撃弾が欲しかった。