『砂の城の殺人』 谷原秋桜子 | たまらなく孤独で、熱い街

『砂の城の殺人』 谷原秋桜子

砂の城の殺人 創元推理文庫 砂の城の殺人
谷原 秋桜子
(創元推理文庫)
初版:2007年3月16日 
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今度の倉西美波の危ないバイトはなんだろうかと期待しちゃいますね。
というわけで(どーゆーわけで?)、シリーズ第3作は、なんと、こき下ろしでなく、書き下ろしです。
どなたかが書き下ろしは雑誌掲載料が入らないので「うまみ」がないと書いていましたが、そういうものなんでしょうか。
ましてや文庫本の書下ろしですと、単行本の印税も入りません。
雑誌掲載→単行本→文庫化という流れが作家としてはいいのかな。
読者にとっては文庫書き下ろしのほうがお得感はあります。
 
美波は今回も武熊こと野々垣さんの代理でアルバイトをすることに。
阿賀野瑞姫という写真家の撮影助手で、2日で5万円!
ただし、当然ながら普通の写真家ではなく、廃墟を撮影するのを専門にしているそうな。
なんだ廃墟か、と言うなかれ。
廃墟にはかつてそこに住んでいて、あるいは事業をしていてやっていけなくなったり死んでしまったりした人の怨念が滞っているんです(笑)。
なんちて。
あぶないバイトに顔を突っ込むくせに怖がりの美波にはピッタリですね。
 
廃墟は何年も何十年もほったらかしにされていますので、階段や床が腐っていたりガスが溜まっている危険がありますので、それなりの装備と行動が必要です。
それに廃墟とはいえ持ち主がいるわけですから、勝手に入り込むのは犯罪だという直海(超美形ながら言葉は江戸弁で、ギャップが大きい)の指摘はなるほど言われてみればもっともです。
 
阿賀野さんと美波、直海が今回向った先は阿賀野さんの実家。
これなら不法侵入にはなりませんね。
12年前に母親が忽然と行方不明になったとか。
阿賀野さんが夢で母親を見たので、二人の兄も呼び廃墟と化した実家に集合して母親を探すことに。
二人の兄にとっては母親はどうでもよく、阿賀野さんに母親の失踪人宣告にサインをしてもらい、ここの土地や家を売って金にしたいだけなんですね。
それで阿賀野さんがそれを条件に呼びかけたのでシブシブ来たわけ。
助手の美波と、阿賀野さんに説教するために付いてきた直海は完全によそ者。
 
深い森の中。
こわれそうな橋を渡って着いた先にある洋館。
激しい風雨、橋が流され、孤立してしまった5人。
まさに「嵐の山荘」で殺人事件が起きる!
 
谷原さんは正統な本格ミステリで読者を迎えうちます。
その心意気やよし。
修矢のネコ、ケンゾウも場面は少ないが大活躍。
トリックも二転三転。
ただし、読者(私のこと)は漠然と流れのままにページをめくってしまう体たらく。
情けない。
しかし、充分に満足できる内容で、早くも次の作品が読みたくなりました。