『脳髄工場』 小林泰三 | たまらなく孤独で、熱い街

『脳髄工場』 小林泰三

脳髄工場 小林 泰三
脳髄工場
(角川ホラー文庫)
初版:2006年3月10日
 
 
 
 
「脳髄工場」
「友達」
「停留所まで」
「同窓会」
「影の国」
「声」
「C市」
「アルデバランから来た男」
「綺麗な子」
「写真」
「タルトはいかが?」
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あの傑作『海を見る人』を書いた小林泰三のホラー短編集。
ホラーの定義がよくわかりませんが、「少し恐そうな話し」もホラーになるのかな?
小林泰三はそれプラスSFとセンチメンタルさ。
読む人によってはお笑いも。
 
短編集の中では、書き下ろしの表題作がやはり秀逸でしょうか。
最初は犯罪者の脳内矯正のために作られた「人工脳髄」。
それにより、感情や心理をコントロールでき、キレたり暴力をふるったりがなくなり、社会的な信用が高くなった。
それが認められ、犯罪者予備軍やおたくまでも範囲がひろがり、ついには希望した人には全員が「人工脳髄」を装着できるようになった。
なにしろ「人工脳髄」を装着していれば絶対安心な人となるので、いまではほとんどの人が進んで装着している。
 
感情をコントロールされている者に本当の「自由意志」は存在するのか?
という重いテーマものしかかります。
 
しかも、その「人工脳髄」が、「おいおいそんな装着の仕方で大丈夫なん?」というほどのシロモノで絶句しちゃいますね。
当然、未来社会なんだろうけど、全然未来とは思えない世界。
レトロさが感じられる社会だからして、「人口脳髄」もICチップなどといったものではないんですねえ。
手術は床屋へ行き、頭を丸められ、頭皮に直接印を付け、そこめがけて「人工脳髄」の切っ先を麻酔なしで突き刺す!!
で、装着後なにか調整をし「今日は風呂に入らないこと」と言われて帰されます。
いや~、恐ろしいやら、おかしいやら。
この装着シーンは絶品ですね。
 
主人公の少年はずっと装着せずに来たのですが、ある事をきっかけに装着することにしました。
が、頭の形が規格外(!)のため、直接工場に行って装着することに・・・・・・。
そこから、話しは思わぬ方向へ行きます。
ラストは少し物足りないかな。
 
そういえば、以前筒井康隆の『佇む人』をある評論家が「センチメンタリズムに陥っている」(だったかな?)と否定的に評したのを、筒井康隆は「主人公はこの状況を楽しんでいるのだ」と切り捨てましたが、「人工脳髄」の少年もそうなのだろうか(特に工場へ行ったあと)。
そうなると、また印象が変ってきますが。
 
他の作品も、いけてますね。
読んで絶対損はありません。