『何処へ』(抄) 飯島耕一 | たまらなく孤独で、熱い街

『何処へ』(抄) 飯島耕一

陽気にはしゃいでいる人たちがいる
だけどぼくは騒げない
ぼくの心はねじくれてしまったのか
グラスをまえにして
ぼくはたった一人だ
昔の女たち 昔の友だち
みんなどこへ 行ってしまったのか
どこかへ出掛けてしまったのか

わるい時代なのだろう きっと
きみたちの姿がどうしてもよく見えないんだから
理由はわからない いつだって
理由はよくわからないんだ 濃霧のような問題と情勢
そしてねじくれているんだ ぼくの心は
ぼくはだめになってしまったのだ
どこまでも自分をいじめたい気持になる
わるい時代のせいなんだろうか
人々はまわりにいっぱいあふれているのに
そのなかにぼくの友だちはいない
あの青春のはじめの暁の友だちの顔は

ぼくらが思っているより 今は
はるかにわるい時代なのだ
誰ものど元までことばにならない
しぐさや羽毛をつめこんでいる
青空の破片はいつまでも破片のまま

ぼくらはおそらくあまりに似かよっているので
出会っても感じるのはおなじ色
おなじ形のなぎさの砂の
こぼれおちる音ばかりだ 聞えるだろう 聞えるだろう
おそらくぼくらはタチヒを見出すまえの
取引所員ポオル・ゴオガンたちなのだ
やがて冬がやってくる 何処へ 何処へ
という敷石(しきいし)にこだまする冬の声の襲来
そして砂の声 嘴の音。

※詩集『ウィリアム・ブレイクを憶い出す詩』 所収