『ジュークボックス』 山田正紀 | たまらなく孤独で、熱い街

『ジュークボックス』 山田正紀

山田 正紀
ジュークボックス
(徳間書店)
初版:1990年2月28日
 
「恋の片道切符」
「電話でキッス」
「カレンダーガール」
「きみこそすべて」
「小さい悪魔」
「星へのきざはし」
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老人ホームで4人が焼死、1人が行方不明となった。
そして、あるところに“グロテスク”な世界がある。
そこに5人組のグループがいるが、老人ホームで被災した5人と名前が似ている。
輪廻か?夢か? それとも仮想世界なのか?
この“グロテスク”な世界では、戦争が続いている。
その第一目標は「生命言語(ランガー)」を手に入れ、この世界を自分たちのものにすることらしい。
「生命言語」を手に入れることができれば、世界を安定させることができるらしい。
では「生命言語」とはなにか?
 
戦闘が終わると5人は50年代アメリカの世界に浸る。
本人たちも外見からしてアメリカの若者のようであり、キャデラックでダイナーズへ繰り出し、ジュークボックスをガンガンかけて、バドワイザーを飲み、ピンボールであそぶ。
だが、チラチラと老人ホームの“残滓”が垣間見える。
 
この“グロテスク”な世界では、環境も狂っている。
太陽系融合惑星。
木星高気圧、火星低気圧、金星暖気団、冥王星寒気団、メタン暴風雨、などに気候がガラリと変わる。
この“グロテスク”な世界では、戦闘機も狂っている。
ニューロ・ジャンク。
機体は再生臓器が使われ、パイロットは脳、神経はもとより、あらゆる器官を接合させ、機体と融合する。
この“グロテスク”な世界では、敵も狂っている。
なにしろ異質にすぎて、そのままではお互いを認識することすらできない!
まるでチョウと深海魚が戦争をするようなものだ。
そこで“翻訳”をして、お互いを自分たちが認識できるレベルに合わせる必要がある。
しかも“翻訳”された敵のイメージが、ハンバーガー、ホットドッグ、コークの瓶、バドワイザーの瓶など、50年代アメリカのジャンクフードそのもの。
そんな相手と一戦を交えて正気でいられるのか?
いや、もともと狂っているのか。
 
冗談みたいな世界で、冗談みたいな戦争。
それは50年代を青春した老人たちの願望か?
山田正紀の軸はぶれず、渾身のストレートを投げ込んだ!
冗談めかした世界の裏の真実を見よ(冗談です)。
 
しかし、これほどの傑作が文庫化もされず埋もれているのは実に惜しい。
古書店で見つけたら迷わず購入して読んで欲しいですね。
(期待に反していても責任は負いかねますが)
 
読むときは50年代ポップスを聞きながらだと、よりいっそうこの世界にのめり込む事ができるでしょう。