歴史は繰り返す | KCR総研代表 金田一洋次郎の証券アナリスト日記

歴史は繰り返す

今日、よみうりテレビの取材陣が、昨今の買収ファンドの動向について聞かせて欲しいと申し入れがあった。


特に村上ファンドと阪神電鉄の攻防が、表面化してから約半年が経ち、このまま総会にもつれた場合どうなるのか、また現時点で判明している45.73%という保有数字は、どのような意味をもらたらすのかという趣旨の内容のインタビューであった。


おおまかな論点は、本日放送される午後6時17分からの「ニューススクランブル」 を見て欲しいが、今回の阪神電鉄の動きに限っていえば、村上氏は、同社の転換社債の市場外取引により大株主として突如名乗りを上げ、また同社が阪神百貨店を100%子会社化する際の株式交換を利用して、阪神百貨店株も買い集めることによって、さらに同社株の比率を増加させており、同買い集めは、かなり周到な計画の下に行われていることが分かる。


一説によれば、同社の保有する豊富な不動産の含み益が狙いとも言われるが、専門家筋では、それだけでここまで買い進むことができるか疑問ともしている。今のところ、阪神球団の上場や不動産の再開発などの提案において、現経営陣とは対立しており、株式取得の経緯からみても本件は、敵対的買収であるとみて問題ないだろう。


私が記憶する限りでは、敵対的買収が初めて成功したのは、バブル時代の国際航業買占め事件であると思う。当時、東証1部上場企業であった国際航業は、蛇の目ミシンの買収で知られる小谷氏が代表するコーリン産業(光進)に買い占められ、一族の内紛も手伝ってコーリン産業傘下に収まった。


その後、小谷氏は、証券取引法違反で摘発され、光進グループは崩壊していったが、国際航業サイドにおいても、長年の買収劇における痛手は大きかったといえる。現状のところ、村上氏は、電鉄経営に興味を示していないことから、グリーンメーラーとして、株式の買取を要望しているものと推察できる。


ここで、現時点の保有比率45.7%という数字は、結構、微妙な意味合いを持つ。阪神電鉄サイドのコメントによれば、過去の議決権行使比率から考えると実質的に過半数を有しているのと同じ状態であるとのことから、阪神経営陣の経営権は風前の灯火の状態で、選択できる選択肢もずっと縮まることになる。


すでに1/3を超えた状態で、特別決議(取締役の解任や定款変更など)の拒否権は有しているのだから、さらに買い進めているのは過半数の支配権の確保ということになろう。商法上において1/2以上を有すれば取締役の選任や、役員報酬額、配当などの決議が単独で可決することが可能になる。


しかし、村上氏の狙いは、そうした権利よりも、より高値で売却しやすくすることにあると私は見ている。仮に、このまま、あと4.27%以上買い集めることができれば、支配権は、完全に村上氏のものになる。村上氏の希望する値段で買いたい事業者がいるとすれば、阪神電鉄の完全なる支配権が魅力となることだろう。


考えてもみて欲しい。阪神電鉄を子会社化できるということは、連結で3000億弱の企業集団を自社グループに取り込めるほか、豊富な不動産価値や阪神タイガースという有名球団も手に入れることができるわけだ。


現在の1000円を越す株価であっても、食指を伸ばす企業が出てきてもおかしくはない。何よりも困り果てているのは阪神経営陣の方だろう。自社で買い取る力はないところまで買い進んでいるので、いわゆるホワイトナイトを何としてでも用意しなければならない状態にある。


過去を振り返ってみると、こうした敵対的買収は、あまり証券市場にとってよい結果を出さないことが多いが、昨今の西武鉄道の有価証券報告書偽造問題や、カネボウの粉飾など、必ずしも買収サイドだけを問題視するわけにはいかなくなってきている。


今一度、村上ファンドが買い占めている銘柄を振り返って欲しい。東京スタイルや松坂屋など過去に買占めにあった会社ばかりだ。松坂屋は、同じくバブル時代に秀和の小林氏に高値での買い取りに応じたが、こうした経営姿勢が、同じ理由での買占めを繰り返させている。


法の隙間をつくような買収サイドの姿勢にも問題があろうが、上場している経営陣も、常日頃からの企業IRの充実や、掛け声だけではない本当の意味でのコンプライアンスの徹底、企業価値の向上につながる施策の充実を一層図らねばならない時代になったと、しみじみ思う。