MBOというリスクファクターを考える | KCR総研代表 金田一洋次郎の証券アナリスト日記

MBOというリスクファクターを考える

KCRビジネスジャーナル

2005年12月12日号「金田一洋次郎の証券アナリスト日記」より

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○新しいMBO(マネジメントバイアウト)の形

 昨今、日経平均が連日高値を更新するさなか、M&A市場においてはMBO(マネジメントバイアウト)なる手法が盛んに行われている。MBO とは、その名のとおり経営陣による自社企業の買収(マネジメントバイ)を指すが、アウトの部分が最近では、上場廃止という意味であると混同している方々がいるようである。

 先日なども、ある企業で MBOの意向をお聞きしたところ、「うちはまだ上場したばかりですから」とかなりトンチンカンな回答が帰ってきた。周知のごとく、アウトの意味は、本来「独立」ということを示唆している。経営陣が、自ら資金調達をし、株式の保有の側面からも自社の経営権を掌握し、自他共に独立する。そうすることによって、経営の自由度を高め事業承継や企業再生をやりやすくするというのが本来のMBOの役割であったように思う。

 ところが昨今の市場で脚光を浴びているのは従来型の MBOではなく、株式の非上場化を推し進めるMBOである。このスタイルのMBOを積極的に仕掛けている投資銀行の言葉を借りれば「戦略的非公開化」と言うらしい。ご存知のように世間の有名どころではワールドやポッカコーポレーションなどが皆さんの記憶に新しいところではないだろうか。この新型ともいうべき MBOは、企業オーナーが主役になるところが興味深い。通常の MBOは、オーナーからの経営権奪取を想定していただけに全く逆のパターンとなる。

○テクノエイトにおけるMBO

 このパターンの最近例としては、テクノエイト の MBOが上げられる。テクノエイトはジャスダック上場の自動車部品メーカーであるが、オンキョーの再建でも有名な大朏直人氏がオーナーを務める会社でもある。テクノエイトは、11月10日に突然、MBO方式によるTOBの賛同の意を発表。公開買付期限となる12月8日にはTOBをはやばやと成功完了させた。これをもって来年01月下旬には、テクノエイト株は上場廃止となる。

 テクノエイト大朏氏の談話によれば、今後同社がプレス部品メーカーとして現状の4倍程度の多額の設備投資を要し、短期的に減価償却費などで赤字が計上することを資本市場が許さず、その観点から経営の自由度の高い非上場化に踏み切ったというものだ。ポッカやワールドは、買収を恐れての非上場化と揶揄されるが、こちらの狙いは少し違うように思う。同氏は上場のメリットを否定していない。何より業績が向上してくれば再上場もありうるとコメントしているのだ。

 しかし、資本市場に上場している企業が、テクノエイトに代表されるような手法で、簡単に非上場化の道を選べるとすれば、我々証券アナリストは、新たなリスクが顕在したと認識せざるをえないだろう。テクノエイト株の TOB価格は550円であり、これは直近3ヶ月平均価格から25%程度上乗せしたものであり同社説明によれば十分なプレミアムがついているという。しかし、上場時からの同社の株価推移を見る限り、1990年の高値3700円をピーク後、なだらかに下落基調にあり、 220円へと暴落した1997年終値以前に取得した多くの株主は、何ら株価的メリットはないことになる。企業がゴーイングコンサーンであるに関わらず株主としてだけ強制終了させられるわけだ。

○投資家にとってMBOとは
 
倒産したというなら分かるが、大朏氏の談話によれば企業として勝負に出ようというのだろう。企業IRのやり方によっては、計画的赤字が市場で認められないということはないだろう。その点を企業IRの強化によって説明もせずに同社のようなやり方が横行するようになれば、オーナー系企業はいつでも自由な意思で上場廃止が可能ということになってしまう。中長期投資をする本来企業にとって望ましい株主や投資家にとっては大変なリスクファクターが出現したということがいえる。

法に触れなければ何をしてもよい。そういった風潮が株式市場にも跋扈しているように思える。このようなスキームが株式市場に胡坐をかくようではおいそれと中長期投資などできっこない。勢い企業経営者と投資家の信頼関係はますます離れていくことになる。

しかもテクノエイトの MBOは、完全買収を果たすため産業再生法に基づき現状保有の株券は強制買取になり、決まった額の金銭で清算される仕組みになっている。ニッポン放送の時にも見られたスキームだが株主は、非上場化後も株主で留まることを許されず国の後押しで本当の意味でもゲームオーバーさせられるわけだが、こちらもどこか法の使い方を間違っているのではないだろうか。そんな気がしてならない。


KCR総研代表 金田一