企業でのメンタル対策を構築する中で、効率的な組織の観点から動いてきた人間と、産業保健スタッフの皆さんとの間で、大きな大きなポイントとなるのが「情報共有」のあり方です。

産業保健スタッフは、医療職もしくは医療補助者としての意識がすばらしく強く、個人情報の扱いには非常に敏感です。何事にも上回る形で個人情報保護を優先する傾向を感じます。
これは、医療者として、患者さん達が様々な場面でいわれのない差別を受けてきた歴史を知っているからに違いありません。

効率的な組織の構築を目指す企業の実務家にとっては、組織の「見える化」は、まず最初に実現を図らなければならないと考えます。

一見、全く正反対の立場に見える両者ですが、実は組織を作る側からすれば、同じなのです。
情報は、「必要な人が、必要な時に、必要な情報にアクセスできる」体制を作るのが原則です。これは言い方を替えると、その情報が正当な業務遂行上必要でない人には開示しませんし、不要な時に提供する必要もありません。

現在の産業保健を考える時、企業経営の重要事項として人事戦略のひとつに位置づけるのが、一番よいのではないかと思っています。産業医の先生をはじめいかなる産業保健スタッフも、例え非常勤や嘱託であっても、雇用者は企業であり、企業活動の一環として行動しなければなりません。企業活動の根幹は就業規則です。これまで多くの企業の就業規則を拝見させてもらいました。当然のことですが、就業規則は労働関連法規に基づいて作られ、合法的な範疇で企業の活動を定めています。その上で、企業での各部門はいずれも有機的に連携しあいながら、就業規則を含むある一定のルールで情報共有しあいながら業務を遂行しているのです。産業保健もその例外ではありません。組織での人材育成上、業務遂行上、必要な情報は共有を求められます。

医療職の方から時々お聞きする言葉に、「医療職のように法的な守秘義務がないから、それ以外の人間はたとえ経営者でも信用できない」といったものがあります。そんな時、私はこう反論します。
「企業に勤務する限り、誰もが就業規則を遵守する義務があり、それにはしっかりと守秘義務は明記されていますよ。」
「企業の経営者の多くは性善説で経営をされていますよ。普通よりはるかに高い倫理観を持っていますよ。」

そもそも企業活動の中で入ってきた情報は企業のものです。産業保健スタッフ個人のものではありません。企業での安全配慮義務や健康配慮義務は、最終的には事業者が責任を取ります。産業保健スタッフの管理監督責任も事業者にあります。

効率的な組織作りは、業務遂行の流れの円滑さを目指すだけでなく、同時に責任の所在の明確化も確立させなければなりません。これを考えると「必要な人が、必要な時に、必要な情報にアクセスできる」という情報共有化の理念は産業保健にも十分活用できるのです。