以下ヤフーニュースからの記事を抜粋しています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20170319-00068850/
私もハワイで留学していた際にNIHから研究費や給与を頂いていたので、この影響の大きさは良く理解できます。これにより多くの生殖医療のための研究費もカットされ研究に影響が出ると思うと残念です。
トランプ政権が公表した、10月からはじまる2018年度の予算案
予算案では環境保護庁(EPA)の予算を大幅に削減(31.5%)するだけでなく、NASAの衛星計画を無条件で打ち切り、エネルギー省科学局の予算を9億ドル(約1020億円)削減し、 「先進技術車両製造計画」を廃止し、 国立海洋大気庁(NOAA)の予算を2億5000万ドル(約283億円)削減するほか、国立衛生研究所(NIH)の予算も60億ドル削られるとみられる。これによりNIHの予算額は過去15年間で最低の水準となる。オバマ政権時にの末期に先進療法の開発・導入を促進する「21世紀の治療法案」が可決され、NIHへの予算拡充が約束されたが、もはやその予算がなくなったどころの話ではない。
むいた牙は鋭く、科学予算はズタズタに食いちぎられたと言っても過言ではない。
科学界は大混乱
A grim budget day for U.S. science: analysis and reaction to Trump's plan(米国科学の悲惨な一日:トランプの計画への分析と反応)から、その衝撃の大きさをみてみよう。
NIHの予算20パーセントのカットは大きな影響が出そうだ。
NIHはアメリカ国立衛生研究所などと訳されるが、実態は、医学生物学研究に資金を提供する機関であり、白楽ロックビル氏はこの訳を不適切だと指摘する。
なお、白楽は、「NIH」を「アメリカ国立衛生研究所」と訳すのは間違っていると、何度も主張してきた。NIHは「National Institutes of Health」の略で、直訳すれば「国立健康研究所群」となる。実態を考慮すると、「生物医学研究機構」が適切だと思う。(略)
白楽が、「生物医学研究機構」と「機構」を加えたのは、NIHは単なる研究所ではないからだ。予算の8割以上を全米の大学・研究所の生物医学(=生命科学)研究者に研究費として配分している。米国最大の助成機関でもある。そのためもあり、米国の生物医学研究体制のあり方、生物医学の動向・政策を議論・実施する集団でもある。だから「研究所」ではなく、「生物医学研究機構」なのである。
だから、NIHの予算減の影響は大きいのだ。
記事によれば、この予算案では、限られた予算を現在進行中のプロジェクトに回さざるを得ないため、2018年には新しい研究資金がゼロになりかねないという。
予算案では、開発途上国の科学者の訓練を専門とする研究所が一部廃止されるのではないかという懸念が出ているという。「アメリカファースト」には合わないということだろう。
この記事には、研究機関からの様々な反応が紹介されているが、悲鳴のような声が聞こえてくる。
- 「この予算案は、米国の技術革新と経済成長を阻害するだろう」(アメリカ大学協会)
- 「(NIHのための)資金削減の規模はこれまでにないものであり、慢性および感染性疾患に対する科学的発見を遅らせる」(アメリカ微生物学会)
- 「予算が実現すれば、科学的進歩のために後退し、イノベーションのリーダーとしての米国の役割を危険にさらし、米国の公衆に害を与える」(クリスティン・マッケンティー氏;米国地球物理学連合事務局長兼CEO)
- 「残念ながら、行政のFY18予算は、世界のイノベーションリーダーとしてのアメリカの地位を維持するために必要な投資を蝕むだろう」(スチュワート・ヤング氏;アメリカン・イノベーションに関するタスクフォースのエグゼクティブ・ディレクター)
引用はこれくらいしておけば十分だろう。
トランプ政権を心変わりさせる方法はあるか?
公表されたのは予算案であり、まだ、議会で承認されたわけではない。これからの働きかけで、トランプ政権に心変わりをさせることができるだろうか。
正直言って、その可能性は低いと言わざるを得ない。
科学関連の機関や研究所は、トランプ政権にアプローチできる人脈を持っていない。そもそもいまだ科学アドバイザーすら任命していないくらいだ。科学への関心の乏しさはいかんともしがたい。いくら声明など出したところで届かないだろう。
4月22日に日本を含めた全世界で予定されているデモ行進、March for scienceは影響を与えられるだろうか。
これに関しては、科学界内部からも「それだけではだめ」という声が出ている。
Nature誌は2月23日号の社説で、トランプ氏に投票した、科学の進歩から取り残されている人々のニーズや雇用の見通しに対処せよと述べる。
この問いは、日本の科学者への問いでもある。
他人ごとではないトランプショック
思い返せば、民主党政権時代の事業仕分けで科学予算の縮減の判定が出た時、ノーベル賞受賞者らが政権を厳しく批判した。
このとき、果たして「科学の進歩から取り残されている人々のニーズや雇用の見通し」に向き合ったのか。
それから7年。自民党第2次安倍内閣で行政改革担当大臣を務めた河野太郎議員は、以下のように言う。
科学は大事、科学予算は必要…こういうだけではもはやどうにもならない現実にどう向き合うか。
海を挟んだアメリカの科学者が直面する問題は、日本の科学者にとっても大きな問題なのだ。