多嚢胞性卵巣症候群:PCOSについて説明します。
(以下PCOSと書きます)
多嚢胞性卵巣症候群:PCOSとは
長くてわかりにくい名前の病気ですが、最近特に増えており、毎日患者さんが来院されています。そのため少し難しいですが読んでみて下さい。
普通は毎月1つの卵胞が大きくなり2㎝で排卵します。
しかしPCOSの場合には、卵巣内にたくさんの小さい卵胞ができてしまい一つに絞れなくなっています。また卵巣表皮が厚く硬くなってりまい、その結果排卵が出来なくなり、生理が不順になる病気です。
発症頻度としては結構高く、10%程度に認められます。(10人に一人)
PCOSの特徴
①月経異常(92%):第1度無月経が43%と最も多く、続いて希発月経が35%、無排卵周期症が20%となっています。
②不妊 (98%):排卵障害による不妊となります。
③肥満 (20%)
④男性化:多毛、にきび、低音声等の男性化徴候です。しかし欧米と比べるとこれらの出現頻度は低く、日本では男性化徴候をそれほど重視しない傾向があります。
PCOSの原因
原因はまだはっきりとはわかっていません。以下のいくつかの候補を上げます。
①視床下部~下垂体~卵巣という一連のホルモン分泌過程がありますがそれらが調和を取れないために起きてしまっている可能性があります。
②遺伝:遺伝的な背景が関係している症例もあります。
③インスリン抵抗性:改善薬であるメトホルミンが効く例があります。
④肥満:肥満との関連性が疑われています。
PCOSの診断基準
Ⅰ.月経異常
Ⅱ.多嚢胞性卵巣
Ⅲ.血中男性ホルモン高値 または
LH基礎値高値かつFSH基礎値正常
注1) Ⅰ~Ⅲの全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする.
注2) 月経異常は無月経,稀発月経,無排卵周期症のいずれかとする.
注3)多嚢胞性卵巣は,超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ,少なくとも一方の卵巣で2~ 9mmの小卵胞が10個以上存在するものとする.
注4)内分泌検査は,排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に.1cm以上の卵胞が存在しないことを確認のうえで行う.また,月経または消退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低い事に留意する.
注5)男性ホルモン高値は,テストステロン,遊離テストステロンまたはアンドロステンジオンのいずれかを用い,各測定系の正常範囲上限を超えるものとする.
注6)LH高値の判定は,スパック― Sによる測定ではLH≧ 7mIU/ml(正常女性の平均値+1× 標準偏差)かつLH ≧ FSHとし,肥満例(BMI≧ 25)ではLH ≧ FSHのみでも可とする.他の測定系による測定値は,スパック― Sとの相違を考慮して判定する.
注7)クッシング症候群,副腎酵素異常,体重減少性無月経の回復期など,本症候群と類似の病態を示すものを除外する
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007)
治療法は
①体重コントロール
②クロミッド内服
③排卵誘発剤注射
④メトホルミン内服
⑤外科的な治療(腹腔鏡下のドリリング術)
⑥体外受精
以下個別に説明します。
①体重コントロール
肥満症例のPCOSにはまず体重のコントロールが第一選択となります。減量によりホルモンバランスが改善され月経周期が正常化してきます。運動も有効です。
②クロミッド内服
クロミッドを用いる事が第一選択です。クロミッド1錠/日から開始して改善しない場合はクロミッド3錠/日まで増量します。大体5~7割の方に排卵を認めてきます。ただクロミッドの副作用である子宮内膜が薄くなる事や、頚管粘液が減る事等により妊娠率は2割程度と意外に低いのが難点です。そのためクロミッドで妊娠しない場合は半年程度で排卵誘発剤の注射へとステップアップします。
③排卵誘発剤注射
月経中から排卵誘発剤の注射を毎日打ちます。最近は自己注射できるゴナールFが出ており保険も通るため非常に使いやすくなりました。使い方は75IUより開始し、十分な卵胞の発育(平均径11mm以上)が認められない場合には7日ごとに37.5IUずつ増量します。主席卵胞径が18mに到達した後、hCG 製剤を投与して排卵をおこします。8割以上の方に排卵を認めます。妊娠率は3~5割程度です。この治療の問題点は卵胞が沢山出来てしまい卵巣過剰刺激症候群になったり、多胎のリスクが上昇する事です。それらを防ぐために注射の間は頻回にエコー検査を行い発育卵胞が4個以上の場合はその周期はキャンセルとし、避妊するように説明します。治療開始前にこの副作用を十分に説明しておくことが大切と言えます。
④メトホルミン内服
メトホルミン とは経口糖尿病薬です。インスリン抵抗性改善薬です。欧米ではPCOSに広く使われており、日本でも使われてきています。クロミッドにメトフォルミンを併用して用います。副作用としては下痢、吐き気が多いため事前に十分に説明する必要があります。1日服用量が750mgとして使用します。妊娠後には中止します。なおメトホルミンはPCOSの適応外のため保険はききません。自費での投与となります。
インスリン抵抗性とは、細胞のインスリン受容体がうまく働かず、インスリンの働きを受け付けなくなった状態を言います。インスリン抵抗性はどうやって判断するかというとHOMA-Rで判定します。HOMA-R=空腹時血中インスリン濃度×空腹時血糖×1/405 1.6以下で正常、2.5以上で抵抗性ありと判断されます。
⑤外科的な治療(腹腔鏡下のドリリング術)
クロミッドに対して反応しない場合に外科的な治療を行います。腹腔鏡下に卵巣表面に沢山の小さい穴を20か所位あける事を言います。ドリリングと呼んでいます。これにより排卵しやすくなり妊娠率も6割程度まで上がります。ただし手術の効果は約1年程度となっているため早期の妊娠が求められます。また全身麻酔下に手術を受けて小さい傷が残るというリスクもあります。
⑥体外受精
本来ならPCOSは体外受精の適応にはなりません。ただ以上にあげた治療を行っても妊娠しない場合には体外受精を検討する事になります。PCOS例で体外受精を行うメリットとしては、排卵誘発の注射により沢山卵胞が出来た場合でも、採卵して移植胚数を制限することで多胎を防げるというメリットがあります。ただOHSSのハイリスク群のためPCOSに対しては慎重に誘発剤を用いる必要があります。
最後に
以上PCOSについてまとめてみましたが、PCOSとは要は排卵しにくい病気であるという事です。しかし排卵さえしてしまえば、あとはなんという事はありません。今まで排卵しなかった分、卵はたくさん残っているし、子宮も卵管も問題ないわけなので排卵が出来れば自然妊娠は十分可能になります。