生殖医療の安全性 | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

生殖医療は安全かどうか

とても大切な問題だと思います。


今行われている治療は

本当に安全な治療なのでしょうか??


きちんとした動物実験により事前に確かめられ

沢山の治験を踏まえて安全性が確認され

そのうえで人に応用されている

そう考えてよいのでしょうか?


残念ながらそうではない技術も少なからずあります。

とりあえず妊娠すればよい。

妊娠率が前より上がったからそれでよい。

そういう技術もあります。

需要が多すぎて、十分なデーターが取れていません。



それでは逆にどの程度の技術力が

我々にあるのでしょうか?


実は我々はそんなに大したことはしていません。

精子を作れるわけでもないし

卵子を作れるわけでもありません。


自然界で起きている事象の

ほんの少しの事を手助けしているにすぎません。


顕微授精が凄そうに聞こえますが

ただ精子を卵子に入れているだけです。

入れた後は卵子と精子任せです。

とても人の手の及ぶ領域ではありません。


着床に関してはほとんどわかっていません。

移植などただ胚を子宮に入れているだけです。

まさにブラックボックスそのものです。


この着床という過程を克服しないと

今以上の妊娠率は上げれないと思います。


そういうわけで

妊娠率もどんなに頑張っても40%位です。


恥ずかしいながら

本当にわからない事ばかりです。


しかも色々な人がいろんな事を言っています。


「新しい事は出尽くした」

そういう意見も聞きますが

出尽くしたのではなくて

これからたくさん出ていくると思います。


体外受精の歴史ですが

昨年ノーベル賞を受賞したロバート・G・エドワーズ博士が

1978年に世界で初めて体外受精に成功しています。

その際に生まれたルイーズ・ブラウンさんは今32歳です。
彼女は自然妊娠し4年前に男の子を出産しています。


日本では1983年に東北大学医学部付属病院で

体外受精によるベビーが誕生しています。


顕微授精の歴史ですが

世界で最初の成功例1992 年にベルギーの

ブリュッセルで誕生しております。

日本ではこの2 年後の1994 年1 月に

福島県立医科大学病院にて最初の児
が誕生しております。


顕微授精で生まれた人は19歳が最高齢であり

その人が子供を生んだかどうかは定かではありません。


体外受精、顕微授精の安全性についてですが

今まで色々な論文で追跡調査が行われており

現在までのところ、体外、顕微授精を行うことによって、

先天奇形、産科的合併症、周産期リスクなどの点で

有為な上昇はないといわれております。


個人的にも体外受精や顕微授精は

安全な手技であると思っております。


しかし生まれた子供の長期的な予後や

次世代への影響等を含め、まだ判明していない点も

多くあるのが現状といえます。


しかし同時に私はこう思います。

自然の力は偉大だと。


我々人間が色々あがいて小細工をして、

それにより何か小さな異常が出たとしても

自然の力でそういうものを

直してくれているのではないか。


細胞周期の中で(細胞分裂の際に)

必ずチェックポイントというのがあります。


新しい細胞ができるとき

もし分裂の過程で異常が出ても

チェックポイントでその異常を修復して

周期がそのまま次の過程に進んだ

場合に起こるだろう惨事を防いでいます。


同じ事が我々の生殖医療にも

おきているのではないかと思います。


謙虚に基礎研究を積み重ね、

妊娠率を少しでも上げられるように日々努力し

今後も邁進すればよいと思います。