スポーツ審判員のアローアンスを考える | 西陣に住んでます

スポーツ審判員のアローアンスを考える

西陣に住んでます-サッカー




6月12日のサッカーワールドカップアジア最終予選

日本vsオーストラリア戦、敵地で順調に引き分けましたね!


イエローカード7枚が飛び交い退場者2人が出るという
荒れたゲームでしたが、このファクターとして話題になっているのが、
カリル・アル・ガムディ主審(サウジアラビア)のレフェリンングです。


ロンドンオリンピックも近い中、

この記事では、このレフェリングを起点にして
各種スポーツ審判員のアローアンス(裁量)について

詳しく考えてみたいと思います。


男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子



まず、先日の日本vsオーストラリア戦のレフェリングのうち、

主として問題となっているのが次の判定です。


(1) オーストラリアのミリガン選手への2回目の警告(イエローカード)
(2) PKを与えた日本の内田選手への警告(イエローカード)
(3) 最後のフリーキック前の試合終了の判断


ここで、これらの問題点のそれぞれについて

分けて検証してみたいと思います。


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(1)オーストラリアのミリガン選手への2回目の警告(イエローカード)


オーストラリアのオジェック監督はミリガン選手の2回目の警告について

次のように述べています。[goal.com 2012/06/12]


「ミリガンはボールを蹴ろうとしたのであって
後ろから来ていた内田については見えていなかった。
ミリガンは内田に触れていないので絶対にファウルではない。」


この言葉の正当性を評価するために[サッカー競技規則]

参照してみたいと思います。


まず、サッカー競技規則第12条を見ると、
直接フリーキックが与えられるファウルとして次のように明記されています。


競技者が次の7項目の反則を不用意に、無謀にまたは過剰な力で犯したと

主審が判断した場合、直接フリーキックが相手チームに与えられる。


・相手競技者をける、またはけろうとする。
・相手競技者をつまずかせる、またはつまずかせようとする。
・相手競技者に飛びかかる。
・相手競技者をチャージする。
・相手競技者を打つ、または打とうとする。
・相手競技者を押す。
・相手競技者にタックルする。


次の3項目の反則を犯した場合も、

直接フリーキックが相手チームに与えられる。


・相手競技者を抑える。
・相手競技者につばを吐く。
・ボールを意図的に手または腕で扱う

(GKが自分のペナルティーエリア内にあるボールを扱う場合を除く)。


今回のケースでは、ミリガン選手が

「不用意に無謀にまたは過剰な力で相手競技者をけろうとした、
または飛びかかった」と主審が判断したと考えられ、

判定に対するアローアンス(裁量権)が主審にある以上、
ファウルにとられても仕方がないプレイと考えられます。


これが警告(イエローカード)にあたるかどうかですが、
第12条には警告となる反則として次の7つが明記されています。


・反スポーツ的行為
・言葉または行動による異議
・繰り返し競技規則に違反する
・プレーの再開を遅らせる
・CK、FKまたはスローインでプレーが再開されるときに規定の距離を守らない
・主審の承認を得ず、フィールドに入る、または復帰する
・主審の承認を得ず、意図的にフィールドから離れる


今回のケースでは、ミリガン選手のファウルが反スポーツ的行為であると
主審が判断したと考えられ、裁量権が主審にある以上、
警告にとられても仕方がないプレイと考えられます。



(2) PKを与えた日本の内田選手への警告(イエローカード)


[日本経済新聞 2012/6/14]

サッカージャーナリストの大住良之氏が次のように述べています。


ウィルクシャーがキックしたとき、

内田はたしかにアレックスを抱え込むような動きをしたが、

強く引き倒したわけではない。アレックスは少し動いただけだった。


内田選手のケースでも
同様に「不用意に相手競技者を抑えた」と主審が判断したと考えられ、
裁量権が主審にある以上、
ファウルにとられても仕方がないプレイと考えられます。

裁量権が主審にある以上、「強く引き倒したわけではない」とか

「少し動いただけ」などということは、

原理的に考えればエクスキューズにはなりません。


そして内田選手が犯したファウルが反スポーツ的行為であると
主審が判断したと考えられ、裁量権が主審にある以上、
警告にとられても仕方がないプレイと考えられます。


なお、[SportsNavi 2012/06/12] によれば、
オーストラリアのオジェック監督が試合後の会見で

「内田はファウルをしていない」とコメントしたと報道していますが、
このような趣旨の報道は英文サイトではまったく見当たらず、
誤報である可能性があります。



(3) 最後のフリーキック前の試合終了の判断


[日本経済新聞 2012/6/14] ではサッカー解説者の都並敏史氏が
次のように述べています。


たしかに本田は時間をかけすぎたかもしれない。

しかし、その前には相手選手が規定の距離離れず、時間を浪費していた。

「3分間」と示されたロスタイムが4分を回ってもけらせて当然のケースだった。


ただ、サッカー競技規則第7条「試合時間」によれば

空費された時間をどれだけ追加するかは主審の裁量である

と明記されていて、

PKの場合を除けばいつ終了になっても構わないことになっています。

都並さんがいくら「当然のケース」と考えても

審判が「当然のケース」と考えなければこのような判定になっても

仕方がないと言えます。


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以上の3つのケースはサッカー競技規則に基づけば、
原理的にまったく問題がない判定と言えます。

サッカーファンの皆さんが問題とするのが、
あの程度のことで警告を与えるべきかということですが、
サッカー競技規則に「過去の判例を参考にしなければならない」
ということは一言も書かれていないのでその提議は何の効力も与えません。

また、日本メディアは以下のような報道をしていますが、

ハッキリ言って単なるフラストレーション解消でしかないといえましょう(笑)


[JCASTニュース 2012/06/13]

サッカー日豪戦で「疑惑の笛」連発 サウジ人主審の「いわくつき」過去
[スポーツ日本 2012/06/14]
日本サッカー協会 豪州戦“不可解判定”に意見書提出へ


その点、大人の対応をしたのはザッケローニ監督です。

「判定は相手に有利だったか?」との質問に
「レフェリングについてコメントはしたくない。」と理性的な回答をしました。
[SportNavi 2012/06/12]


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ただし、このような判定がフェアーであるかということになれば、
警告を2回受けた選手は次の試合に出場できなくなるなど、
以降の試合に影響を与えるわけなのでフェアーでないことは明らかで、
警告を多く与える傾向にある主審にあたってしまうことは
アンラッキーなことと言えます。


こういった問題を解消にするには、
「後ろから足をける」とか「ユニフォームをつかむ」とか「頭部を手で打つ」とか
具体的な例規を一つ一つきめ細かく明記して
主審の裁量権というものを最小化することが

エッセンシャルであると思います。



メモメモメモメモメモメモメモ



ところで、審判の裁量については、
必ずしもサッカーの問題だけではなく
各種スポーツに共通した問題といえることができます。

そんなスポーツのダークサイドを見ていきたいと思います。



目柔道


シドニーオリンピックで篠原選手が銀メダルに終わったのは、

審判の判定によるものと言う意見が多いと思います。


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[講道館柔道試合審判規定] には「勝負の判定(投技)」として
次のようにあります。


一本:
技をかけるか、または相手の技をはずして、相当の勢い、
あるいははずみで、だいたい仰向けに倒したとき。


技あり:
完全に「一本」とは認めがたいが、
今少しで「一本」となるような技のあったとき。


有効:
「技あり」とは認めがたいが、
今少しで「技あり」となるような技のあったとき。

これは完璧に審判の裁量によるものですね(笑)
「相当の勢い」とか「だいたい仰向け」とか
言葉からして極めてアバウトですし、
「今少しで」って具体的に何なのか知る由もない言葉です(笑)


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目相撲


長ったらしい競技規則が多い中、
我が国の伝統競技である[相撲規則]
めちゃくちゃシンプルで素晴らしいのですが(笑)
ダークサイドも存在します。


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相撲規則「勝負規定」によれば、


土俵外の砂に体の一部でも早くついた者を負けとする。

但し、吊って相手の両足が土から上がっているのを土俵外に出す時、

自分の足を土俵外に踏み出してから、相手の体を土俵外に下した場合は、

送り足となって負けにならない。


とあります。これには裁量の余地はやや少ないのですが、


相手の体を抱えるか、褌を引いて一緒に倒れるか、

または手が少し早くついても、相手の体が重心を失っている時、

即ち体が死んでいる時は、かばい手といって負けにならない。


とするいわゆる「死に体」の認定には、裁量が大きく介在していて
クレームと言うか「物言い」の主原因となっています。


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なお、規則には↓こんなことも書かれています。


土俵外にどれほど高く吊っても、また相手の体を持ち上げても勝ではない。


そんなことは言われなくてもみんな知ってると思います(笑)



目ボクシング


6月9日のタイトルマッチで王者マニー・パッキャオが判定負けしたことで

審判の判定が今大きな問題となっています。

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[コミッションルール] の第25章「試合の勝敗」によれば、
試合判定のベースとなる得点は次のように決定されます。


第79条 

採点は『10点法』による。その分類は、試合内容によって次の4段階とする。

10=10(互角の場合)
10=9(若干の勝ちの場合)
10=8(ノック・ダウンまたはこれに近い状態をともなう明らかな勝ちの場合)
10=7(相手が全くグロッギーでノック・アウト寸前の圧倒的な勝ちの場合)
[備考] 10=6はつけず、この場合は当然TKOである。


ここでも「若干の」とか「ノック・ダウンまたはこれに近い状態」とか
「ノック・アウト寸前」とかいう審判の裁量に依存した言葉が使われています。


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なお、ノックアウト(KO)の規定は

「ダウンして10秒以内に試合を続行できない場合」となっていますが、

時間についてはタイムキーパーによって厳正に計時されるので、

これについては裁量が入る余地はありません。



目プロレス


何とも疑惑の判定が多い(笑)プロレスの勝敗条件となるピンフォールは
相手の両肩をマットに押し付けて3カウントというのが一般的ですが、
このカウントは必ずしも1カウントあたり1秒とは規定されていないようで
ここにレフェリーの裁量が存在することになります。


西陣に住んでます-プロレス


レフェリーがカウントを寸止めすることがありますが、
あれは全然構わないことになります(笑)


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[INOKI GENOME] などでは「両肩をマットに3秒以上」という規定がありますが、
ストップウォッチで計測するわけではないので
レフェリーの裁量が存在することには実質的にかわりありません(笑)



目バスケットボール


バスケットには、ヴァイオレイションと呼ばれる
3秒ルール・8秒ルール・24秒ルールというのがあります。
[BJ league OFFICIAL BASKETBALL RULES]


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このうち24秒については、タイムキーパーによって
正確に計時されるのですが、
3秒ルールについてはストップウォッチで計時されるわけではなく、
審判の裁量が存在することになります。

3秒ルール:

自チームのバスケットに近い制限区域内に引きつづき3秒をこえて

とどまっていてはならない。


また、「プレイヤーが制限区域から出ようとしているときには

3秒ルールは適用しない」という規則があり、

ハッキリ言って何を禁止したいのか、少なくとも私にはわかりません(笑)


制限区域から出ようとしているのならば3秒超えてもいいなんて
なんでもありになっちゃいますよね(笑)


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なお、話は横道にそれますが、
「食べ物が床に落ちても3秒以内なら食べてもいい」という
「3秒ルール」には理論的根拠はほとんどないらしいです(笑)



目バレーボール


以前は「ドリブル」と呼ばれていた「ダブル・コンタクト」は
同じプレーヤーが連続してボールに触れる反則です。
(但し、ブロックと1回目のレシーブは除きます)


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これは一般にオーヴァーハンドトスの際に左右同時に
ボールに触れなかったときにとられる反則ですが、
実は左右同時にボールに触れるなんてことは
厳密にほとんどありえない物理現象です。


分子レベルのミクロスコーピックな観点に立った場合、
ボールは左右どちらかの手に最初に接触し、
遅れて次の手にあたっているはずであり、
同時にあたっている確率はほぼ0と考えられます。


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このことはいわゆる自明の理であり、

一見同時に両手にボールが当たっているように見えるケースも
実際には同時に近く両手にボールが当たっているのであって、
このことを前提としてルールを規定しているバレーボールくらい
裁量が効いているスポーツはないと言えます。


まぁかなり大人げない論理ではありますが(笑)



目野球


野球にはファウルチップというものがあります。


野球規則2・34「ファウルチップ」


打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手の手に飛んで、

正規に捕球されたもので、捕球されなかったものはファウルチップとならない。

ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである。前記の打球が、

最初に捕手の手またはミットに触れておれば、はねかえったものでも、

捕手が地面に触れる前に捕えれば、ファウルチップとなる。


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物理現象としてとらえた場合、
ファウルチップとファウルフライは同じ現象です。
野球規則では「鋭く」と規定していますが、
具体的にどこまでを鋭いとするかは審判の裁量に任されています。


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一方、投手には、セットポジションにおける完全静止の規定があります。


8・01(b) セットポジション
投手は、ストレッチに続いて投球する前には

ボールを両手で身体の前方に保持し、完全に静止しなければならない。

これは義務づけられていて、審判員はこれを厳重に監視しなければならない。

投手は、しばしば走者を釘づけにしようと規則破りを企てる。

投手が "完全な静止" を怠った場合には、

審判員は、ただちにボークを宣告しなければならない。


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問題として挙げられるのは、
「だるまさんがころんだ」にも共通することですが(笑)、
人間である以上完全静止なんてことは物理的にできないことです。

心臓は動いていますし、
少なくとも体を構成する原子核の周りにある電子は回ってます。
これもまぁかなり大人げない論理ではありますが(笑)



目競馬


競馬は勝負の判定が難しい場合には写真判定が行われます。


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これこそ厳密なスポーツ!
・・・と思いきや「進路妨害」[JRA]というダークサイドもあります(笑)


走行妨害


・斜行や斜飛などにより、他の馬の走行に重大な影響を与えること。
・加害馬は失格または降着となります。

・加害と被害の関係が特定できることが前提となります。
・被害馬の進路の取り方、被害馬の騎手の対応に過失がないことも

 前提となります。


被害馬が重大な影響を受けたか否かは、

以下の状況から総合的に判断します

・被害を受ける直前の状況・・・被害馬の脚勢・進路の取り方
・被害の状況・・・減速・躓き・バランスの崩れ・距離ロス・被害の継続時間等
・被害後の状況・・・被害からの立ち直りの状況


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なんとも曖昧なことに(笑)、結局はブレインストーミングという
定量的根拠がない審議によって決定されています。


目F1


世界のテクノロジーが結集されるF1グランプリ!

そんなF1にも残念ながらやっぱりダークサイドがあります(笑)


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F1の競技規則によれば、ドライヴァーに罰則を与える行為として
次の7つが挙げらています。


a)本競技規則41条に基づきレースの中断を必要とするもの。
b)本競技規則もしくは国際競技規則を侵害するもの。
c)1台以上の車両の反則スタートを引き起こしたもの。
d)衝突を起こしたもの。
e)ドライバーのコースアウトを強いるもの。
f)ドライバーによる正当な追い越し行為を妨害するもの。
g)追い越しの最中に他のドライバーを不当に妨害するもの。


これらの行為に対する罰則は次のような様々なものです。


a)ドライブスルーペナルティ
b)10秒間のタイムペナルティ
c)タイムペナルティ
d)戒告
e)当該ドライバーの次の競技会にて、グリッド位置をいくつか下げる。
f)競技失格
g)当該ドライバーの次の競技会から出場停止


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行為の軽重に応じて
罰則をブレインストーミングによって決定するわけですが、
頭がひん曲がってしまうほどの難しい裁量となりそうですね(笑)


メモメモメモメモメモメモメモ



・・・というわけで、

スポーツのルールには必ずと言っていいほど

審判員のアローアンスを前提とするダークサイドがあります。

スポーツ観戦でフラストレーションが高まって憤死しないためにも(笑)
ジャッジを誰もが納得するフェアなものにする必要があり、

審判員のアローアンスに頼らない客観的な判定を可能とする

きめ細かい例規集が必要であるかと思います。

最後に本心を言わせていただきますが、
内田さんのあのプレイは絶対ファウルじゃないですよね(笑)