登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。



初めての方は プロローグ
 からお読みください。




「九条・・お前・・こんなところで何やってるんだ?」




先生は少し叱りつけるような口調で私にそう言った。


私の心の中は


悲しいのと腹立たしい気持ちが入り混じって混乱し、


先生の質問に答える余裕なんてなかった。



「何でですか?」


私は唐突にそう聞いた。


気持ちが先走る。



「・・・何が?」


先生は急に聞かれた質問に


顔をしかめてそう聞き返した。



「なんで、私のこと、避けるんですか!!」


先生は私の言葉にぴくりと眉をあげると


一瞬言葉に詰まったように喉仏を大きく上下させて


ごくりと唾をのんだ。


そして、まるで平常を装うようかのように言った。



「別に避けてなんかいないよ。


他の生徒と同じように接しているつもりだけれど」



言い終わるか否や私はその答えを斬った。



「うそ!!!」



先生の顔はまるで困ったなとでも言いたげな顔になった。



そして




「わかった!


もういいよ。わかったから。


これについては今度話そう。


とにかく、君は今授業受けていないといけない時間だろう。


教室に戻りなさい。」




そう言いながら


桧山先生は私に背を向けた。



私は桧山先生の背中を見て、


はぐらかされたような気持ちになり、


感情がさらに高ぶった。




「なんで!!なんで!!


なんでちゃんと答えてくれないんですか?


わたし、ずっと気になっていたんです。


桧山先生、私にはいつも挨拶、ろくにしてくれないし


英語だって聞きに行っても教えてくれない・・・



わたし、先生に何かしましたか?


昨日は・・・あんなに親切にしてくれて


すごくうれしかったのに・・・




もう、わたし・・・馬鹿みたい。


先生、他の女の子には


笑顔であいさつしたり、


英語だって教えてあげるくせに・・・


何で私には…」



最後は涙がこぼれて、声が震えてしまった。


だめ!!泣いちゃダメ!!!


そう思っても涙が出てくる。


涙をこぼしながら


気づいてしまった。。。


わたし・・


桧山先生のことが好きなんだ。



やだ・・・今気づくなんて…。


どうしよう。



桧山先生は私が泣いているのに気づいたようで


びっくりしてこちらを向いて


私の瞳を見た。


でも、わたしは、自分の恋心に気づいた途端、


先生の顔をまともに見られなくなってしまい


何故かここから逃げ出したい気分になってしまった。。



「九条・・・」


そう言いかけた先生の言葉を遮るように


私は準備室脇に置いてあった机の上に


手に持っていた小袋を


乱暴に置くと


「もういいです!!」


と半分叫んだ様な声で吐き捨てるように言って、


準備室を飛び出し、


後ろ手でバタンと扉を閉めた。


今、外に出たこところで


他の教室では授業の真っ最中。


どうしていいのかわからず、

しばらく扉の外でぐずぐずと泣いた。



すると・・・涙が出たせいか、


少しすると気持ちが落ち着いてきた。



そして、今自分がしたことを冷静に振り返ってみた。



こんな場所にまで来て


先生に強気で詰め寄ったものの、


自分の気持ちに気付いてしまい、


その後が続かなくなってしまった。


今更ながら、恥ずかしささえ感じる。



あたし、最低だ・・・



授業をさぼった上に


感情的になって先生を問い詰めた生徒。



このもやもやの正体が


先生に対する恋だったことがわかったとたん、


自分の執った奇行が


先生にとっては


至極迷惑だったろうと


ひどく申し訳なく感じた。



扉のすぐ向こう側にいるであろう先生の私への気持ちは



今、どんなだろう?


もうこれで完全に嫌われただろうな・・。




そう思うと、今起こしてしまった大胆な行動を、後悔し始めた。


タイムマシンがあるなら1限目の終了チャイムが鳴ったところまで時間を戻したい。



もう・・・このまま・・・家に帰っちゃおうかな・・・



私は準備室の扉から離れて


LL室の出口扉に向かって歩き出した。




その時だった






後ろで バタン!!!


と扉が勢いよく開く音がした。



びっくりして振り向くと


そこには桧山が立っていた。



「まだ・・・そこにいたのか」



先生が小さな声でそう言った。



「あ・・ごめんなさい。



落ち着いたんでもう行きます。



なんか、本当、ごめんなさい」



恥ずかしさの余り、うつむきながら


そう言うと


わたしの発言が終わるか終らないかの内に


先生が私に近づいてきて


昨日のホームで倒れそうになった時のように


胸に私を引き寄せた。





「・・・・!!




あ・・先生、大丈夫です。


今日はもう倒れませんから」



私は自分の心臓がドキドキ言うのを耳の奥で聞きながら


やっとのことでそう言ったのに


先生は私を離そうとしない。



「・・・先生??」



私は先生の胸を両手で押して


先生の体から離れようとしたけれど、


先生の腕は強くてびくともしない。




わたし・・・先生に抱きしめられているんだ。




そう気づいた瞬間、先生が私の耳元でつぶやいた。




「もう、行っちゃったかと思った・・・。




なんでだよ。



なんで、来るんだよ。




俺、すっげーがまんしてたのに。」



先生は意味のわからないことを


先生らしくない言葉で呟くと


少し腕の力を緩めてくれた。



私が先生から少し体を離すと


先生は頭をあげて


私の瞳をじっと見つめ、


そしてまたうな垂れてしまった。




私は・・・何も言えずにいた。



しばらくすると、


先生が再度頭を上げて私の顔を見た。




「九条、おまえは・・・・本当に・・・もう・・」




そう言うと先生は


ごくりと唾を飲み込み


瞼を閉じて一呼吸置くと


目を開けて言った。




「俺も、お前のことが好きだ。」






えっ???





私は耳を疑った。




先生が・・・私のことを・・・好き???




「ぅ・・」



何も言えずにただただ先生の顔を凝視する私に


先生は


ふぅっとため息をつきながら


ポケットから紙を取り出した。



「これだよ、これ。。

九条、これに



俺のこと大好きって書いたろ」



そう言って私の目の前で紙をちらつかせた。


その小さな紙は折り皺がついていて、


そこには、


「桧山って超イイ。大好き」


と書かれていた。



私には見覚えのない・・・





あっ・・・!!!



それは亜由美があの時私に渡そうとしていた紙だった。




プッ!!!



思わず吹いてしまった。



「な・何がおかしいんだよ?」




先生は少し顔を赤らめてそう言った。




「先生さ・・・



生徒の筆跡くらい、覚えておきなよ。



それ、亜由美の字だよ。」



わけがわからない様子で


きょとんとしている先生に向って


私は念を押した。



「それは亜由美の字!!



キ・ノ・サ・キ・ア・ユ・ミ の字だよ」




先生はアァッとため息のような言葉を漏らすと


両腕で頭を抱えて



「なんだよ・・・」



と小さくつぶやいた。



直後、先生はハッと気づいたように


勢いよく頭を上げて言った。


「じゃ、お前はおれのこと・・・」



そう言いかけた先生の言葉を畳みかけるように


私は


「私は先生のことなんて


別に何とも思ってないですよ」




と意地悪く言ってみた。




先生の顔がカーッと赤くなり、


また両腕で頭を抱え込み


「マジかよ」


とくぐもった声で言った。




大の大人である先生が困っている姿は


申し訳ないけれど、すごくかわいくて


しばらく見つめていた。



だけど、ちょっとかわいそうになって


頭を抱え込む腕からすこし見えている耳に


軽く口づけをした。




先生はびっくりしたように


顔をあげて、私の顔を怪訝な顔で見つめた。



そんな先生の瞳を見ながら


私は言った。



「うそ。。


本当は私も先生のこと、大好きだよ」



「え???」


先生は信じていいのかわからないといった感じで


私を見つめた。



「いや、あのメモは本当に亜由美が書いたんだけどね


でも、私も先生のこと、好きなんだ」

私はさっき気づいたばかりの気持ちを


先生に素直に告白した。



「・・・・



おまっ・・・



コンノヤロー」



先生は真っ赤な顔でそう言うと


私を押し倒すように大きな拳で私の頭を軽くぐりぐりとした。


しばらくじゃれあっていると


小さい吐息も顔にかかるくらい


近くに先生の顔が近くに来て



そして・・・・


私たちは・・・


お互いに吸い寄せられるように唇を重ねた。


続く


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