実のところバブル経済真っ盛りの1987年、

箱根駅伝のテレビ全国放送によって

絶大なる広告効果に気づいたのは関東の大学、とりわけ東京の私立大学だった。

その目的は、ずばり

「受験生の確保!」

以外の何物でもない。


これは箱根駅伝に限ったことではない。

 比較的人気の高い学生スポーツ

に力を注ぎ、

 ー学力軽視・スポーツ重視の体育会推薦入試

を積極的に推進し、

偏差値を高めることに成功した大学は少なくない。

その典型が明治大学だと思う。

何でもかんでも

 早慶戦!

と盛り上げる早稲田大学や慶応大学にあやかり

いつのまにか

 早明戦!

等で梶原一騎のような劇画化に成功した効果は何人も否定できないのではあるまいか。


 スポーツによる偏差値上昇マーケティング

で明治大学に大きく水をあけられたのが隣にある法政大学。

我が輩は法政大学で講義を担当していた頃、観じたとだが、

法政大出身の比較的年配の教職員は

「俺たちが学生の頃は、明治よりも、法政の方が上だった!」

と不快感をあらわにしていた。

実際そうだったらしく、ライバル意識は相当なものだった。

 ー法政がボアソナードタワーを建てたのは、

   明治がリバティータワーを建てたからだ!

と学者仲間では噂していたのも頷ける。


では、明治や法政が力を注いだ野球やラグビー等では

まったく歯が立たない非伝統校の私立大学はどうしたのか?


野球やサッカー等では素人が太刀打ちできる状況にはない。

球技はセンスであり、努力ではどうにもならないのが現実である。

つまり選手の素材で決まるわけで、

非伝統校が推薦枠をもうけても肝心の人材が着てくれないのだ。
それにだ。

球技は球場等の設備費・管理費等の固定資本がかかりすぎる。

その点、戦前からある伝統校は、土地が安い頃、ただ同然で購入しており、

高度成長等の寄付金が集まりやすい時期に球場を造っているので問題ない。

さらに、野球が今ほど人気のない頃から伝統校ではプロ選手を輩出しているという点も、

プロ志望の球技エリートには魅力というわけだ。


その点、箱駅駅伝は、球技とは違う。


第一に、優勝することが重要なのではなく、箱駅駅伝に選抜されて走ることが重要である。

      アナウンサーが大学名を連呼してくれるだけで宣伝効果が高い。

      出場資格が全国の大学ではなく、関東圏の大学に限られているので

      全国大会のある他の競技に比べればハードルは相対的に低い。

      その割には人気が極めて高く、注目度はおそらく日本一。

      つまり競争の激しい球技よりも相対的に結果をはやくだせる。


      それに箱根駅伝の場合は、球技とは異なり、そして他の陸上種目とは異なり設備がいらない。

      なにせ走るコースが一般道なのだから。


      仮に途中棄権したとしても、

      アナウンサーが「あぁ、**大学、**選手、転倒です!」とか「棄権です!」

      と叫んでくれれば十分な宣伝効果が期待できる。


      それにだ。

      箱根駅伝の時期がいい。

      受験シーズン真っ盛りなのだから。            

      東大や京大等を目指している受験生はマーケティング対象ではない。

      そもそもこの層は、1月に箱根駅伝を朝から晩まで見ている余裕はない。

      

       ところが、そういう難関校を志望していない受験生は「変数」が高いと思われる。

       少しでも名が売れている大学を選ぶ心性がないとはいえないのである。

       箱根駅伝の効果によって受験してくれるだけでも私立大学は恩の字と言える。

       選んでくれればもっけの幸いというわけだ。
       ほんの数年前迄は、

         ー入学保留・入学金半額・分捕り

       というヤクザまがいの寺銭稼ぎが横行していたのだから大学人は恥じねばなるまい。


第二に、大学側は、高校陸上で優れた記録をもつ1流選手だけを集める必要性がない。

      2流でも良いというわけだ。

      重要なのは箱根駅伝を熟知している監督やコーチ。

      彼ら「一流の箱根駅伝指導者」が

      「高校陸上2流選手」を「箱根駅伝適正選手」に育てながら

      数年で「箱根駅伝常連校」に育てれば良いのだ。

      

     それに箱根駅伝は10名しか走れないのだから、

      箱根駅伝を究極の目標にしている選手は

      選手層が厚く、次から次へと優秀な新人を調達できる伝統校を避ける傾向があると思われる。

      10名のレギュラーに選ばれないからである。

      実は「敵」は外ではなく「内」にあるというわけだ。

      よって箱根駅伝を目指している選手は分散する傾向がある。

      球技とは異なり、非伝統校でも選手を集めることができるというわけだ。


     箱根駅伝は、他の競技への互換性がない。

     逆に言うと、陸上の正式種目の成績が思わしくなくとも、

     箱根駅伝のコースによっては、極めて適応力の高い選手を発掘できる。

     それが優勝を決定づける5区の山登りと6区の山下りだと我が輩は思う。

     だから箱根駅伝を目指している選手は、

       ー自分の箱根駅伝潜在能力

     をのばしてくれる指導者に惹きつけられるはずだ。

 

     無名大学陸上部が、

    優れた箱根駅伝指導者が赴任して数年でぐんぐん実力をつけ、

    初出場を果たしたと思いきや、

    シード権を獲得して常連校となり

    箱根駅伝予選会とは異なる箱根駅伝本番強化練習で

    あっと、いう間に初優勝を果たしてしまうのは、

    以上のような

     ー箱根駅伝の特殊性にある!

    と陸上素人ながら考えてしまうのである。

         

以下その4に続く