バーゼル10

バーゼル留学を終えた坂本龍右君(前回で紹介しましたが)、ミクシーをやっているそうです。お母さんが卒業リサイタルの本人の感想を送ってくださったので、そのまま貼り付けます。大分マニアックな記述もありますが、プログラムを作るに当たっての苦心などが分かって面白いと思いました。長いですけど、よかったらどうぞ。


XXXX
 久しぶりの更新です。水曜日の晩に、
2度目の修演というビッグイベントを無事終
えることができました。それからも諸々のことで忙しくしておりまして、昨日の昼は
両親を送り出し、マイミクさんの修演の助演を終え、ひとまず一息ついたところで
す。

 まず修演について。改めまして、聞きに下さった方々にお礼を申し上げたいと思い
ます。バーゼル近辺の方々はもちろんですが、サプライズ・ゲストとして、なんとス
ウェーデンからわざわざ私の演奏を見るために来てくれたスヴェン・ベリイェル氏と
里子氏ご夫妻、そして2度目のバーゼル訪問となるマイミク知足庵さん、さらに両親
と、遠路はるばるやって来た人々にも感謝です。

 今回もまた、立ち見の出るほどの盛況となりました。直前までプログラムを公開し
ていなくて、そんなに派手に宣伝したわけでもないのに、結果として注目度の高さは
予想以上だったようで、マニアックなものを揃えたと自負する演奏会に、これだけ来
場があったということに、ある程度の誇りを感じています。

 観客が多いということで、とりわけクラヴィチテリウムの調律に神経を使ったので
すが(これが狂うと後の全てに影響するため)、早めの楽器搬入のおかげで最小限に
食い止めました。ティボー写本のタブラチュアから復元したダンスのセットは、ヤン
グ氏の反対意見を押し切って思いっきり「ダサい」解釈で一貫させましたが、真面目
な音楽の中に突如出現したイモっぽい音楽に、かえって対比が付いたのか、特にヴェ
ロニク氏から大好評。人によって音楽の嗜好というものは本当に分かりませんね。そ
れからアグリコラの複雑な器楽曲も、GP時点では相当怪しかったのですが、カタロ
ニア人の学生が土壇場で間に合わせてくれて、これも大きな事故もなく通りました。


 プレクトラムリュートから、指弾きのルネサンス・リュートに持ち替えた直後が、
一種の鬼門。ここでいかにすばやく感触を得るかが勝負なのですが、ここであえて即
興ネタを入れたのは、やむない処置というよりは、楽器の感触を取り戻すために最善
の方法と考えただめでした。その後に続いたのが、ジョスカンの「スターバト・マー
テル」。

 ハイライトとなったのは、私の読み通り、このセクションだったようです。何し
ろ、この曲の存在を知ったときから、絶対に修演の真ん中にこれを据えると固く決め
ていたのでした。ヤング氏の専門領域であるレクトラム・リュートの音楽、そしてホ
ピー氏の本領が発揮されるルネサンス・リュートによるポリフォニーの解釈という、
両者の領域をつなぐまたとない曲が、これであったわけです。ホピー氏の勧めでフ
ルートの学生を定旋律に回し、ビウエラ・ダ・アルコを弾くスウェーデン人にバスに
回ってもらった結果、アンサンブル面で格段に説得力ある響きとなりました。

 なんと、ランディ氏はこの曲の途中で感極って泣いてしまったということで
た・・わたしはさすがにそこまではいかなくとも、バーゼルに来てからとりわけ音楽
面で影響を受けたこの3人と同時にステージで共演できるという喜び、そして天国に
いるバンショワ・ジョスカン、そしてフランチェスコ・ダ・ミラノの巨匠3者がこれ
また共演しているというということを想像しても、その思いは格別です。ルネサンス
音楽の気高さがここに結晶している・・という事実からも、まさに万感の思いを持た
ずにはいられません。

 マドリガルとカンツォネッタの演奏は、いつもの3人だったためそれほど緊張はし
ませんでした。間に挟まったパッサメッツォの即興では、フルートの学生がいきなり
予想もしないリズムと音型ではじめたため狼狽しまたが、すぐに付けました。イスラ
エル人軍団の中で内声を歌ったジェズアルドのマドリガル・・ある意味苦肉の策でし
たが、外部審査員として前回に引き続きやってきたエドアルド・エグエズ氏による
と、演奏会で一番盛り上がったのは私が歌いはじめた瞬間だったとのこと。もっと
リュートのことについてコメントして欲しかったです。ジェズアルドの前奏としてゴ
ステナのファンタジアの一部を、そして最後はモリナーロのファンタジア14番で終え
ました。

 何度も書いてきたように、これは入学試験でも弾き、また最初のレッスンでも持っ
て行き、これまでで一番時間をかけた曲・・別の審査員からは、スコラでの5年間で
の締めくくりとして、最後の和音を噛みしめるように弾いた瞬間が良かったとのこと
です。

 内部審査員には、長老ハンス・マルティン・リンデ氏がいました。入学直後から何
かと目をかけてもらってますが、長年いろんなリュートの学生を見てきたが、こんな
にステージ上で楽しく弾いいる姿を見たことはないと言ってもらえました。講評の場
には、もちろんヤング氏、 そして何より私のバーゼル留学を一番に勧めてくれた恩
師ホピー氏も同席。ああ、ついに終わったのかという思いと、これからはこれらの
人々から得たものと、またこの人たちからの期待を背負って、演奏家としてさらに自
覚を持たなければならないなという思いを新たにしました。

 講評の結果が出るまでかなり待たされたのですが、打ち上げの会場にはこれまた予
想を超えてたくさんの仲間たちが待ってくれていました。ルネサンス音楽の理論・実
践面で、この2年間の実質的なコーチ役だったアン・スミス氏は、普段教えにこない
水曜日の晩の演奏会だったので、泊りがけで来て、打ち上げにも参加。この方面の音
楽の草分けでもあるベリイェル氏とも直接話ができて、嬉しそうでした。

 金曜日の晩には、ランディ氏の自宅に、家族揃って夕食に招かれました。ランディ
氏は、目下コンソートのクラスで使っている計量譜の提供者として、父親に礼がした
いという思いと、私としても父親には、是非ともオリジナルのルネサンス・ガンバを
弾かせてあげたいという希望がありました。私が申し出ると、自慢の楽器なので快く
出してきてくれました。当時の奏法でいろいろと試しました。残念ながら親が留学し
た時代は、こういう楽器に直に触れ合う機会は全くといっていいほどなかったので、
これからの世代がもっと啓蒙すべきでしょう。ちなみに犬たちはやたらと母親になつ
いてました・・ランディ氏のもとの生徒で、イスラエル人のガンバ奏者も同席。ラン
ディ氏のパートナーの作った、手作りのレッケライも美味で、土産にもらっていまし
た。

 ランディ氏が撮ってくれた修演での画像を載せましょう。こうして共演者たちに恵
まれ、私は本当に幸せ者です。

 本日もご訪問ありがとうございました。
XXXX