スウェーデンのラジオ/テレビには「社会の悪をあばく番組」がいろいろあります。
その中の一つ、先週の「任務・徹底調査(Uppdrag Granskning)」でびっくりするようなことを報告していました。
「昔よきスウェーデン」が崩れていく現象のひとつのように思えたので、紹介します。

スウェーデンの銀行にSparbanken(貯蓄銀行)というのがあります。
1820年に生まれた銀行で、貧困の中にあった労働者たちに貯金を勧め、よき市民に育てるという目的で作られました(今、こう書くと、なんかやけにダサい)。
各地方でそれぞれが独立した組織を持ち、国の奨励もあったのでしょう、20世紀始めには全国で500の小銀行が活動し始めました。
この銀行の目的は市民に貢献することでしたから、利益が出たら色々な形で市民に返していくことになっていました。
それぞれの銀行が独自の方法で返済を行いました。
貯蓄者に直接返す(利子を上げる)ところもありました。
他のところではその地方の文化・スポーツ活動を補助する形をとりました。
このおかげで、地方の文化(音楽、芸術、文学など)がうるおっていました。
ばかにならない金額が流れていったのです。

この銀行には「教会の塔」の原則というのがあったそうです。
つまり、村(町?)の中央にある教会の塔のてっぺんから見渡せる範囲で投機を行う、という考えです。
危ないことに手を出さないこと。

$北欧からコンニチワ-Swedbank
銀行のロゴはしっかりと生えた樫の木のシンボル。スウェーデンでは堅実さの象徴としてだれもが知っているマークでした。

銀行の数はその後もどんどん増え、大戦直後にはなんと2000近くになりました。
しかし小さな組織が一つ一つセコセコと働くより、統合して、組織を大きくした方が効率が上がる、という考えから、それを全国で130にまとめました。
経営はうまくいき、銀行も、小都市の文化も反映するというサクセス・ストーリーが続きます(ここまでは、めでたし、めでたしーーーでもそう簡単にはいかない)。

1990年代の不況はこの美しい物語にも影を落とします。
そこで危険を感じた大都市の10の銀行がまとまって、スウェードバンクという大銀行を作り、株式組織にします。
他の百いくつかは貯蓄銀行連合という組織になり、スウェードバンクの最大株主になります。
いくつかの銀行はこの変換に加わらず、教会の塔に閉じ篭る方針をとりました(今この形で残っているのは南スウェーデンの3銀行だけ)。

そして今回のバブル。スウェードバンクは非常に戦闘的で、バルチック諸国、ウクライナなどのリスクの大きい地方に投資をし、莫大な利益を上げます。
株主の貯蓄銀行連盟もびっくりするような配当を受け、それは昔の原則通り、おらが地方の文化活動に配分されました(めでたし、めでたしーーーとはいかない)。

大判振る舞いの後に来た今回の変動。
2008年にリーマン・ブラザーズが破産すると、スウェードバンクはここに莫大な投資をしていたことが明るみに出ます。
そしてバルチックの不況も銀行を直撃。スウェードバンクはほとんど破産の憂き目に会います。
ということは貯蓄銀行連盟も運命を共にすることになる。
スウェードバンクは新株権の発行をとなえ、連合はこれを買わざるを得なくなります。
買わなければ、自分達も破産の道連れになってしまいます。
ところが連合は利益を上げないのがモットーですから、資金はほとんどない。
どこからかお金を借りなくては、買えません。
この不景気。どこも貸してくれない。
そこに現れたのが、やはり市民活動に元を発するフォルクサムという保険会社。
社会主義のよしみで、スウェードバンクの以前から持っていた株を担保にして借りられることになります。
(これでめでたし、めでたしーーーとはいかない)

連合の責任者のおじさんたち、テレビに出てきたけど、いずれも昔よき時代の雰囲気の、実直そうな人たちでした。
この新しい株は初値が45クローナでした。
ところがこの株値がどんどん下がり始めます。
日本語でなんというのかわかりませんが、ブランクニングという投機の対象になってしまったのです。

これは株価が下がらば下がるほど儲かるねじれた投機方法なのです(複雑なこのシステムが分かるまでグーグルを読みまくったのですが、ここでは詳しくは書きません。世の中にはとんでもない方法(合法)でお金を儲ける人がいるのですね)。
465クローナだった株価は数日にして18,5クローナまで下がります。
これが限界。貯蓄連合のはこれ以上下がると元も子もなくなってしまうので、担保とともに全てをフォルクサムに譲ることになります。
こうして、1820年から綿々と築き上げてきた資産も信用もすべて一瞬にして失い、こんにちでは貯蓄銀行連盟のスウェードバンクの持ち株は2パーセント(これが彼等に残された残骸)のみとなります。
ロゴのよく知られた樫の木も今ではスウェードバンクの所有です。

一方、フォルクサムのほうはがっぽりと儲けたことになります。
ここの会長は社会党政府で大臣までやったようなコチコチの社会主義者のはずなんですが、時代は移って、そんなこと思うと大間違い。うちはブランクニングなんかやってませーん、と神妙な顔で保証してましたが・・・。

丸裸にされた連合の話はどこか、今のスウェーデンを象徴しているように思いました。
長いこと、ご静読ありがとうございました。