中国、「対米摩擦」日米貿易紛争時より経済的抵抗力はあるのか | 勝又壽良の経済時評

中国、「対米摩擦」日米貿易紛争時より経済的抵抗力はあるのか

 

 

中国の底力が日本上回る?

勝ち目はゼロで交渉が有利

 

 

米中の経済摩擦は今後、どのように展開するのか。中国は、米国の関税引き上げに対抗して米国が課す同額の関税を米国製品にかけると「対等」の姿勢を見せている。一歩も引かない強い姿勢である。今回の貿易摩擦の原因は米中どちらにあるか。先ず、この視点から見直しておくべきだ。マスコミ報道では、因果関係を飛ばして現象面だけに話題を集中させている。本質的な問題は、中国の経済体制が「非市場経済国」であることだ。市場経済ルールに則っていれば、恒常的な過剰設備=過剰生産=過剰輸出は起こりえない。

 

中国は、政府主導の経済運営である。市場経済ルールでなく、世界覇権を握るという国家目標にしたがって、生産計画を立てている国だ。こういう異質の経済システムが、現在の自由貿易システムを悪用している構図だ。中国の生産シェアだけを高める。こういう狡猾な政策に固執しているが、他国と衝突して当然である。

 

報道では、関税を引上げた米国が加害者で、中国は被害者のような関係に立っている。中国は自由貿易原則を守るという「良い子」に分類されている。だが、経済摩擦の原因をつくったのは中国である。国内は保護主義を貫き外資を堂々と差別している国だ。その被害国が韓国である。中国は決して、自由貿易原則を守っている国ではない。自由貿易原則を隠れ蓑にして、都合の良いときだけこれを利用し、中国に不都合なときは無視した行動を取っている。

 

中国の底力が日本を上回る?

『人民網』(4月5日付)は「日米貿易摩擦の再現? 香港紙「中国の底力は当時の日本よりも強大」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、中国が米通商法301条によって経済的な制約を課されても影響ないと言い切っている。日本は、1980年代後半から日米通商摩擦が起こり、米国の通商法301条によって大きな被害を受けた。だが、中国は当時の日本と比べて格段の経済力を持っているので、日本の二の舞にはならない。こう言い切っている。

 

以上の主張は、単なる「出任せ」にすぎない。平成バブルの崩壊する1990年と最近の中国経済の主要データ(2016年)を比較分析すると、そのような「太平楽」を言ってはいられない切迫感が存在する。当時の日本は、半導体や自動車の対米輸出が増えて、恒常的な巨額の対米貿易黒字を計上していた。この裏に、日本の閉鎖的な産業構造があった。これが、米国の指摘である。そこで、円相場の切り上げも求められ、半導体に関する日米協定を結ばされた。日本は急速な円高と半導体輸出の自主調整と、不動産バブル崩壊も重なり、坂から転げ落ちるような経済成長率の失速に見舞われた。中国は、この二の舞を演じることはないだろうか。

 

(1)「過去を振り返ってみると、1980年代から90年代にかけた日米貿易摩擦の時代にも、米国は『通商法301条』に基づく調査を発動して、日本に貿易構造の改善を絶えず要求し続けてきた。香港紙『香港経済日報』のサイトが3日に伝えた。当時の日本は世界第2位のエコノミーに躍進し、米国のグローバル経済における『一強』状態に挑むようになった。こうしたことから、トランプ大統領が中国に対して『301条調査』という大ナタを振るおうとするのは、かつて日本を押さえ込んだ手段の繰り返しではないかとみる向きが多い」

 

当時の日本経済は、不動産バブルによって抱えた債務残高が大きな荷物になっていた。その点で言えば、日本も中国も同一の環境に置かれている。中国は、日本以上の債務残高を抱えている。日本は、ここで米国から円高相場を求められ、1ドル=100円を突破する円高によって、輸出に急ブレーキがかかった。ここに、経済成長率の急減速と超円高が「同居」し、日本経済は急転した。

 

中国は、膨大な債務を抱えている。人民元相場は、政府管理下に置かれているが、米通商法301条によって、中国の保護主義的な産業構造が突き崩されれば、輸出競争力に大きな負の影響が出るはずだ。そうなると、人民元相場が急落して資本逃避が起こるであろう。その意味で、中国経済にとって301条は油断ならない「凶器」になり得る。むろん、世界経済にとってはプラスである。中国経済の「開放」を意味するので、是非とも実現させなければならない。

 

為替相場や資本移動でも、中国は日本よりも大きく出遅れている。当時、日本の為替相場は自由変動相場制であり、資本移動に制約はなかった。中国の為替相場は、政府の管理する管理変動相場制で、かつ資本移動に規制がかかっている。人民元は、円と同様にIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)に指定されたが、中身は普通の通貨以下で流動性に欠ける劣った内容である。中国が、メンツにかけて強引にSDRへ昇格させた政治的な産物である。

 

SDRは、国際収支の悪化で苦しむ国が、IMFから自国に配分されているSDRを他国に引き渡すことで、必要とする外貨を入手できる権利だ。人民元は、このSDRの果たすべき中身を欠いた「欠格SDR」である。早期に、自由変動相場制移行と自由な資本移動実現が求められている。中国は、この点でも課題を背負っている。

 

要するに、1990年の日本経済は国際通貨としての力量と資格を備えていた。現在の中国は、それを果たす意欲も見せずに先送りしている。米通商法301条では、中国が知的財産権を窃取していると指摘され改善を求められている。当時の日本は、こうした不名誉な指摘を受けた訳でなく、保護主義的な産業政策の改善だけを求められたものだ。この点で、中国の方がはるかに深刻である。

 

(2)「米国は今回、『301条調査の亡霊』を復活させて、かつて日本を攻撃した手段を用いて、中国の勃興発展を押さえ込もうとしているとの見方が広がっている。しかし香港メディアは、中国のもつ底力は当時の日本よりも強大であるとの見方を示している。報道では、歴史というものは常に単純に繰り返されるとは限らないとし、米国が今回、『301条調査』の大ナタを振るったとしても、かつての日本と同じ結末になるとは限らないとしている。そして日本の勃興発展が押さえ込まれた原因として次の3点を挙げている」

 

米通商法301条は、構造的な米中間の貿易不均衡の原因が、中国の知的財産権侵害にあると指摘している。「市場経済国ルール」に則ったものでなく、「非市場経済国ルール」という保護主義的な政策で不公正競争を挑んでいる。その結果、中国は対米で膨大な貿易黒字を計上していると判断している。

 

米国は、中国の保護主義を撤廃せよと迫っているのだ。中国はこれに対して、理路整然と説明すべき義務がある。感情的に反発して、米国の科すペナルティーと同額の報復をするのは、何ら事態の解決にはならない。中国は先ず、技術窃取の疑いについて答える義務がある。中国は、人間の生み出す最高の産物の知的財産権を盗み出したと疑われている。この行為が、許されると見ているのだろうか。

 

(3)「1.敗戦国としてのバランスの差:日本は第二次世界大戦の敗戦国であり、平和条約の下では軍隊をもつことができず、日本の安全保障は米国頼みとなっている。力量の非対称性という状況から、日本は米国との貿易をめぐる要求をのまざるを得なかった。だが今の中国にはこのような重荷はなく、米国に対しノーと言うことができる」

 

このパラグラフは、随分と見当外れの内容だ。日本が戦争で米国に敗れたから、通商法301条を受け入れたと言っているからだ。あくまでも貿易問題であって、敗戦国云々とは無関係である。中国は貿易摩擦を「戦争」と見立てているようだ。現実に、当時の日本の保護主義は目に余る行為であった。全ての工業製品を内製化して輸出する。製品輸入を極言まで減らすという産業構造を作り上げていたのだ。これが、日本の技術水準を世界一に押上げた理由でもあるが、世界貿易の均衡を破っていたことは事実である。

 

「中国製造2025」は、過去の日本版産業構造を目指している。しかも、米国などからの技術窃取で完成させようと狙っている犯罪行為である。米国が、先手必勝でこれを阻止する動きに出たのは当然である。中国に文句があれば、自力で技術開発すべきだ。他国の技術を窃取することは許されるはずがない。

 

(4)「2.経済力:今の中国の国内総生産(GDP)の米国に対する比率は、80年代の日本を上回り、中国の成長ペースは日本よりも速く、中国は2030年には経済で米国を追い抜く可能性が高い。そのため中米交渉で中国はより大きなパワーを発揮できる」

 

この点も大いなる誤解がある。後で、当時の日本と現在の中国の置かれた状況をデータで客観的に指摘したい。中国はこれだけ自信があるならば、堂々と米国の主張に反論すれば良い。中国が2030年に米国経済を抜くという前提は2つある。①中国は今後とも6.5%成長を継続する。②米国は、その間2.5%成長に甘んじる。この前提は、余りにも中国に都合の良い話である。習氏もこの前提に騙されているのだ。

 

(5)「3.貿易に依存した経済:中国経済は国内消費が主導するモデルへと徐々にモデル転換を遂げており、輸出に過度に依存することはなくなり、貿易戦争の打撃によりしっかりと耐えることができるといえる。中国の手の中にあるカードはかつての日本よりも多く、不公平な交渉結果を受け入れることはない」

 

中国のGDP(名目)に占める個人消費比率(2016年)をご存じないようだ。現在、39.3%で40%を割っているのだ。韓国は48.8%、日本55.9%、米国68.8%である。個人消費比率のウエイトは、その国の経済が安定的かどうかを判定する目安である。中国は、これだけ個人消費依存度が低いために、輸出依存度が高くなっている。米中貿易摩擦が現実化すれば、輸出に大きな打撃を受けて、その分が経済成長率を引下げる。この現実を冷静に受け入れるべきだろう。空元気だけで、「撃ちてし止まん」という強腰では国を滅ぼすことになるのだ。

 

(6)「報道では、こうした前提の中で、今日の中米貿易戦争はかつての日米貿易戦争よりもかなり複雑なものになるのは確実だが、中国は必ず当時の日本よりもきっぱりとした強い立場を守り抜くだろうとの見方を示している」

 

中国は大変、強気予想を立てている。日米貿易摩擦における日本よりも、米中貿易摩擦における中国の立場が強いと胸を張っているのだ。これについては、次に示すデータを見てから結論を出すべきだろう。結論を先取りして言えば、現在の中国は、当時の日本よりもはるかに弱い立場におかれている。はっきり言えば、当時の日本経済はすでに先進国。中国のGDP規模は世界2位でも、実態は発展途上国である。この段階で、米国から市場経済国としての産業構造転換を要求されている。中国は耐えられるだろうか。

 

勝ち目はゼロで交渉が有利

日中経済力比較

            日本(1990年)  中国(2016年)

①  実質経済成長率     5.26%      6.76%

②  1人当たり名目GDP  25.196ドル   8.123ドル

③  名目GDP・民間最終

消費支出比率      51.59%     39.33%

④  名目GDP・政府最終

消費支出比率      13.59%     14.35%

⑤  名目GDP・総資本形成

比率          34.22%     44.09%

⑥  名目GDP・財貨サービス

輸出比率        10.29%     19.59%

⑦  生産年齢人口比率(15~

64歳)        69.66%     72.18%

  (注:中国の生産年齢は15~59歳で、表記より短縮される)

 

日本の基準年が1990年である理由は、米国から「通商法301条」を突き付けられてんてこ舞いしていたことと、バブル崩壊が始まる時点である。中国の2016年は、日中の共通データが揃えられる最新時点という意味にすぎない。

 

①  実質成長率は、日中にそれほどの差はない。日本は、この年がバブル崩壊した年である。

②  1人当たり名目GDPは、日本が25.196ドル、中国は8.123ドルである。中国は日本の3分の1にすぎない。この事実こそ、中国経済の脆弱性を示している。中国は、米国覇権に対抗するという目標を出したが、米国を刺激するには十分すぎる言葉だった。現状で、言ってはならない言葉である。保護主義を取り外資系企業を差別する中国が、米国に対抗するなど「夢のまた夢」である。自らが市場開放をすることが先決なのだ。

 

③  名目GDP・民間最終消費支出比率は、日本が51.59%、中国は39.33%である。中国は、このデータを記者会見の席では絶対に明かさないシークレットである。これに代わって言っているのは、「名目GDP・最終消費支出比率」である。民間と政府を合計した数字である。中国としては、個人消費比率の低さを知られたくない理由は、インフラ投資や設備投資に力点をおいて、GDP押上げが第一の偏向主義を隠したいからだ。これで、消費主導の経済など実現するはずがない。永遠の課題であろう。

 

④  名目GDP・政府最終消費支出比率は、日本が13.59%、中国は14.35%である。これはほぼ同じ水準にある。

⑤  名目GDP・総資本形成比率は、日本が34.22%、中国は44.09%である。総資本形成とは、設備投資やインフラ投資を指している。この比率が、中国は44%もある。世界中に中国製品を氾濫させていることや、国内に高速道路や高速鉄道網を敷設している裏舞台はここに現れている。民主主義国は、どこも個人消費が総資本形成を上回っている。中国は逆である。GDP押し上げの即効性を重視して、闇雲な「土木国家」を作り上げてきた。この比率を下げると、GDP成長率はがくんと落ちる。一種の麻薬効果に酔いしれてきた。これが、特色ある中国社会主義だそうだ。国民の消費比率を上回る総資本形成とは、国民不在の政治を証明している。

 

⑥  名目GDP・財貨サービス輸出比率は、日本が10.29%、中国は19.59%である。中国は、総資本形成比率が高いことを反映して、輸出比率が20%弱もある。中国は、加工貿易が主体である。原材料や中間財・半製品・部品を輸入して、最終製品に組み立てて輸出する。これが、輸出比率を高める理由である。輸入比率も高いが、「メード・イン・チャイナ」が世界中を席巻している。これだけ高い輸出比率の中国が、米中貿易摩擦で無傷などあり得るはずがない。米国と喧嘩腰で「最後まで戦う」とは理屈に合わない話なのだ。米国とは妥協するほかない。

 

⑦  生産年齢人口比率(15~64歳)とは、総人口に占める生産年齢人口の比率である。この比率は、一国経済の潜在成長率をほぼ示している。生産年齢人口比率が上昇局面では、経済成長率がアップ。下がれば成長率がダウンする関係だ。中国は、2010年をピークにして下落している。現在は、下り坂経済である。

 

日本の生産年齢人口比率は69.66%、中国が72.18%である。一見、中国が高い比率だが、これには「マジック」が隠されている。中国の場合、健康寿命が短く、65歳まで働けないという事情がある。中国の生産年齢は15~59歳で計算されているから、国際基準よりも5年も短い。これを勘案すると、日本と中国は、ほぼ同じレベルの生産年齢人口比率で、対米貿易摩擦に突入している計算である。このことは、経済的な負担が大きいことの証明でもある。

 

以上の7点から判断して、中国が日本よりも有利という条件はゼロである。このままで、米中が貿易戦争に突入すれば、中国は大きな痛手を受けることが必至と思われる。輸出に影響が出るから雇用問題に火がつく。これが、個人消費を引下げるのでGDP成長率が下方修正を迫られる。人民元相場下落に拍車を掛けるので、外貨流出を招くであろう。米国と対抗しても非は中国にある以上、米欧日から包囲されるリスクを負うだけだ。

 

(2018年4月14日)

 

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