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2017-04-29 05:00:00

中国、日本が米抜き11ヶ国で「TPP推進」RCEPは不利

テーマ:ブログ

 

 

新TPPに日本の活路

RCEP空中分解寸前

 

米トランプ大統領が、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱を表明して以来、TPPは漂流を続けていた。TPP加盟予定国から外れていた中国は、いよいよ中国の出番とばかりRCEP(東アジア地域包括的経済連携)推進に力を入れている。米国の抜けたTPPは立ち往生すると見ていたのだ。

 

私は、1月5日のブログで、「日本、『安倍首相!』米抜きでもTPP実現して難局打開へ」と主張した。この思いが通ったわけでないが、日本政府はついに米国抜き11ヶ国でTPPの仕切り直しに着手するという。安倍首相の決断に大きな拍手を送りたい。

 

安倍首相は当初、米国抜きのTPPには慎重な姿勢を見せていた。あくまでも、米国を含めた12ヶ国が一緒にTPP結成という原則を貫いていた。これは、米政府への「心遣い」であったという。米国がTPPを離脱したから、あっさりと「米抜き」のTPPを推進するよりも、タイミングを置いて米国の了承を取り付けた後、「米抜き」を決断したと報じられている。米国が、勝手にTPPを離脱したとはいえ、将来の復帰を見据え礼を尽くし、日本が次の道を選択したことは良かったと思う。これが、同盟国への礼儀というものだろう。

 

米国抜きのTPP推進を強調したのは、次に引用する山下一仁氏である。私も氏の主張に啓発されて、1月5日のブログで賛意を表したものだ。それが、このような形で進むことに、喜びを感じるものだ。

 

新TPPに日本の活路

『ロイター』(2016年12月22日付)は、「米国抜きの新TPPに日本の活路」と題して、山下一仁氏がその実現性を提案している。筆者は、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹  12月22日、キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の山下一仁氏は、トランプ次期米大統領の予告通り、米国が環太平洋連携協定(TPP)から離脱したとしても、日本は米国抜きの新TPPを通商戦略の根幹に据えるべきだと指摘。提供写真(2016年 ロイター) (元農水省国際部参事官や農村振興局次長)である。日本農業の表と裏を知り抜いた、数少ない市場経済を理解する専門家である。

 

この記事は、元農水省官僚であった山下氏が、TPPこそ日本経済にとって再生の切り札になるという確信から、TPPの精神を引き継ぎ米国が参加しなければ、米国抜きでTPPを先へ進めさせることを提案している。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)ごときものでは、とてもTPPの代役は務まらず、TPPに優る多角的な貿易協定はほかにないと指摘している。

 

日本のTPP反対論は、日本農業が米国の影響を強く受けて、農産物や畜産物の発展を阻害されるという点にあった。だが、米国抜きのTPPであれば、米国から受けるマイナス面を遮断できる。国内のTPP反対論者を説得できるとも指摘する。ただ、TPP法は国会で成立しているから、反対論が存在しても実質的な影響はない。米国抜きでもTPPが発効できれば、国内のTPPに対する受け止め方は、ぐっと変わってくるはずだ。

 

TPPは域内のGDPの6割強を米国、日本が2割弱を占める。TPPについて日本は、これまで「事実上の日米自由貿易協定(FTA)」(交渉担当者)とみてきた。だが、TPPですでに合意したルールが新TPPで維持されれば、米抜きでもメリットは大きいと判断されている。成長が続くアジア市場で、外資規制や国有企業の優遇緩和が進めば、日本企業の海外進出に当たって環境整備が進むからだ。縮小する日本国内の市場を考えれば、新TPPが日本に与えるメリットは死活的な重要性を持っている。

 

(1)「トランプ氏が米大統領でいる間は、米国のTPP参加はないものとして、日本は通商戦略を再構築する必要がある。とはいえ、私は、TPPがダメだから、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に軸足を移すべきだとの考えには賛同できない。むしろ、その逆だ。米国抜きの新TPPを進めることを、日本の通商戦略の根幹に据えるべきだと考えている」。

 

日本の通商戦略の基本にTPPを置くべきだとしている。これは、現在の多国間貿易協定のなかで、TPPが最も高度の内容を持っているからだ。RCEPはその意味で、自由化率が低い点でも遅れており、TPPに匹敵できる内容でない。日本の野党は、米国がTPPから離脱するのだから国会審議は無意味とした反対論を述べてきた。それは、日本の経済戦略を弁えない、無責任な意見と言うべきだろう。

 

(2)「(脱米国でも)TPPを促進すべき理由は2つある。1つはその規模だ。米国が離脱しても、TPPにはカナダ、オーストラリア、メキシコなど比較的大きな国が多数参加している。しかも、フィリピン、インドネシア、台湾など、他にも多くの国や地域が参加の意向を示している。個々の国・地域と結んできた通商協定よりも大きなスケールメリットを追求できる」。

 

米国抜きでもTPPを推進すべき理由の一つは、米国を除く参加11ヶ国や、これまで参加したいと意志表示してきた国のGDPの規模が大きく、自由貿易のメリットが十分に期待できることにある。

 

(3)「もう1つの理由は、TPPが既存のいかなる多国間通商協定よりも高いレベルの内容であるということだ。関税撤廃やサービス貿易拡大など自由化の取り組みは、世界貿易機関(WTO)以上に進んでいる。また、投資、貿易と環境、貿易と労働などWTOがこれまで網羅してこなかった分野についても、新たなルール作りに踏み込んでいる。さらに、将来の中国加入をにらんで、国有企業のあり方についても細かく定めた」。

 

米国抜きでもTPPを推進する理由の二つ目は、TPPの協定内容が高いレベルの内容であることだ。関税撤廃やサービス貿易拡大など自由化の取り組みのほか、これまでWTO(世界貿易機関)が網羅してこなかった投資、貿易と環境、貿易と労働などのルールが含まれている。これは、TPP参加国の経済体質を高度化させるもので、他の自由貿易協定には存在しない項目である。こうなると、中国は将来ともTPP加盟が極めて困難であることが分かる。さらに踏み込んで言えば、共産党政権下の中国は、永遠にTPP加入が不可能である。近代化した経済構造にはなれないのだ。

 

(4)「これらはいずれも中国主導のRCEPでは、実現不可能な内容だ。例えば、TPPでは、労働者に労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を法的に保障することが参加国に義務付けられているが、現在の中国政府には到底受け入れられる項目ではないだろう。また、RCEP交渉には、高関税国のインドも入っており、関税引き下げはほとんど進まない可能性が高い。TPPの空白をRCEPが埋められるとは、いずれのTPP交渉参加国も考えていないのではないだろうか」。

 

RCEPは、関税率引き下げが目的である。インドのように引き下げ困難な国までが、RCEPで参加交渉をしている。前途は、多難である。TPPという高度の多国間貿易協定を議決した日本にとって、RCEPの魅力は著しく劣っているのだ。

 

日本から見れば、質の落ちるRCEPに対して、中国は高い評価を与えている。この辺りにも、中国の産業構造の脆弱性が見て取れるのだ。中国の産業構造は、程度の低い人海戦術的な要因が大きい。

 

RCEPは2013年に交渉が始まった。強みは中国やインドが参加し、域内の人口が世界の約半分、貿易額も3割を占める大型の自由貿易協定となる。だが、中印の参加はRCEPの弱みでもある、とされている。欧米先進国に比べて貿易自由化に消極的で、95%の関税撤廃や最先端の貿易ルールで合意したTPPに比べ、自由化率は低くならざるを得ないと予測されている。

 

RCEPは空中分解寸前

交渉全体を通して各国の立ち位置は大きく3つに分けられる。以下の記述は、『日本経済新聞』(2月25日付)による。

 

RCEPは、産業構造の高度化が象徴するように3つのグループに分かれている。

 

1つ目は日本やオーストラリア、シンガポールなどTPPの参加国を中心とした「質の高さを重視する」グループ。TPPの自由化率を念頭に、内容の伴わない合意には反対する。

 

2つ目はフィリピンや中国など、「早期合意が最優先」の立場。米国が保護主義に向かい、アジア太平洋地域に空白が生まれた間隙を突いて主導権を握ろうと、協定内容よりも早期合意を求める。

 

3つ目のグループが、ラオスやカンボジア、ミャンマーといった途上国だ。保護主義の台頭を受けて、第1グループと第2グループの対立が鮮明化しつつあるなか、カギを握るのは第3グループだ。ミャンマーなどは「高いレベルの自由化では国内産業が守れない」と主張。高度技術を持つ人材の派遣やインフラ整備などの経済協力を見返りに求め、RCEPをテコに経済発展を進めるしたたかさを発揮している。

 

これら3グループは、「同床異夢」状態である。中でも、インドがRCEPへの熱意が感じられないと見られている。

 

『ブルームバーグ』(4月5日付)は、次のように報じた。

 

(5)「アジア第3位の経済国であるインドが、関税の引き下げなどに消極的な姿勢を示している。専門家らは、インドがRCEP交渉から離脱するか、協定内容が妥協の産物に終わる可能性を指摘している。米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で米印関係を担当するリチャード・ロッソー氏は、『インドの通商に対する意欲が感じられない。インドは、協定を骨抜きにし、ほとんど無意味なものにできるなら署名するだろう。だが、他国が一歩も引かない場合は署名しない』と予測する」。

 

インドが、RCEPに対して全く熱意を失っている。これは、国内産業の保護が目的である。この状態では、RCEPは空中分解必至である。日本が米国抜きのTPP11ヶ国へと大きく舵を切った理由もRCEP交渉の体たらくに呆れかえっていることもあろう。こういう国々と交渉でだらだらと付き合っていても、埒(らち)は明かないのだ。

 

『人民網』(2016年12月9日付)は、「TPPとRCEP、なぜこれほどの違いが生まれたか」と題して、次のように報じていた。

 

この記事は、米大統領選でトランプ氏が当選したあと、TPPからの離脱宣言をしていたことを受けたもの。TPPの敗北、RCEPが勝利という感覚で執筆されたことは疑いない。日本でもRCEPへ力を入れろという議論があった。TPPという高い理想を捨てて、低レベルのRCEPでお茶を濁して時間を空費するより、新TPPに切り替えたのは賢明な選択である。

 

(6)「地域一体化プロセスのさまざまな構想をながめると、環太平洋経済連携協定(TPP)は成功する可能性が低くなり、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は人気が急上昇している。なぜこれほどの違いが生まれたのだろうか。RCEPはASEAN10ヶ国が提起し、中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドに参加を呼びかけ(10+6)、関税と非関税障壁の削減を通じて、16ヶ国の統一市場を構築することを目指す自由貿易協定(FTA)だ。RCEPが妥結すれば、人口で約35億人をカバーし、国内総生産(GDP)で世界の3分の1にあたる23兆ドルを擁し、カバーする地域が世界で最も大きなFTAになる」。

 

中国は、TPP不発の後でRCEPを最大の拠り所として、アジア経済圏の盟主を狙っていたことは間違いない。だが、RCEPがどのような経済効果を上げるかについて、この記事では何も触れない大雑把な内容である。玉石混淆でバラバラというのが、RCEPの実情であろう。

 

オバマ前米国大統領は、TPP促進の立場からTPPが不首尾だと、中国がRCEPでリーダーシップを確立するだろうと警告していた。RCEPの内情が、前述の程度である以上、中国のリーダーシップ確立はさして大きな意味を持たなくなった。

 

(7)「RCEPが注目を集めるのは、そのスケールの大きさだけが原因でなく、交渉プロセスが順調で、地域経済一体化の成功モデルを体現しているからでもある。RCEPには4つの利点がある。①歴史的な基盤がある。②現実的な基盤がある。③ 順序よく徐々に進展している。④包容力がある。このようにみると、RCEPの順調な進展ぶりは偶然ではないといえる。最終的な成功が期待でき、ここには中国が長年にわたり主張してきたASEANが東アジア地域の一体化プロセスを牽引するという英知が反映されており、他の地域一体化プロセスの手本になることが予想される」。

 

RCEPには4つの利点があると指摘している。

①  歴史的な基盤がある

②  現実的な基盤がある

③  順序よく徐々に進展している

④  包容力がある

ここで取り上げられた4点は、多角的な自由貿易協定のRCEPにとって、経済的なメリットをどれだけ上げられるか、その具体的な内容が不明である。総合的なイメージは、昔ながらの集落がいくつか集まって「郷」を形成するという感じだ。高度の産業が起こるという印象はゼロである。RCEPは、発展途上国として生活共同体の域を超えられないことを示唆している。これを経済共同体にまで引き揚げるには、TPPのような制度的なイノベーションが不可欠である。その勇気がないのだ。

 

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(2017年4月29日)

 

 

 

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2017-04-28 05:00:00

米軍、「空母派遣」北朝鮮攻撃が難攻不落で失敗説「本当」?

テーマ:ブログ

 

 

クリントン時代に立案

トンネル作戦を粉砕へ

 

米国は、クリントン政権時代に北朝鮮の核開発現場の急襲計画(1994年)を立てたことがある。この時は、韓国側に膨大な死傷者が出るとの試算によって中止した。この経緯から現在、米国が唱えている北朝鮮奇襲攻撃計画は、実現の可能性がゼロとみる軍事専門家がいる。

 

奇襲攻撃は、北朝鮮の不意を衝く作戦である。すでに、作戦の大筋が公になっている以上、果たして「奇襲」と言えるか疑問だ。だが、「アナウンス効果」によって、北朝鮮が核開発と大陸弾道長距離ミサイル(ICBM)開発を断念すれば大戦果である。孫子の兵法通り、「戦わずして勝つ」ことになる。

 

北朝鮮の核開発中止は、アジアの安全保障政策において大きな意味を持っている。仮に、北朝鮮が核保有国になった場合、対抗上、韓国や日本に対して核開発を禁止する理由がなくなる。むろん、日本は世界で最初の核爆発の被害国であるから、核保有をするとは思えない。だが、未来永劫にわたり日本国民が核保有を断念するかと言えば、将来の安保環境次第でどうなるか不明である。そういう核保有議論が出るとすれば、100年単位で見た先の話であろう。

 

もし、日本が核保有国になれば、韓国も核保有国になろう。こうなると、東北アジアでは、中国、北朝鮮、韓国、日本が核保有国となる。台湾も保有するかも知れない。核保有国が乱立する状態で、米国の軍事覇権は大きく揺らぐ。群雄割拠の核戦国時代の到来である。こういう悪夢を想像すると、ここで北朝鮮に多数の核を保有させることが、アジアの危機に結びつくことが分かる。

 

クリントン時代に立案

ここで、クリントン大統領時代に立案された「北朝鮮奇襲攻撃」案を見ておきたい。

 

『中央日報』(2月7日付)は、「クリントン元米大統領、94年北朝鮮核危機に核施設精密打撃を準備」と題して次のように伝えた。

 

米国では過去の政権でも北朝鮮を予防レベルで打撃して核施設を除去しようという主張があった。こうした先制打撃論は北朝鮮の核兵器開発過程で何度か検討されたが、実際には一度も実行されなかった。

 

(1)「その代表的な事例が1994年の第1次北朝鮮核危機だ。北朝鮮は93年に核拡散防止条約(NPT)を脱退した後、核実験と弾道ミサイル『ノドン1号』発射を強行した。94年3月に板門店(パンムンジョム)で開かれた南北特使交換実務者会談で北朝鮮代表の朴英洙(パク・ヨンス)祖国平和統一委員会副局長は、『戦争が起こればソウルを火の海にする』と脅迫し、緊張を高めた。これを受け、米クリントン政権は北朝鮮の核施設だけを除去する『精密爆撃』を準備した。しかし北朝鮮が報復に乗り出す場合、大量の長射程砲をソウルに発射するという韓国政府の懸念のため実行に移せなかった。当時、韓米連合軍が首都圏北側に配備された北朝鮮軍の長射程砲を早期に除去できる案がなかったからだ」。

 

94年、米クリントン大統領は「精密爆撃」という核施設だけを標的にした奇襲攻撃を立案した。だが、韓国首都圏北側に配備された北朝鮮軍の長射程砲を早期に除去できる案がなかったので、韓国に及ぼす被害の大きさから、攻撃を断念した。実は、北朝鮮軍の長射程砲が、韓国と北朝鮮の休戦ラインである38度線に沿って、地下トンネルに設置されているという。この長射程砲を一瞬のうちに破壊できる戦略が実現すれば、北朝鮮軍の反撃を食い止められるのだ。この点は、「大規模爆風爆弾(MOAB)」が先の過激派組織「イスラム国」(IS)のアフガニスタン拠点に対して投下されて実証済みである。

 

当時の韓国大統領金泳三(キム・ヨンサム)氏は、米軍の「精密爆撃」に反対したという。韓国側の受ける被害が甚大な予想の結果だ。だが、韓国問題評論家の辺真一氏の証言(4月18日、TBS番組)によれば、後になっての取材の際、「あの時爆撃しておけば良かった」と述べたという。北朝鮮の核開発がその後、深刻な事態になったからだ。

 

(2)「ブッシュ政権当時の2002年にも先制打撃問題が米国で議論された。ブッシュ元大統領は2002年、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難し、金正日(キム・ジョンイル)政権を追放するという目標を立てた。しかし米国はアフガニスタン戦争に続きイラク戦争を準備する過程だったため、対北朝鮮攻勢戦略をあきらめた。しかしその後もペリー元国防長官が『有事の際、対北朝鮮強制手段を動員することもある』と先制打撃論を提起した」。

 

ブッシュ政権当時の2002年にも先制攻撃が米国で議論されたが、実現はしなかった。当時は、アフガニスタン戦争に続きイラク戦争を準備する過程だった。このため、戦線をさらに北朝鮮で展開するゆとりもなく、そのままに終わった。

 

(3)「過去とは違って最近、『先制打撃論』が活発になっているのは、北朝鮮が核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成を控えているからだ。北朝鮮がICBMを実戦配備して米本土攻撃能力を保有するシナリオを米国が容認することは考えにくい。国策研究所の関係者は『先制打撃は核開発を中断させる重要な方法』とし、『公論化を始めたことだけでも北への圧力となる』と述べた」。 

 

以上の記事によれば、米国大統領は二度まで、「先制打撃作戦」を考えたことになる。そのたびに、韓国の受ける損害を考慮して立ち消えになった。この事情を知っている北朝鮮としては、先制攻撃論は米国の「脅し」と見ているに違いない。

 

日本の軍事ジャーナリスト、田岡俊次氏は米海軍が空母を差し向けても、北朝鮮攻撃は不可能という立場だ。

 

『ダイヤモンドオンライン』(4月17日付)は、「米空母派遣でも北朝鮮攻撃の可能性はほとんどない理由」と題して、次のように指摘している。

 

この記事では、最終的に北朝鮮が勝ち目のない戦争だから自暴自棄になって、日本まで被害を及ぼすだろうと見ている。ただ、この記事は、1994年当時の米軍の武器とその攻撃方法が、現在もそのまま踏襲されるという前提で組み立てられた記事である。米軍はその後、アフガニスタン戦争に続きイラク戦争を経験して、北朝鮮攻略の武器や戦術において長足の進歩を遂げていることが不問となっている。つまり、1994年当時と状況は異なっているのだ。

 

むろん、私も戦争はしないことが最善という立場である。その前に、外交交渉を重ね北朝鮮に対して核開発を断念させることが最優先される。しかし、外交交渉が行き詰まり、将来の地域安全保障に重大な影響を与える懸念があれば、必要最低限の軍事措置が許されると見る。

 

(4)「米中首脳会談では双方とも『北朝鮮の核・ミサイル開発が深刻な段階に達した』との認識を示し、『国連安保理の制裁決議の完全な履行』で一致したが、具体的な方策は決まらなかった。トランプ大統領は、『米国が独自の行動を取る可能性』を示唆し、その姿勢の表明として空母を派遣した、と見られる。だが、米国にとっても北朝鮮に対する攻撃は第2次朝鮮戦争に発展する公算が大で、米軍、韓国軍に多大の人的損害が出るのみならず、韓国と北朝鮮に致命的な災禍をもたらすから、空母派遣も北朝鮮と中国に向けた一種の政治的ジェスチャーに過ぎないだろう。ただし、威嚇が効果をあげない場合、トランプ大統領は振り上げた拳を振り下げざるをえない立場になる危険はある」。

 

北朝鮮の戦意を失わせるには、経済封鎖が前提になる。これを行わず即刻、開戦というのは余りにも無謀である。現在、進めている中国による経済制裁が着実な効果を上げることが前提である。中国からの原油供給の禁止措置の実行を見届けることだ。このほか、次の経済制裁が米政権によって検討されている。

 

「米当局者は4月12日、トランプ政権の北朝鮮戦略は経済制裁の強化を柱としており、石油禁輸措置や国営航空会社の運航制限、船舶貨物検査、北朝鮮と取引のある中国の銀行への制裁などが含まれる可能性があると明らかにした。ある当局者によると、トランプ大統領は対北朝鮮戦略の暫定的な枠組みを承認し、安全保障担当チームに国際的な新制裁措置の具体的な枠組みやその他の措置をまとめるよう指示した。この当局者は『貿易で北朝鮮を事実上、孤立させる選択肢まで、様々な措置が可能だ」と述べた(『ロイター』4月12日付)。

 

かつて日本が、太平洋戦争開戦前、ABCDラインの経済封鎖によって、くず鉄や石油の禁輸措置を受けた状況と同じだ。ちなみに、Aは米国、Bは英国、Cは中国、Dはオランダである。この4ヶ国が対日経済封鎖によって、日本の経済力の削減を狙った。この例で言えば、米国は今、巨額の対米貿易赤字をエサにして中国を釣っており、「釣果」は上々のようである。中国は、必ず米国の北朝鮮政策に協力するはずだ。この点は、ブログで縷々説明してきた。

 

(5)「だが当時、在韓米軍司令部では、『核施設を攻撃すれば北朝鮮は朝鮮戦争の停戦協定は破棄されたとして、戦争再開となる公算大』との見方が強かった。ソウル北方約40kmの停戦ライン(南北境界線)のすぐ北には、朝鮮半島を横断する全長約230km、奥行き約30kmの地下陣地が朝鮮戦争中、中国軍によって築かれ、米軍の猛攻撃に耐えた。北朝鮮軍はそこにトラックに乗せた22連装の240mmロケット砲(射程60km)や、170mm長距離砲(同40km)など、砲2500門を配備していると見られた。戦争が再発すれば、韓国の人口の3分の1以上が集中するソウル首都圏が『火の海になる』との北朝鮮の呼号はあながち虚勢でもなかった」。

 

2月13日のブログで、「韓国、『北の核脅威』米軍は先制攻撃態勢『F―35B』緊急追加」と題して、米軍の奇襲攻撃を取り上げた。それは、米国の最先端科学技術の粋を集めた近代兵器で、北朝鮮のレーダー網をかいくぐって作戦を完遂させる構図を紹介した。

 

米海軍では、すでにF-35Bが、数十にのぼる敵の対空網を突き抜ける訓練を実施済みとしている。F-35Bは大型空母を利用せず、強襲揚陸艦から発進できるメリットを生かせば、はるかに迅速な作戦が可能である。奇襲攻撃には、F-35Bが最も有効という結果が出ているのだ。

 

例えば、北朝鮮の長距離対空ミサイルSA-5のレーダーには、米空軍のステルス機能を持つF-35Bがゴルフボールほどの大きさでしか捕捉されないという。つまり、F-35Bは、SA-5のレーダー30キロ付近へ近づいてはじめて認知されるのだ。そこで、レーダーの探知範囲外で精密誘導弾を発射すれば、SA-5レーダーを簡単に爆撃・除去できる。これは、すべてステルス機能による効果だ。こうした米軍の作戦計画を見ると、北朝鮮の「一点豪華主義」の核やミサイル開発も、米軍のステルス戦闘機や強襲揚陸艦による小回りの効く戦闘で大きな打撃を受けそうな気配である。

 

(6)「核施設を攻撃するなら、その以前か同時にこの大要塞地帯を制圧する必要があり、大規模な地上戦となる。在韓米軍による損害見積もりは、『最初の90日間の死傷者は米軍5万2000、韓国軍49万、民間人の死者100万以上』と出た。この報告は航空攻撃だけを考えていたワシントンの政治家、高官らに冷水を浴びせた。クリントン政権は攻撃を諦め、カーター元大統領に訪朝し金日成主席と会談するよう要請した。この会談で北朝鮮は核兵器開発を凍結し、見返りに米国は軍用の高純度プルトニウムが抽出しにくい軽水炉を供与する、などの合意が成立、戦争の危機は回避された」。

 

1994年当時の米軍の武器体系と戦術に従えば、最初の90日間の死傷者は米軍5万2000、韓国軍49万、民間人の死者100万以上という途方もない被害が想定された。だが、先のパラグラフによる、米空軍のF-35Bは大型空母を利用せず、強襲揚陸艦から発進できるメリットを生かせば、はるかに敵陣深く接近して、迅速な作戦が可能である。

 

今回の作戦計画で想定される人的な損害が、1994年当時と大差ないとすれば、この作戦計画は当然、中止されるはずだ。それが、トランプ大統領まで作戦計画が上申されて承認されているとすれば、人的な損害予想ははるかに少なくなっているに違いない。そうでなければ、トランプ大統領は、米軍の最高司令官としての責任を追及されるはずだ。

 

米国が、「話し合いのための話し合いに応じない」と言うのは、過去の北朝鮮との交渉で「騙されて」きたからだ。「仏の顔も三度」である。もはや北朝鮮の時間稼ぎに付き合わされないと、決意を固めている。核放棄という実績で誠意を示せ、なのだ。

 

(7)「今日、『外科手術的攻撃』はその当時よりはるかに困難でリスクが大きい。原子炉や再処理施設は大型で空から丸見えだから航空攻撃で破壊するのは容易だったが、核弾頭はどこへでも隠せる。『核の弾薬庫はこのあたりにあるらしい』との情報もあるが詳細な位置は分からないし、本当かどうかも怪しいうえ、移動するのも簡単だ。相手の反撃能力も弾道ミサイルになって格段に高まった。これを先制攻撃で破壊しようとしても、移動式発射機に載せて山間部のトンネルに隠し、出て来るとミサイルを立てて発射するからどこにあるか分からない」。

 

北朝鮮がトンネルを利用して神出鬼没な行動に出ている。だが、このトンネル作戦には「有効弾」が登場している。「大規模爆風爆弾(MOAB)」である。2003年のイラク戦争の際、旧サダム・フセイン政権を打倒する作戦で実戦投入が検討されたという。投入前にフセイン政権は崩壊したが、米軍は戦闘期間中に同爆弾の使用の構えをメディアによって周知させていた。これが、イラク軍のえん戦気分を誘う意味で一定の効果をあげたと評価されたという。

 

トンネル作戦を粉砕

『日本経済新聞』(4月15日付)は、次のように報じた。

 

「米軍は今回、MOABの実戦使用の標的としてアフガンにあるISの地下トンネルを選んだ。通常の爆弾に比べ爆発力がケタ違いに大きいMOABは、地下施設の入り口付近で爆発すれば、衝撃波で地下にいる兵員を無力化できる。米軍が北東アジアで対峙する北朝鮮への威嚇と解釈できる。北朝鮮は国防方針の一つとして『すべての国土の要塞化』を掲げ、数十年にわたり軍用地下施設の建設を続けてきた。朝鮮半島有事になれば軍は地下施設に立てこもり徹底抗戦する構え。これに対し、米軍は今回、MOABを使う意思もあることを示し、北朝鮮軍の戦意をくじこうとした」。

 

北朝鮮の「すべての国土の要塞化」は、MOABによって無力化される。これは、革命的な兵器の登場であろう。北朝鮮は、ゲリラ方式で米国に打ち勝てると自信満々であったものが、ついに無駄になったとすれば、いかにして対抗するのだろうか。地上戦に持ち込まなくても、強襲揚陸艦で敵陣深く侵攻して、ステルス戦闘機で爆弾を投下すれば、所期の目的は達成されるのだ。

 

(8)「もし戦争になれば北朝鮮には最終的な勝ち目はないから、『死なばもろとも』の自暴自棄の心境となり、韓国の都市や米軍、韓国軍の基地だけでなく、横須賀、佐世保の両港や嘉手納、三沢、横田、岩国などの米軍飛行場に核ミサイルを発射する可能性は十分あるし、東京などを狙うかもしれない。仮に幸い日本が直接攻撃を免れたとしても、韓国から途方もない数の避難民が押し寄せることになろう。韓国への融資、投資は回収不能となり、その復興に巨額の寄与を迫られることになるだろう。日本では『米軍が北朝鮮を叩きつける』と期待し、それを快とする言動もあるが、戦争を現実的に考えない平和ボケのタカ派の発想だ」。

 

北朝鮮軍が自暴自棄にならないようにするには、短期決戦で戦いを進めるしかない。そこで投入されるのが、特殊部隊である。ウサマ・ビンラディンを射殺した米国の特殊部隊「チーム6」(Team Six、ネイビーシールズ6チーム)が韓国へ登場する。

 

『中央日報』(3月14日付)は、次のように報じた。

 

「ネイビーシールズ6チームの正式名称は米海軍特殊戦開発グループ(NSWDG)。短くデブグル(DevGru)と呼ばれている。航空機や潜水艦で敵地の後方に入り、要人暗殺、味方救出、敵施設破壊工作など任務を遂行する。この部隊は2011年5月2日(現地時間)、パキスタンのアボッターバードで潜伏中のウサマ・ビンラディンを射殺した『ネプチューンスピア』作戦を成功させて世界的に有名になった。当時、チーム6に死傷者はいなかった。1週間ほとんど睡眠を取らない『地獄の週(Hell Week)』の苦痛を乗り越えてこそネイビーシールズの隊員になることができる。チーム6はそのようなネイビーシールズの中でも精鋭だけを選んで構成された部隊だ」。

 

米海軍が最新鋭のステルス戦闘機を駆使しながら、一方では、極めて「人間臭い」作戦によって、要人暗殺、味方救出、敵施設破壊工作など任務を遂行する。日本政府はすでに、「拉致被害者」の救出を米政府に要請している。こうした荒々しいことをしないで解決することが理想である。人間の世界では時に、犠牲を払わなければ正義を実現できないこともある。哀しい話だ。

 

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(2017年4月28日)

 

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2017-04-27 05:00:00

中国、私物化「一帯一路会議」韓国招請せず「地域覇権」露骨

テーマ:ブログ

 

 

現代版シルクロード

払込資本金6.8%

 

習近平氏は、国際的イベントがことのほかお好きのようだ。

 

2015年、北京で第二次世界大戦終結の記念軍事パレードを「戦勝国」として盛大に開催した。これには多くの疑問が提示された。当時の中国政府は、中華民国である。中国共産党は、陝西省の延安の洞窟にこもっており、大規模な戦闘に参加していなかったのだ。それが、「主役」の顔で勝利の軍事パレードを開催した。歴史の改ざんである。

 

今回は5月に、「一帯一路」プロジェクトの国際会議を開催するという。ところが、目玉となる大国首脳が、いずれも欠席予定だ。G7(主要7ヶ国首脳会議)からは、イタリアのジェンティローニ首相が出席するだけ。主要国のトップをずらりと並べ、習近平氏の権威づけに利用しようとした思惑は完全に外れた。韓国には招請状も出さないという独善ぶりだ。

 

中国政府によると、首脳の出席はロシア、フィリピン、スペイン、ギリシャなどの28カ国になるという。このメンバーを見ると、中国から資金援助を受けたいような国々であることは明らかだ。経済的に豊かな国は、習近平氏の引き立て役にしかならない会議に出席する魅力がないのだろう。

 

「一帯一路」プロジェクトは、中国が自らの経済圏を拡大する目的でつくったものだ。開発プロジェクト資金の調達に困難を来している国家以外、「お付き合い」程度の軽い意味であろう。中国は、そんな相手国の事情を斟酌することなく、中国の国際的な地位向上の証として自慢しているものだ。G7の首脳が、イタリアを除けば出席するはずがないのだ。図らずも、中国の国際的な地位の低さを暴露する結果になった。

 

現代版シルクロード

『ブルームバーグ』(4月5日付)は、「現代版シルクロード、中国は西方への影響力拡大目指す」と題して、次のように報じた。

 

習近平氏は、「中華の夢」実現で邁進している。かつての世界帝国の威容を取り戻すには、シルクロードの再現が手っ取り早い路であるからだ。ここに、「一帯一路」プロジェクト構想(2014年11月)が打ち上げられた背景がある。この一大プロジェクトの資金面からのサポートとして、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立構想(2013年10月)が発表され、両者はペアとなっている。

 

ここで、気づいていただきたいのは2013~2014年が、中国の外貨準備高が急増していた時期である。中国の外貨準備高のピークは、2014年6月の3兆9932億ドルである。ほとんど4兆ドルに接近する状況で、中国政府が、「中華の夢」を大真面目に語っても不思議ではなかった。その後は、引き潮のように外貨準備高が減り続け、今年の1月末には3兆ドルを割る事態になっている。ここに、世界が中国を見る目が一変した。

 

現在(2月末)の外貨準備高は、3兆ドルをやや回復したものの、この外貨準備高には約1兆ドルの債務が入っている。これを相殺すれば、純粋の外貨準備高は2兆ドルに減っている。2014年頃のような「飛ぶ鳥を落とす勢い」はなくなった。むしろ、外貨準備高の減少に異様な神経を使い、資本規制を強化して資金流出に目を光らす状態である。「金の切れ目は縁の切れ目」であり、G7首脳が「一帯一路」プロジェクトの会議に出席するメリットがなくなっているのだ。

 

(1)「中国が目指している現代版シルクロードは、鉄道、港湾、パイプライン、ハイウエーのネットワークを通じてこうした交易路を復興させようというものだ。中国の習近平国家主席は、このプロジェクトに特に力を入れており、国内で過剰に生産された商品の新たな市場が確保できるほか、一帯の開発や友好、経済的統合が促されると意気揚々だ。一方、シルクロードやその影響を批判的に見る向きは、中国がその影響力をさらに西方へと拡大しようとする意図が見えると、これに警戒感を示している」。

 

習氏の腹積もりでは、国内の過剰生産物資のハケ口として、昔のシルクロードを思い出したのであろう。2014年頃の外貨準備は豊富であった。中国が資金面で手助けすれば、中国で過剰生産の鉄鋼、セメントなど建設資材が売れること。それをテコにして、中国の政治的な影響力を強められれば、米国に対抗する勢力圏が形成できる。そう安易に考えたのだ。この程度の策略はすぐに見破られる。西側諸国が、「一帯一路」プロジェクトに警戒するのは当然であろう。中国の動機が「不純」であるのだ。

 

(2)「習主席は、インフラ開発を通じて貿易促進を狙うという数百億ドル、あるいは数千億ドルにも達する規模の計画の概要を示している。計画の代表的なものはマレーシアタンザニアでの港湾開発、パキスタン、タジキスタンでのハイウエー整備などだ。その過程で中国は公益などのプロジェクトに投資するよう自国企業に働き掛けている。これらの野心的プロジェクトに資金を融資するため、中国政府は2014年に400億ドルを拠出して『シルクロード基金』を設立しており、すでにパキスタンでのダム事業、ロシアでの液化天然ガス事業に同基金から投資を行っている」。

 

中国は、自国経済力を過信している。中国GDPのうち、外国企業やその関連企業が35%近くを占めるからだ。同時に、雇用の4分の1以上が、外資系で占めるのだ。中国が、GDPで世界2位といっても、自らの力でなく外資の力を借りた結果である。このような実態を見れば、外資系企業が、中国から移転すれば途端に空洞化する脆弱な立場にある。

 

中国経済はいわば、他人の褌で相撲を取っている状況にある。最近は、賃金コストが大幅に上昇した結果、国際競争力は低下しているのだ。こういう客観的な事実を忘れて、米国経済を追い抜くなどと豪語したが、「中進国の罠」脱出すら困難な状態に追い込まれている。2013~2014年頃の中国経済と、今後のそれは180度もの違いが現れてくるはずである。中国はそのことに気づいていないが、他国は先刻、承知済みのことだ。「一帯一路」会議に、G7首脳が揃って出席する雰囲気でないのだ。

 

(3)「そのほか、中国が主導する資本金1000億ドルのアジアインフラ投資銀行(AIIB)などが資金面の支援を行う。AIIBは世界銀行の代替・補完を目指す機関だが、米国と日本は当初そのガバナンス基準を批判していた(世界銀行の規定に比べ社会・環境に対する影響への配慮が不十分など)。このシルクロード構想を通じて、中国は十分に活用されていない自国の生産能力や過剰に生産された鉄鋼や他の素材を有効活用することのみならず、世界での人民元の利用拡大を目指すことでも利益を得る見通しだ。これに参加する国はその経済的メリットと、支配力を強めるスーパーパワーの要求をてんびんにかけている」。

 

AIIBは、まさに「一帯一路」プロジェクト推進の金庫番のはずであった。AIIBが潤沢に資金を貸し付けて、「一帯一路」プロジェクトを盛り上げる算段だった。ところが、ここに大きな狂いが発生した。日米が、AIIBに加盟しないので、AIIBが発行する債券は、ジャンク債並みの低評価に陥っている。

 

中国は、日米の主導するADB(アジア開発銀行)や、世界銀行を向こうに回し、派手な開発金融を行う予定だった。それが、資金調達で躓いたのだ。そう言っては失礼だが、昨日や今日、世界経済に登場した中国が、国際金融市場において日米に匹敵する信用を得られるはずがない。自己過信が招いた大失策である。以後、中国政府はAIIBについて低姿勢に転じている。中国は、自らの国際的な低評価を知る羽目になった。

 

AIIBは、当初の思い入れとはかけ離れた地味な存在に落ち込んでいる。日米が出資しないAIIBは、「気の抜けたビール」みたいな存在だ。AIIB債券を発行しても担保となる日米の後ろ盾を欠いたのでは、中国流の表現を使えば「紙くず」である。

 

払込資本金は6.8%

『朝鮮日報』(3月24日付)は、「中国主導AIIB、払込資本金は6.8%止まり」と題して、次のよう伝えた。

 

この記事では、AIIBが笛や太鼓の騒ぎで設立された割には、拍子抜けするほど慎重な足取りである。払込資本金が68億ドル(6.8%)である点を見ると、設立時の参加国は50ヶ国でも、いざ出資となると二の足を踏んでいる様子がよく分かる。

 

中国は、AIIB設立に当たって、管理組織の簡素化を図った。理事は北京の本部へ常駐しないなど、金融機関とした考えられない突飛な組織を作った。これは、中国の意志次第で貸付を迅速に決定するという、およそ金融機関にはあるまじきことを考えていたのだ。これは明らかにAIIBを利用して、中国企業に便益を図ろうという魂胆であった。それが、世界銀行やADBの助言を入れて、ノーマルな金融機関に落ちついたものだ。

 

管理組織が手薄であることは覆いがたい。2月末現在で職員は85人で、今年末までに154人まで増員する計画だという。だが、中国の大気汚染を懸念して誘いを断る外国人も多い。ADBは職員が約3千人いるが、AIIBはまだ90人にも達していないのだ。日本人の幹部職員はゼロだという。前途は多難だ。

 

(4)「中国主導で昨年1月に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は徐々に規模を拡大している。AIIBが推進する事業は大型化し、組織規模も今年末までに2倍程度に拡大する予定だ。AIIBの授権資本金(資本金上限)は1000億ドルだが、実際に払い込まれた資本金は68億ドル(昨年12月現在)にすぎない。つまり、6.8%にとどまるなど、まだ道のりは遠いとの評価も聞かれる」。

 

次のパラグラフで取り上げているが、貸出規模は少額であり、世銀やADBとの協調融資に止まっている。当初の意気込みとはほど遠い。銀行スタッフが少ないだけに、貸出審査に時間がかかるのでやむを得ないのだ。中国政府は、AIIBを通して、国際金融のノウハウを習得している面もあろう。

 

(5)「AIIBは昨年6月、4件の大型事業を承認し、実質的に機能し始めた。初の事業はタジキスタンの首都ドゥシャンベとウズベキスタン国境を結ぶ道路の改善事業で2750万ドル(約30億5000万円)の融資を承認した。その後、バングラデシュ・ダッカ地域の電力供給改善・拡張事業(1億6500万ドル)、インドネシアの都心スラム環境改善事業(2億1650万ドル)、パキスタンのショーコットとカネワールを結ぶ全長64キロメートル、4車線の高速道路建設(1億ドル)などの事業が続いた。12月にはオマーン東岸のドゥクム港湾開発事業に2億8000万ドルの資金を供給することを決め、融資規模は当初の10倍に膨らんだ」。

 

ここに上げられている貸出プロジェクト総額は、7億8900万ドルになる。だが、最終的には初年度融資額が、17億3000万ドル(約1980億円)になった。うち、6件が世界銀行などとの協調融資で単独融資は3件だけだ。初年度12億ドルの目標は上回った。初年度の貸出件数は合計9件だが、うち単独融資は3分の1にすぎない。貸出ノウハウを学んでいる過程と言える。率直に言って、この程度のレベルで世銀やADBを向こうに回す融資は不可能であろう。AIIB債券の格付けがジャンク債並みの高利となると、融資規模を増やしたくてもできない相談だ。

 

中国は、「一帯一路」プロジェクトで壮大な夢を描き、地域覇権を確立する政治的な意思を固めている。それを金融的に実現するAIIBの実力は、開業当初とは言え、既存の世銀やADBの足元にも及ばない存在である。このギャップについて、中国は気づいているだろうか。

 

要するに、中国の地域覇権への策略が非現実的である一方、具体的な手段の金融面でも力不足という脆弱性を抱えている。今は、地域覇権という夢だけが先行し、これに伴い軍事的な暴走を許している。この暴走が招く軍事面の破綻が、中国の国運衰退の原因になりうる懸念を抱えている。中国にとって、軍拡は国威発揚の手段でなく、国運衰退の引き金になる。

 

中国政府は、5月に開催する「一帯一路」首脳会議に約60カ国の首脳・閣僚級を招請したが、関連国のうち韓国を招請しなかった。韓国のAIIBへの出資比率は3.81%で、創設時の加盟57カ国で中国、インド、ロシア、ドイツに次ぐ5位である。その韓国が、中国の反対する「THAAD」(超高高度ミサイル網)を設置することへの報復が理由で招請されなかった。こういう中国の感情的な振る舞いを見ると、「一帯一路」プロジェクトの性格が、中国の地域覇権確立を最大目標にしていることが分かる。

 

『中央日報』(3月8日付)は、コラムで「『中国中心』の地域覇権主義ますます激しくなる」と題して、次のように指摘している。筆者は、司空壹(サゴン・イル)/中央日報顧問・元財務部長官である。

 

(6)「中国が経済的・軍事的にその力が大きくなるにつれ、この地域内での中国質(より強い立場を利用して相手に不利益を与える行為)はより一層強まっていくだろう。このような中国中心の地域秩序維持に向けて、中国は経済的な力をテコとして活用するようになるとの点は、専門家の間ではすでに予想されていたことだ。現在、推進中の一帯一路プロジェクトやアジアインフラ投資銀行(AIIB)創設も、中国が『現金と社会間接資本投資を通したネットワーク形成』を通じて周辺国の中国依存度を高めようとする側面があることを強調する専門家もいる」。 

 

ここで示されている見解は、私もかねてからこのブログで指摘してきた点でもある。中国は建前と本音は全く異なっている。口では、大変に立派なことを言うが、裏に回ると姑息なことを平気で行う民族である。韓国は、AIIB出資比率で第5位である。その韓国を今回の「一帯一路」国際会議に招請しないとは、中国がAIIBを「私物化」している証拠である。こういう中国の低俗な意識を見ると、極めて遅れた国家といわざるを得ない。

 

この中国が、AIIBによって「現金と社会間接資本投資を通したネットワーク形成」を行い、周辺国への覇権を確立しようとしているのだ。この事実に対して、日米は今後ともAIIBから遠ざかって、AIIB債券の格付けを上げることを阻止すべきであろう。目先の経済的な利益に惑わされてはならない。

 

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(2017年4月27日付)

 

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