中国、「朝令暮改」不動産業のデフォルト恐れ「住宅規制緩和」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「朝令暮改」不動産業のデフォルト恐れ「住宅規制緩和」

 

 

やはり不動産頼みの経済

北京大の誇大予想に驚き

 

 

中国の経済政策は、正論を吐いても言いっ放しに終わるケースが多い。昨年10月、19回党大会の3時間半に及ぶ習氏の大演説で、「量的経済から質的経済」を目指すと宣言した。この発言を額面通り受け取れば、誰でもこれまでの借金による経済成長から、「脱債務」の堅実な経済に移行するものと受け取るはずだ。

 

この期待は、裏切られたようである。不動産バブル抑制による「住宅販売規制」が、蘭州市と南京市で一部緩和に踏み切っているからだ。これをきっかけに、北京市や上海市を除いて、中国全土に「住宅販売規制」緩和が始まるとの観測が強まっている。

 

今年の世界経済リスクでは、中国の信用危機問題が大きくクローズアップされている。私のブログ(1月10日)は、「中国、『迷走』安定成長目指すも金融逼迫で『不動産デフォルト』」を取り上げた。中国の金融市場は、表面的に見れば政策金利が据え置かれ落ち着いている。だが、銀行間取引の短期金融市場の金利はじり高だ。この影響を受けて、債券流通利回りが上昇している。これは同時に、新規発行債券の利率を引上げており、信用力の低い不動産企業の借り換え債発行が困難になっている。この結果、18年は大量の債券デフォルトが予想される。

 

こうした緊急事態を受けて、中国政府は不動産業のデフォルトを回避するには、住宅販売規制を解除するのが最善という判断に至ったのであろう。「質的成長」という正常な経済運営は所詮、中国では不可能である。市場経済原則に従わず、「社会主義市場経済」という「まがい物」の経済運営が一番似合うのだ。天下の王道である市場経済には馴染まない。そのことを、今回の朝令暮改の政策が物語っている。これは、中国経済が大きな瑕疵をはらんだまま進むという悲劇的な要因を抱えていることを示唆する。

 

やはり不動産頼みの経済

『大紀元』(1月8日付)は、「南京市など不動産抑制策を一部撤廃、全国で初」と」題する記事を掲載した。

 

この記事では、中国政府の住宅販売規制がもともと一時的な措置であったことを示唆して

いる。景気の実態が悪化すれば即、住宅販売規制を解除して景気を下支えする。これが、中央政府と地方政府の暗黙の了解事項であった、というのだ。最後のパラグラフで指摘するように、今年初めの住宅販売規制緩和は昨年7月の時点で予測されていたという。こうなると、中国経済が住宅販売のサイクルに振り回されているわけだ。極めて、原始的な経済サイクルと言うほかない。この「魔法の杖」は、いつまでも使えるはずがない。必ず、破綻の時期はくる。その時期は目前であろう。

 

(1)「中国蘭州市と南京市は年明けに、不動産抑制措置の一部撤廃と見直しを発表した。16年9月から全国で新たな不動産抑制政策実施以来である。甘粛省蘭州市政府と江蘇省南京市はこのほど、市内の一部の地区で住宅購入制限の解禁や他の省市出身者に一定の住宅購入資格を付与する方針を示した。この動きが全国的に広がるかどうか、注目されている。各地方政府は、不動産価格の高騰を抑制する目的で、2016年9月末から購入制限や売却制限など厳格な措置を打ち出してきた。蘭州市と南京市が全国で初めて、抑制措置の調整に入った。不動産産業は中国経済の主要エンジンだ。抑制措置の影響で、景気が一段と減速した可能性が示された」

 

蘭州市と南京市が16年9月、全国で始まった不動産抑制実施から15ヶ月ぶりに、住宅販売規制撤廃の第1号になった。不動産開発事業しか産業のない地域では、住宅の売れ行きが落ちれば、まず地方政府の税収減として跳ね返ってくる。不動産開発が頓挫すれば、土地の新規払い下げ需要も落ちるので、地方政府が最初に音を上げるシステムになっている。

 

このカラクリは、中国が土地国有制に由来する。民間は土地利用権を認められるが、土地所有権は国家にある。地方政府は、この土地利用権の売却益を地方政府の財源にしている。平均して3~4割が土地利用権売却益である。このことは、土地を担保にして通貨を発行していることに近い。この土地担保による通貨発行は、すでに邪道という烙印が押されている「曰く付き」のものである。

 

英国のイングランド銀行が中央銀行に昇格(1844年)する際、土地を担保とする「土地銀行」による通貨発行が議論された。だが、土地の価格は変動して安定しないことを理由に不採用になった。代って、商業手形の再割引による通貨発行案を採用し、これがその後の世界における「中央銀行の鉄則」となり堅持されてきた。

 

中国は、土地を担保とする変則的な通貨発行に近い形で、地方財政を賄っている。極めて異常であり、中国経済が不動産バブルと密接不可分になっている理由である。住宅販売規制を敷くと、地方政府の財源に穴が開くとは信じがたいことだ。中国経済は、改めて不動産バブルと深い関係にあることが理解できるであろう。

 

(2)「国内メディアの報道によると、蘭州市不動産管理当局は1月5日、市内西固区、九州開発区と高坪地区の住宅購入制限措置を撤廃すると通達した。国内専門家は、蘭州市内で新規住宅の在庫が急速に増え、供給が需要を上回ったことが主因だとの見方を示した。一方、南京市政府は1月4日、国内外に向けて新たに優秀な人材の確保政策を発表した。大学院生以上の高学歴者や40歳以下の大学卒業者などに対して、「まず定住させてから就職」との方針を打ち出し、国内外の人材に住宅購入の資格を与えることにした」

 

蘭州市も南京市も、住宅規制緩和についてもっともな理屈をつけている。だが、ここでは語られていない事実として地方財政の悪化があるはずだ。中国31の地方政府のうち、地方財政が黒字であるのは、沿海部の7地方政府と言われる。他の24地方政府は全て赤字だ。よって、蘭州市の財政が赤字であることは十分に予想できる。南京市は沿海部であるから、財政的なゆとりはまだあるのだろう。だから、若者の定住促進を住宅規制緩和の理由に挙げている。

 

(3)「国内メディアによると、業界関係者は、上海や北京などを除く一部の地方政府が住宅購入制限措置を順次緩和し、不動産抑制策を見直す動きが全国に広がるとの見方を示した。不動産市場に関して大胆な発言をしてきた元企業家の任志強氏は、昨年7月21日、今後不動産抑制策の緩和条件として、『不動産市場が非常に速いペースで低迷すること』と『実体経済に大きな変化が現れること』を指摘した。また、『経済悪化の兆候が現れれば、当局がすぐ不動産抑制策の調整に踏み切るだろう』と述べていた。任氏は当時、16年から始まった今回の抑制措置は1年半続き、17年末または18年初めに終了すると予測した」

 

(4)「インターネット上では、蘭州市らの措置撤廃に関して、中国経済への悲観的な見方や当局の政策批判が集中した。『2018年は、北京と上海を除いて、他(の地方経済)は全滅だ』『景気が本当に悪くなったようだ。地方政府が一番焦っている』『朝令暮改だ。公信力が低い』『市民の住宅購入を解禁しても、まだ売却は認めていない。結局、地方政府・不動産企業・銀行を救済するための措置撤廃だ』などの書き込みが目立つ」

 

インターネット上では、今回の住宅規制緩和について、批判的な見方が強い。庶民にとっては高値の華である注宅価格が、もっと下がってほしいというのが率直な感想だろう。ところが、住宅価格が下がりそうな気配を見せただけで、地方政府は住宅取得緩和策に出る。国民そっちのけで地方政府の財源確保だけを睨んでいるのだ。

 

中国の経済運営の問題点は、すでに指摘したように土地と密接に結びついている点にある。中国のGDPが、インフラ投資によって支えられている裏には、絶えず地価を押上げなければ経済が保たないという悲劇的な要因が潜んでいる。それを証明するような今後の経済見通しが出てきた。

 

北京大の誇大予想に驚き

『人民網』(1月8日付)は、「中国、2023年に中所得国の罠を超越」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、北京大学中国国民経済計算・経済成長研究センターがまとめた報告書『中国経済成長報告2017年:新常態の下での成長の原動力およびその転換』を要約したものだ。北京大学と言えば、中国を代表する大学の一つである。学問の府であるから、冷静な分析と思いきや、プロパガンダの一種である。そう言えば、北京大学には中国経済見通しで超強気の林毅夫教授が在籍していた。林氏は数年前、「今後20年、インフラ投資によって8%成長が続く」と宣った人物だ。私は、再三にわたり猛批判したが、その林氏の影響を100%受けた非現実的な予測が登場した。学問的な良心とはかけ離れた「政治迎合」の報告書である。

 

(5)「中国経済の発展は今後も中長期的には大きな可能性と潜在力を有し、2023年前後に『中所得国の罠』を超越する可能性があるという。同報告書は、『ここ数年、中国経済は成長ペース”ギアチェンジ”という新常態(ニューノーマル)に突入したが、”ギアチェンジ”は”ペースダウン”ではない』と指摘した。供給からみると、中国では人口数に基づくメリットが弱まっているが、人口の質に基づくメリットが徐々に形成され、蓄積されている。需要からみると、中国の都市化建設と中部・西部の発展が内需の潜在力を掘り起こす重要な努力ポイントになっている」

 

中国経済が、「新常態(ニューノーマル)に突入」した背景について、中国政府は合理的な説明をせずに情緒的なものに終わった。だから、ここでも「ギアチェンジ」とか意味不明な言葉で濁している。「新常態」について、経済的な用語で説明すれば、次のようになる。

 

総人口に占める生産年齢人口比率が、ボトムからピークに至る「人口ボーナス期」を過ぎて、ピークから下降に向かう「人口オーナス期」に入ったという人口動態的な構造変化である。ここでは、日本経済がそうであったように、「人口オーナス期」入りすると、潜在成長率が低下してゆく。これを生産性の向上でカバーできれば良いが、それほど好都合にことは進まないのだ。経済成長率が、右肩下がりに傾くことは不可避である。

 

中国の生産性向上は期待薄である。国民の74%が、中学卒以下の学力であるからだ。農村部へゆくと満足に義務教育を終えていない人々がゴロゴロしており、農民工として肉体労働に就く以外に適職がない。この状態では、生産性向上は絵に描いた餅である。北京大学の最高頭脳を以てしても、このギャプの存在はいかんともし難いのだ。現実の厳しさを追認すれば、「中所得国の罠」脱出が容易でないことは理解できよう。

 

(6)「同報告書は全体として、『改革が引き続き推進され、社会全体が安定する状況の中、未来の中国経済は引き続き中高速成長を維持する』との見方を示した。同報告書の予測では、17~21年の5年間、中国経済の平均成長率は約6.5%になる23年前後に、一人あたり平均GDPは1万2500ドル(約141万4625円)の国際的ラインを超え、『中所得国の罠」』を超越する。29年前後には、GDPの規模で米国を抜き、世界一のエコノミーになる。49年には、グローバル経済に占めるシェアが約26.9%に増加し、過去のピーク値に迫るという」

 

習政権は、「経済改革」の掛け声をかけているが、まだ何の成果も上がっていない。過剰債務の縮減は言うだけで、実態は増えつつある。過剰設備の廃棄も遅れている。過剰債務=過剰設備=過剰生産という「3つの過剰」が解決に向かっているのか。胸を張って、「イエス」と言えるのか。環境面からようやく過剰設備の廃棄が始まっているが、国有企業は無傷だ。過半が、中小零細企業を強制的に操業停止へ追い込み、補償金も払わずに泣き寝入りさせているのが実態だ。これは、「改革」とは呼ばない。弾圧というのだ。

 

中国経済が、「人口オーナス期」に入っている以上、経済成長率は低下傾向にあるのが普通だ。それが逆に、上向いているのは不自然である。債務依存による、強引なインフラ投資を続行している結果である。短期的には、インフラ投資によってGDPを押上げても、後には債務を返済できずに雪だるま状に増え続けていく。これは、健全な経済運営でないのだ。北京大学は、これが正しい経済政策であると学生に教えているのか。

 

債務に依存しない経済成長は、IMF(国際通貨基金)によると12~16年で平均5.5%である。これが、債務という「下駄」を履かない正常値の成長率である。こういう事態を隠して、17~21年の5年間さらに6,5%へ強引に押上げれば、23年前後に一人あたり平均GDPは1万2500ドルになるというのだ。このように算盤を弾いているが、何と無益なことであるのか。この間の債務増加を全く計算に入れていないのだ。こんな計算をしていたのでは、北京大学の看板に傷がつくだろう。

 

「中所得国の罠」とは、1人あたり名目GDPが1万ドル前後で停滞する現象を指している。ここで、多くの発展途上国が苦杯を喫してきた。中国も同じ運命に沈むだろう。その理由は、次の点にある。

 

6.5%成長目標自体が、12~16年レベルで1%ポイントの「お化粧」をした結果である。その化粧をさらに塗りたくって「厚化粧」にし、17~21年も続ければ中国経済を死に至らしめるはずだ。北京大学は学問の府にありながら、過剰債務が信用危機をもたらす元凶であることを知らないのだろうか。いや、そんなはずはない。知り抜いていても、その危険性を指摘できないところに、専制国家の凄まじい弾圧の大きさを感じる。習氏は、自らの欲望達成のためこれだけ罪深いことをやっているのだ。

 

2029年前後に、中国のGDPは米国を抜き、世界一のエコノミーになると胸を張っている。ここでも空しい皮算用を弾いている。この仮説には二つの前提があるはずだ。

① 中国は29年まで年6.5%成長を続ける

② 米国は同じく2.5%成長に止まる。

 

この前提に立てば、確かに2029年に中国と米国がGDPで交点を結び、中国が抜き去る構図である。だが、日本経済研究センターの予測では、中国は2030年までに2.8%成長にダウンする。理由は、「人口オーナス期」の右下がりの減退カーブがより鮮明になることだ。一方の米国は、生産年齢人口が増え続ける。これだけ見ても、勝負はついている。中国の負けだ。2030年には、米中の経済成長率は逆転しているだろう。いくら、中国が「大言壮語」の国とは言え、北京大学はメンツにおかけても、今少し地に足のついた予測をすべきだろう。

 

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(2018年1月15日)

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