中国、アジア経済圏の盟主狙うが多難「世界の工場」沈下近い | 勝又壽良の経済時評

中国、アジア経済圏の盟主狙うが多難「世界の工場」沈下近い

 

 

あり得ないTPP参加

世界の工場の地位失う

 

中国政府の一貫した姿勢は、覇権国家である。かつての中華帝国へ回帰することだ。当時と現在では、世界情勢が大きく変わり産業構造も高度化したが、そのような客観的な状況変化に一切無関係で、過去の夢を追っている不思議な存在である。現実離れしているだけに、足元は不確かでふらついている。この基盤脆弱な国が、覇権国家になれるはずがない。

 

この超大国への夢が、中国経済の道を誤らせた。不動産バブルという「土地錬金術」に魅せられ深追いした結果が、現在の膨大な債務を積み上げ、時限爆弾を背負い込んだ形になっている。解決策は、国有企業の債務棚上げ策だけだ。金利減免と元利返済時期の繰り延べ措置である。急性疾患が慢性疾患に変わるようなもの。問題解決の最終時期をただ先へ繰り延べるにすぎない。

 

中国は、日米主導のTPP(環太平洋経済連携協定)が、米国の脱落によって宙づり状態になったのを好機と捉えている。TPPはもともと、中国が参加不可能な前提で、協定条項を質的に高めている。そのTPPが、発効できない状態に陥っていることで、中国はTPPに代わるべく、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の結成を急ぎたいとしている。

 

最近、米国を除いたTPP参加予定国11ヶ国が参加したチリの会議で、中国にTPP参加を求め米国抜きのTPP再編案が、一部の国(ペルー)から言われ始めた。だが、TPPの現行条項では、中国参加は不可能である。国有企業中心の中国経済が、国有企業のウエイトをできるだけ低くするTPPに参加できるはずがない。仮に中国が、TPPに加入できる所まで参加条件を緩くしてしまったら、もはやTPPの精神とかけ離れた代物に変質するのだ。

 

日本としては、そんな変質したTPPに何ら魅力があるわけでない。中国加入のTPPは、RCEP同様の質的に低い多角的な貿易協定になる。TPPはモノにかかる関税撤廃だけでなく、知的財産権の保護、電子商取引、環境、労働などの新たなルールも定めている。いわば、今後の世界貿易のモデルになる多角的な貿易協定である。この高い理想は、中国をTPPに参加させるために投げすてて、RCEP並みの関税撤廃だけの協定に堕してはならないであろう。

 

あり得ないTPP参加

中国は、TPP中国参加論について次のように言っている。

 

『人民網』(3月16日付)は、「TPP参加要請には冷静に対応」と題して、次のように伝えた。

 

この記事では、TPPが中国を標的にした敵対的な内容を持つ、多角的な貿易協定と断定している。そのような危険なTPPに、中国は参加しないと言っている。この点で、TPPの性格を正しく分析している。TPP参加期待論は、米国が抜けた後のTPPにおける役割を中国に託す、とも解釈しているのだ。

 

ここまでくると、誇大妄想と言わざるを得ない。RCEPの盟主を狙う程度の中国が、数段も質の高いTPPで盟主など務まるはずがない。少年野球が、大学野球に加わるような話なのだ。中国の経済組織は、これほど遅れたものである。それが、世界覇権へ挑むなどと言い出すから気味悪く思われているのだ。中国は、甲羅に似せた穴を掘って、満足すべき立場にある。

 

(1)「最近、中国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を話題とする人々が少なくない。今月14日と15日、TPP署名国や中国と韓国の代表らによる2日間の『ハイレベル対話』がチリのビニャデルマルで行われた。中国は、中南米事務特別代表の殷恒民大使が率いる訪問団を同会議に派遣しており、チリのほか、ほとんどの参加国がTPPメンバー国であるため、中国の参加はTPP参加の意向を示すシグナルではないかと見られている。北京日報が報じた」。

 

TPPへの中国参加論は、ペルーが言っているだけの話だ。このパラグラフでは大袈裟に報じているが、中国の現在の総合能力では、TPP参加は不可能である。強いて言えば、中国で共産党政権が続く限り、TPP参加はできまい。国有企業優遇という政治体制(共産党独裁)が消えなければ、現実味のない話である。

 

(2)「中国の参加が大いに歓迎されたのは、米国が離脱し、リーダー格を失ったTPPメンバーの強い焦りを反映している。しかし、中国が招きに応じて同会議に参加したことと、中国がTPPに参加することは、全くの別問題だ。TPPの協定は既に合意されている。それをそのまま受け入れるのか、それともその内容を協議し直し、中国を考慮に入れた協定を作成するのかなどのハードルを考えると、どのような方法を選択する場合でも、短期的に中国がTPPに参加することは現実的ではない。今回中国を招いたのはTPPメンバー国の便宜上の措置と言えるだろう」。

 

繰り返すが、TPPメンバーの総意で中国を会議に招いたのではない。チリ政府が行っただけのことだ。その辺を誇大に取り上げ、さも中国の存在がいかに大きいかを宣伝している。転んでもただで起きない、中国政府らしい振る舞いである。

 

中国が、TPPに参加できるように敷居を低くすることには、まず日本が反対するだろう。それならば、RCEPの合意を急いだ方が得策である。少年野球チームは一つあれば足りる。TPPまで、少年野球チームのレベルへ引き下げる必要性がないのだ。

 

(3)「今の米国は、アンチグローバル化の代名詞となっており、保護貿易主義路線を歩み、これまでになく孤立した主義を取るようになっている。この点から見て、一部の国が中国を新たな希望と見なしているのは、中国に発展の実力とポテンシャルがあるからだけではなく、中国が自分の力で発展を遂げると同時に、世界と協力しウィンウィンの平和な発展の道を追求しており、他の国と共に物事を行い、共に発展し、共に繁栄しようという堅い信念を抱いているからだ」。

 

いやー、このパラグラフは中国の「自画自賛」オンパレードである。米国は保護主義国。中国は、自由貿易国だと憶面もなく言いきる当たり、なかなかの役者だ。中韓自由貿易協定の精神を一方的に踏みにじって、韓国に差別的な貿易を行っている。在中の外資系企業も差別し、中国企業を露骨に保護している。この中国が、よくぞここまで「ウソ」発言できると感心(?)するのだ。言行不一致。これが偽らざる中国政府の姿である。

 

また、「世界と協力しウィンウィンの平和な発展の道を追求しており、他の国と共に物事を行い、共に発展し、共に繁栄しようという堅い信念を抱いている」とも言っている。ならば、為替面で、資本移動の自由を極端に制限し、管理型変動相場制というグローバル経済に不都合な、自国本位の政策を行っている理由を説明出来るだろうか。このどこに、「世界と協力しウィンウィン」の関係を求めていると言えるのか。あるのは、世界覇権への野望である。そのためには、あらゆる制度を悪用する。中国政府のずる賢さが透けて見えるのだ。

 

(4)「TPPについて米国は、『役に立たない』と判断して捨てたのであり、それは罠となる可能性がある。米国の盟友らが、参加するよう熱烈に中国を誘うということは、何かたくらみがあるという強い疑いをぬぐいきれない。オバマ前大統領政権の『アジア太平洋回帰』政策の重要な部分を担っていたTPPには、保護主義の血と覇権主義の遺伝子が詰まっている。多くの規則は、中国を考慮に入れて制定されている」。

 

TPPの中で、米国の盟友と言えば、日本と豪州であろう。この両国とも、中国をTPPへ参加させるべく「熱烈歓迎」をしたわけでない。少年野球のメンバーを入れても試合ができないからだ。このパラグラフで正確に把握しているように、TPPは中国排除の目的で意図されている。「多くの規則は、中国を考慮に入れて制定されている」ものだ。日本と豪州という米国の盟友が、このTPPへ中国を招くはずがない。

 

(5)「中国の参加を促す声には、期待や称賛はほとんど含まれておらず、むしろ多くのたくらみが含まれている。中国の力を重視し、信頼し、借りたい一方で、たくらみが潜んでいるのではないかという複雑な空気が、依然として一部の国、特に米国の盟友には蔓延している。中国は、高度な戦略を定めなければ、これほど複雑で微妙な局面にうまく対応することはできないだろう」。

 

中国は、あらゆる国に利用されるという「被害者意識」を持っている。中国はもともと、他国を利用しても、利用されることなどあり得ない国である。それほど、中国は「悪賢い」国である。先進国が中国へ工場進出すると必ず、「技術公開」を求められる。技術は知的財産である。中国は、それをただで獲得しようという「不埒千万」な国である。2000年前の秦の始皇帝が、現世に現れたような傲慢な振る舞いをしている。驚くほかない。とても、21世紀型の先進モデルのTPPに参加させられる国ではない。

 

世界の工場の地位失う

中国は、RCEPを足がかりにしてアジアの覇権国を狙っている。これは夢に終わるだろう。私がブログで取り上げているように、中国の労働コスト(賃金と生産性の関係)は米国並みになっている。日本よりも30%も割高だ。5年以内に「世界の工場」の位置をインド・インドネシア・タイ・マレーシア・ベトナムに奪われる。これは、世界最大の会計事務所の現地調査で判明した。

 

中国では無軌道にも、生産性の上昇を無視した最低賃金引き上げを行ってきた。この結果、大幅な労働コストの上昇を招いている。競争力の低下をもたらし、世界の工場と言われた中国の地位は、前記5ヶ国へ奪われるのだ。この段階でRCEPが動き出しても、中国には後の祭りである。

 

『人民網』が自画自賛するように、中国はもはや経済発展の大きな余力があるわけでない。それを忘れて、周辺国への軍事威嚇に余念がない。こうした事態が何を生むかである。自衛のためには、TPPのような「脱中国」という経済と安保の両面の経済圏が不可欠なのだ。

 

私は、TPPこそ理想的な経済安保圏であると見る。現在、米トランプ大統領は、近視眼的政策でTPPを離脱したが、保護貿易が所期の効果を上げず、改めてTPPの必要性に気づくであろう。その意味で、米国抜きでもTPPを発効させるべきだと思う。

 

1月5日のブログで、日本は米国抜きのTPP発効に向けて動き出すべきだと主張した。

その部分を再録したい。

 

『ロイター』(2016年12月22日付)は、「米国抜きの新TPPに日本の活路」と題して、山下一仁氏がその実現性を提案している。

 

(6)「トランプ氏が米大統領でいる間は、米国のTPP参加はないものとして、日本は通商戦略を再構築する必要がある。とはいえ、私は、TPPがダメだから、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に軸足を移すべきだとの考えには賛同できない。むしろ、その逆だ。米国抜きの新TPPを進めることを、日本の通商戦略の根幹に据えるべきだと考えている」。

 

日本の通商戦略の基本にTPPを置くべきだとしている。これは、現在の多国間貿易協定のなかで、TPPが最も高度の内容を持っているからだ。RCEPはその意味で、自由化率も低い点で遅れており、TPPに優る内容ではない。日本の国会では、米国がTPPから離脱するのだから審議を無意味とした反対論が述べられた。それは、日本の貿易戦略を弁えない、無責任な意見と言うべきだろう。

 

(7)「(脱米国でも)TPPを促進すべき理由は2つある。1つはその規模だ。米国が離脱しても、TPPにはカナダ、オーストラリア、メキシコなど比較的大きな国が多数参加している。しかも、フィリピン、インドネシア、台湾など、他にも多くの国や地域が参加の意向を示している。個々の国・地域と結んできた通商協定よりも大きなスケールメリットを追求できる」。

 

脱米国でもTPPを推進すべき理由の一つは、米国を除く参加11ヶ国や、これまで参加したいと意志表示してきた国のGDPの規模が大きく、自由貿易のメリットが十分に期待できることである。

 

(8)「もう1つの理由は、TPPが既存のいかなる多国間通商協定よりも高いレベルの内容であるということだ。関税撤廃やサービス貿易拡大など自由化の取り組みは、世界貿易機関(WTO)以上に進んでいる。また、投資、貿易と環境、貿易と労働などWTOがこれまで網羅してこなかった分野についても、新たなルール作りに踏み込んでいる。さらに、将来の中国加入をにらんで、国有企業のあり方についても細かく定めた」。

 

脱米国でもTPP推進理由の二つ目は、TPPの協定内容が高いレベルの内容であることだ。関税撤廃やサービス貿易拡大など自由化の取り組みのほか、これまでWTOが網羅してこなかった投資、貿易と環境、貿易と労働などのルールが含まれている。これは、TPP参加国の経済体質を高度化させるもので、他の自由貿易協定には存在しない項目である。こうなると、中国は将来もTPP加盟が困難であることが分かるはずだ。

 

(9)「これらはいずれも中国主導のRCEPでは、実現不可能な内容だ。例えば、TPPでは、労働者に労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を法的に保障することが参加国に義務付けられているが、現在の中国政府には到底受け入れられる項目ではないだろう。また、RCEP交渉には、高関税国のインドも入っており、関税引き下げはほとんど進まない可能性が高い。TPPの空白をRCEPが埋められるとは、いずれのTPP交渉参加国も考えていないのではないだろうか」。

 

RCEPは、関税率引き下げが目的である。それですら、インドのように引き下げ困難な国までが、RCEPで参加交渉をしている。前途は、多難である。前記のようなTPPの内容に比べて、RCEPが低級な内容であること明らか。TPPという高度の多国間貿易協定を議決した日本にとって、RCEPの魅力は著しく劣っているのだ。

 

(10)「米国はTPPから抜けるのだから、同国の利益を反映した条項の修正・削除も行われることになろう。日本の場合、米国に認めた7万トンのコメ特別輸入枠の削除などが可能になる。農産物関税の削減・撤廃規定が米国に適用されることもない。さらに、ISDS(投資家と国家間の紛争解決)手続き条項や新薬のデータ保護期間、食品の安全などに関する米国主導で決まった他の規定も大きく見直されるだろう。TPP反対派の米国脅威論は論拠を失うことになる」。

 

米国がTPPから抜ける以上、米国がTPPで強く主張した項目を外せば良い。日本は、米国へ7万トンのコメ特別輸入枠を認めたので、この分を削除する。また、ISDS(投資家と国家間の紛争解決)手続き条項や新薬のデータ保護期間、食品の安全などに関する米国主導で決まった他の規定も大きく見直されるだろう。要するに、米国が他国に強く要請した項目はすべて見直し対象にすれば、TPP11ヶ国の結束力が高まるし、新たにTPPへ参加したい国々を増やす効果も期待できるのだ。こう見ると、米国がTPP不参加を決めても悲観することはない。次善の策を立てることが政治というものだ。

 

(11)「何より重要な点は、先に米国抜きでTPPを発効させることができれば、将来、米国が加入を求めてきたときに、既存参加国は結束して強い交渉態度で臨めることだ。米国抜きと言ったが、私は米国もいずれ(トランプ大統領後は)TPPに加入申請せざるを得なくなると考えている。TPPに入らないことで一番割を食うのは、米国であるからだ。例えば、日本が輸入する牛肉にかけている関税は、TPP加盟国のオーストラリア産やニュージーランド産が9%に引き下げられるのに対して、米国産は38.5%で据え置かれる。同じような関税率の格差が豚肉や小麦、乳製品など他の農産物についても発生するため、米国の農業界は大きな痛手を受ける」。

 

TPPが11ヶ国でまとまると、米国は「捨てたTPP」が魅力的に映るはずだ。日本が輸入する牛肉にかけている関税は、TPP加盟国のオーストラリア産やニュージーランド産が9%に引き下げられるのに対して、米国産は38.5%で据え置かれる。同じような関税率の格差が豚肉や小麦、乳製品など他の農産物についても発生するため、米国の農業界は大きな痛手を受けるはずだ。こうなると、トランプ氏は逆に窮地に立たされるであろう。米国の農産物や畜産物のシェアは、ほとんど他国に奪われてしまうのだ。

 

(12)「米国の農業界はもともと共和党支持層であり、これまで日本市場の確保とさらなる開放を強く求めてきた。TPP不参加で明白な不利益が生じれば、共和党中枢を突き上げ、TPP加入申請を強く求めることになるはずだ。そもそも、共和党は伝統的には自由貿易推進派である。米国がTPP加盟を求めてきたら、既存参加国は、強い交渉態度で臨めばいい。後から入る国の要求が通りにくいのは、国際通商交渉の常である。米国自体、例えば中国のWTO加入交渉で、そうした強硬な姿勢を取ってきた経緯がある」。

 

米国の方から逆に、TPPへ加入したいと言ってくるはずだ。米国が、日本をTPPに加入させるべく種々のアプローチをしてきた背景には、米国農業からの日本市場開拓理由が強かったのである。それが、トランプ氏の短慮で棒に振り、みすみす他国に市場をとられることになれば、一挙に「トランプ批判」へと結びつくであろう。こうなると、TPPを巡って攻守ところを変えるのだ。トランプ氏が慌てて日本へ接近する。

 

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(2017年3月27日)

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