中国、住宅バブル対処の能力不足「党幹部」に住宅売却禁止令 | 勝又壽良の経済時評

中国、住宅バブル対処の能力不足「党幹部」に住宅売却禁止令

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政策対応の限界超えた

ダッチロール現象入り

 

中国当局は困惑している。住宅バブルはさらに拡大するのは困る。そうかと言って、「急落」も困るという微妙な立場だ。急落すれば、2軒目、3軒目を買っている投機家に大損させ、住宅ローン返済が滞る。これは、銀行の不良債権を発生させて、中国経済を窮地に追い込む。ここで、編み出されたのは共産党幹部に投機用住宅の売却を禁止する通達を出すことだ。これにより、住宅価格急落を防ぎたい、というのである

 

世界広しといえど、共産党=政府官僚が率先して住宅投機に狂奔している国があるだろうか。庶民の住宅の夢を食らう点では、悪徳官僚のレッテルを張られて当然であろう。およそ、「公僕」という認識はない。国民を食い物にする、得体の知れない貪欲な「動物群」である。

 

政策対応の限界超えた

『大紀元』(10月18日付)は、「不動産バブル抑制、党員幹部は売却を禁止」と題して、次のように伝えた。

 

中国大都市の住宅バブルは、銀行の住宅ローンを利用するほかに、「影の銀行」からも資金調達して盛り上がっている。極めて不健全な現象だが、当局はGDPに寄与すれば「OK」という安易な姿勢で臨んできた。だが、当局の曖昧な姿勢は本格的な価格投機を招いており、住宅バブル崩壊後の反動が深刻な後遺症をもたらす。こういう懸念を深めるにいたった。

 

ただ、これ以上の値上がりは困るが、急落も困るのだ。当局にとっては、「高値横這い」が最も理想形であろうが、そのように上手くことが運ぶわけはない。もともと、値上がり期待で買っている住宅である。これからの値上がり期待を持てないとすれば、売却に出るはずだ。これが、投機の基本である。中国官僚が考えるほど、事態は甘くないのだ。値上がり期待薄は、同時に絶好の売却機会になる。相場とは、そういうものである。とくと、理解しておくべきことだ。

 

(1)「中国不動産市場のバブルを沈静化させたい中国政府は9月末、北京、上海など20の大中都市で住宅購入や住宅ローンの厳しい制限と土地供給拡大の調整政策を次々と実施した。この結果、多くの都市では住宅価格が大幅に下落した。ただ、社会不安を引き起こす価格の急落を防ぐため、中国当局は共産党の党員幹部に対して、不動産の売却を禁じることにした。9月末、各地でバブル抑制措置が実施された後、江蘇省蘇州市の住宅価格はこのほど4日間の間、1平方メートル当たりの2万2000元(約34万円)から1万3000元(約20万円)に急落した。約40%の急落に中国国民の間では、政府の抑制措置で自らが保有する不動産の価値も急減するのではないかとの強い不安が走った」。

 

江蘇省蘇州市の住宅価格は、このほど4日間で1平方メートル当たりの2万2000元(約34万円)から1万3000元(約20万円)に約40%もの急落に見舞われたという。たったの4日間で40%の下落である。この急落ぶりを見ると、いかに投機熱が酷かったかが一目瞭然であろう。当局はここまで、値上がりを放置していたのだ。

 

住宅市場は「狂乱状態」である。「中国の新築住宅販売額が9月に前年同月比61%増となった。不動産相場を落ち着かせようと政策当局が手を打っているものの、大幅な販売高増加が示された。  中国国家統計局が19日発表した統計を基にブルームバーグが算出したところによれば、9月の販売額は1兆2000億元(約18兆5000億円)。8月は33%増だった。住宅取引急増が不動産市場で広がり、9月後半には大都市で地元当局が規制を強化した」(『ブルームバーグ』10月19日付)。新築住宅販売額が、8月は前年比33%増。9月は同61%増と怒濤のような動きである。これが、6~9月のGDPを同6.7%増に押し上げた要因の一つである。

 

この後遺症は必ず出てくる。急落する前に住宅を購入した層は、明らかに大損を被った。住宅ローンを組んでいれば、これからどうやって返済するのか。人ごとながら同情する。当局の責任は重大だが、反省などするはずはない。保有住宅の評価益が下がったという程度の話しであろう。後のパラグラフに出てくるが、官僚は1人平均で10戸以上を保有しているのだ。彼らが、真面目に住宅投機予防の手段を講じなかった理由は、前記の「大家」意識にある。

 

(2)「米国の中国語ニュースサイト『博訊網』(15日付)は情報筋の話として、『中国当局内部では現在共産党の党員幹部に対して不動産の売却を禁止した』と報道した。この背景には、腐敗横行の中国共産党内で、多くの幹部は投機目的で1人10戸以上の住宅を持っていることになる。2013年に汚職、職権濫用などの罪で逮捕された鉄道部の劉志軍・元部長には374戸の住宅を保有していたことに、国民にショックを与えた。中国の住宅都市農村建設部の陳政高・部長は9月30日に行われた会議で、北京市など16の大中都市政府幹部に対して『急上昇した住宅価格は高い水準で維持すれば、経済発展や社会の安定だけではなく、国家安全までに脅かしていく』と強い警戒感を表したという」。

 

住宅都市農村建設部の陳政高・部長が発言したように、バブル化した住宅価格は経済的にマイナス要因になるだけでなく、国家の安全を脅かすことになるはずだ。すでに、その兆候が現れている。民間の抱える過剰債務は対GDP比で160%を上回っている。ちなみに、中国全体が保有する債務総額は、対GDP比で280%を超えたはずだ。こうした借金漬け経済の中国が、最後の砦である家計の健全性を脅かす住宅ローンの積み上げは、危険この上ない事態である。吊り橋の上で、どんちゃん騒ぎを演じているに等しい愚行なのだ。

 

国家の安全性を脅かす前兆としては、退役した元軍人(約1万人)が最近突然に、迷彩服に身を包み国防省前に現れたことだ。武器の操作に習熟し団体行動を得意とする彼らが、生活苦を訴え2~3キロにわたり抗議デモをやってのけた。北京市民は水や食べ物を提供して「歓迎」したという。これぞ、まさに「革命序曲」になりかねない光景であろう。これには、当局も度肝を抜かれたはずである。元軍人は600万人以上も存在する。この集団の動きは、政府にとって頭痛の種になろう。

 

(3)「不動産価格の急騰の主因には、中国実体経済の低迷、株、債券やファンドなどの金融商品の収益率の低下、中国政府による海外への資金流出措置や住宅在庫削減ための住宅ローン優遇措置で、莫大な投資資金がより高い収益を得られる不動産市場に集中したことにある。香港メディアは、2015年中国株式市場の大暴落により一夜で資産を失い国内多くの中流階級が消滅された。もし今年に、不動産価格の暴落があれば、住宅ローンを組んで高い価額で住宅を購入した多くの中流階級はまたも消滅されると懸念を示した。中国国民が反乱を起こしかねないとの見方を示された」。

 

中国の経済政策は、明らかに間違えている。膨大な外貨準備を積み上げて置きながら、人民元は管理変動相場制という変則状態にある。資本の自由化も認めず、先の膨大な外貨準備に見合う資金が、中国国内を徘徊しているのだ。この資金が、株、債券や商品ファンド、影の銀行、住宅などに流れ込んでいる。余剰資金は、昨年の株式相場暴落以降、証券市場を敬遠。流れ付く先は、ますます住宅や商品ファンド、影の銀行に集中している。この影の銀行に集まった資金は、住宅や商品相場を押し上げるという悪循環を描いている。

 

この混乱した状況を正常化するには、「大手術」が欠かせないのだ。自由変動相場制と資本自由化の実施である。先進国ならば、どこでも行っている政策だ。これによって、中国も「普通の国」になることである。ただ、中国には膨大なゾンビ企業を抱えているので、これら不健全企業を一挙に倒産へ追い込むと、中国経済は「地獄」に落ち込む。大量の失業者が街に放り出されて社会不安=国家危機を迎えるからだ。習近平氏にとっては、絶対に避けたい事態であろう。自らの「カリスマ皇帝」の座が怪しくなるためだ。

 

結局、中国は体質改善の政策はなにひとつ行わず、ジリ貧状態に陥っていくであろう。中国文明は、イノベーションに対して極めて臆病である。難局に遭遇したときの対処法は、前進するのでなく、自らが得意とする過去の手法に舞い戻るパターンだ。これは、儒教による「過去回帰」という過去の仕来りを重視する精神構造と重なっている。

 

この点が、日本と根本的に異なる。日本は過去の仕来りに固執せずに前進するパターンである。明治維新による西洋文明の全面的な取り入れ。太平洋戦争敗戦に伴う民主制度への転換などが、その好例である。

 

私の「バイブル」の一冊であり、このブログにはたびたび登場する、英国の歴史家アーノルド・トインビー博士は、『試練に立つ文明』(1948年)で次のように指摘している。一つの文明が他の文明と遭遇したとき、二つの対応法がある。一つは、「ゼロット派(狂信派)」。もう一つは、「ペロデ派」である。

前者(ゼロット派)は、未知の文明に遭遇することを嫌い、既知のものに逃げ込む人間である。自分よりも優れた戦術を用いる相手には、自らの伝統的な戦法で戦う「復古主義」である。相手の文明から学ぶという姿勢がなく、異文明との遭遇を回避して「安楽」な道を選ぶ習性がある。これが、中国文明である。これゆえ、4000年も同じ文明が変化なく、だらだらと続いているに違いない。

後者(ペロデ派)は、未知の文明に遭遇しても逃げ出さず、その未知のものの秘密を探り出して自家薬籠中にすることのできる人間である。強力な敵と対峙したとき自らの伝統的な戦法を捨てて、敵方の戦術を学んで抵抗する「世界主義」である。異文明との遭遇において犠牲を負っても、ものともせずに前進する習性がある。その典型例が日本や米国だ。中国に比べれば、変化の激しい歴史である。

ダッチロール現象入り
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月18日付)は、「中国住宅バブル 露呈する当局対処能力の低さ」と題して、次のように伝えた。

 

この記事では、中国の金融政策の目的が、先進国と異なっていることを指摘している。中国は、GDP下支えの目的で金融政策を発動している。不動産バブルが起ころうと、それが経済成長に寄与する、と判断している限りは手直しをしない。先進国の金融政策は景気調整が目的である。行き過ぎた景気はなだらかにし、落ち込んだ景気は下支えする。このように臨機応変に対応する。中国は一方的にブレーキを踏み続けており、その間、強いか緩いかの違いがあるだけだ。中国経済の混乱は、ここに淵源がある。

 

(4)「中国当局は最近、高成長の主なけん引役である不動産市場に融資を向かわせようとしている。不動産市場の供給過剰に対処する手段として、2015年後半以降、住宅ローンの頭金要件を緩和している。今年は不動産市場の堅調維持がこれまでになく重要になっている。中国指導部は国内総生産(GDP)成長率目標を6.5%以上に設定している。また、企業の債務返済能力に対する不安が高まる中、政府は同国の債務負担を家計に押し付けようとしている」。

 

中国経済では、6.5%以上の成長率が至上命題になっている。インフラ投資と住宅販売が欠かせない二本柱である。住宅バブルが起こっても目を瞑る。経済成長のためにはやむを得ないという判断である。ここで、「企業の債務返済能力に対する不安が高まる中、政府は同国の債務負担を家計に押し付けようとしている」と、極めて注目すべき指摘をしている。つまり、こういうことを言っているのだ。住宅在庫で多額の債務を抱える不動産開発会社を救済すべく、住宅価格を押し上げ個人に先行きの値上がり期待を持たせて、住宅在庫を捌いている、と指摘する。この結果、不動産開発会社の債務が、家計の住宅ローンに振り替わったのだ。これは巧妙な債務のすり替えである。この記事は見事に、このトリックを見抜いている。

 

(5)「住宅価格が手に負えないほど急上昇しており、当局はこれまで緩和しすぎていたようだ。当局は今、主要な沿海都市を中心に、大量の資金流入の抑制で大きな難題に直面している。 バンクオブアメリカ・メリルリンチによると、16年4~6月期に中国経済の広義の信用指標である社会融資総量で、住宅ローンなどの不動産向け融資は69%を占めた。14年1~3月期にはこの割合は22%にすぎなかった。不動産向け融資の約30%は、信託会社や資産運用会社といった銀行以外の金融機関によるものだった」。

 

社会融資総量とは、通常のマネーサプライなど通貨統計のほかに影の銀行などを総括した融資総量である。これによると、16年4~6月期は住宅ローンなどの不動産向け融資は69%を占めた。14年1~3月期にはこの割合は22%に過ぎなかった。この間、2年余で3倍強に膨れあがった。中国人民銀行は、この融資実態を把握しながら、これまで何らの手も打たずに傍観していた。習近平氏の強い指令を受けていたのだろう。

 

(6)「格付け会社フィッチ・レーティングスのアジア太平洋地域金融機関担当責任者マーク・ヤング氏は、『当局が資金の流れをコントロールする能力は今までより重要になっている。コントロールできない影の銀行システムによって手に入る融資が増えている』と指摘した。 中国各地の都市はここ数週間、頭金の引き上げや2軒目の不動産購入の回避策などの規制を強化している。理想を言えば、当局は北京、上海、深センでは厳しく規制するが、中小都市では融資を利用できるようにしておきたいと考えている」。

 

影の銀行は、金融当局のコントロールを外れている。年利10%以上の金利で資金を集めて、住宅バブルの「燃料」役になって投入されている。問題は、一般の金融機関が影の銀行へ資金の出し手になっていることだ。住宅バブルの崩壊は、影の銀行の回収を困難にさせて、一大金融パニックを引き起こすと警戒されている。それを示すのが、次の記事だ。

 

『ブルームバーグ』(9月21日付)は、次のように伝えた。

 

「投資銀行CLSAは9月20日にまとめたリポートで、中国のシャドーバンキング(影の銀行)は、3750億ドル(約38兆2390億円)の損失発生につながる恐れがあると試算した。CLSAは『銀行関連のシャドーファイナンシング』の予想される不良債権比率を16.4%、金額にして4兆2000億元と推計。その回収率を40%と想定すると、2兆5000億元の損失が発生する可能性がある」。

 

「同社アナリストの張燿昌氏はリポートで、『シャドーファイナンシング(影の金融)は、利益を守るために規制の回避を目指す銀行がその拡大を主導していることを考えると、銀行改革の失敗を意味する。シャドーファイナンシングは急成長しており、リスクの高い業界への与信経路であるにもかかわらず、暗黙の政府保証で恩恵を得ている』と指摘した」。

 

中国の金融パニックは、いまその入り口に来ている。住宅バブルが下支えを失って暴落すれば、影の銀行の資金回収は著しく困難になる。ここへ貸し込んでいる銀行も連鎖倒産に巻き込まれかねないのだ。考えれば、中国最後のバブル崩壊が住宅価格を混乱のルツボに放り込めば、後は「金融破裂」であろう。ここから始まる中国経済の混乱については、もはや言及するまでもない。

 

(7)「バンクオブアメリカ・メリルリンチのストラテジスト、デービッド・ツイ氏は、『それは(注:大都市での住宅ローン規制)短期的に有効だが、地方政府が規制を続ける動機は弱い』とし、地方政府の土地使用権の売却収入や税収が減るためだと説明した。中国の住宅価格は1990年代後半以降、おおむね上昇し続けており、当局が不動産市場を崩壊させることは絶対にないとの見方が広がっている。ツイ氏は、今でも『人々は暗黙の保証があると信じている』と述べた」。

 

現在、大都市での住宅ローン規制が行われているが、中長期的に継続不可能と見られるという。地方政府が住宅価格値上がりを背景に土地を払い下げ、その差益を歳入源として繰り入れているからだ。これを知っている国民は、「当局が不動産市場を崩壊させることは絶対にない」との見方をしている。これが根強い「不動産信仰」を蔓延させている理由だ。だが、経済原理から見て、永遠の値上がりはあり得ない。いずれ、暴落に転じるはずである。その引き金は、中国の総債務残高が膨張しきって破裂する時だ。すでに、その限界を超えている。危険ゾーンに入っていることは疑いない。中国リスクからは、できうる限り遠ざかる。これが唯一の防衛術に違いない。

 

(2016年10月27日)

 

増刷になりました:拙著『サムスン崩壊』(宝島社発行 定価・税込み 1402円)がご好評頂き、増刷となりました。厚くお礼申し上げます。拙著が予言するような形で、サムスンの「技術的欠陥」を指摘しました。新型スマホは発売早々に、爆発事故を起こし生産中止です。サムスンは、日本の半導体技術を窃取し、円高=ウォン安をテコにして急発展した企業です。ぜひとも、本書をお読みいただき、韓国企業発展の原点をご確認くださるようにお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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